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怠惰とそれからうさぎの夢……ゆめ?

ゼクト(トーリの兄)の話。未だに口調が定まりきらないNo.1。しかし兄弟の中で最も怠惰というところだけはブレない。猫側も驚きのブレなさ。


今回も頭の中は真っ白に、読む前も途中も後も細かいことは気にしないでいただけると幸いです。



ここは帝国。

大陸の中心。


そんな場所では、人・金・物を回すべく、現皇帝の子供から曽孫に至るまでがその部下共々忙しく働いている。


かくいう僕もその1人。


「ゼクト様!?あの書類の山は今日中にダイル様にお届けするって言いましたよね!?」

「わかってる、わかってるよ。見たには見たんだ。でもサインするの疲れたんだよ」


僕の従者は今日も働き者だなぁ。そんなに真面目にやらないで、肩の力抜けばいいのに。大おじほどサボってるつもりはないけど、兄弟達の中なら僕は1番うまく休憩を挟んでる自覚はある。


「欠けてたりしたら次の会議でセイン様から質疑を受けたときに躱しきれないと心得てください。と、トーリ様から伝言をたまわりました」

「わー、トーリやっさしい!」


僕、次は何についての調査報告でねちねちいじめられるんだろう。いや、穴だらけと言うほどではないけど、調べるのが面倒な所とか誤魔化して報告してる僕も悪いかもしれないんだけとさ。

でも、僕が省いてるのは言わなくても分かることとかなんだよ?流石に報告しなきゃダメな事は分かってるって。やる所はきっちりやる。それが僕!


…やらなくてもいい事は一切しないって突っ込まれた。僕の従者、僕に厳しくない?



「はあ、やる気なくした。ちょっと出かけてくるねっ」

「ゼクト様!!!」


僕の超得意な魔法、移動魔法を発動。どこにいこっかな。トーリの所はこの間追い返されたしな。その後の晩餐の時、アイスピックをもらった。何でか分からないけど寒気がしたね!

ダイルは多分今大祖母様の所だろうし却下。大祖母様に捕まったら、流石の僕も得意魔法じゃ逃げられない。セインは考えるまでもない。よし、


「ティアにしよ」


思った時には目の前にカティアの部屋のドア。いやー、他の兄弟達のところなら部屋に潜り込んでもいいけど、カティアのところはダメだよ。女の子の部屋だもん。最悪の場合、僕は1週間程度日の目を見れないかもしれないじゃないか。


竜の尾を踏むような真似、僕はしない。絶対に。


「カティア〜」


声掛けと同時にドアを開く。ノックはどこだって?いやぁ、従兄妹(きょうだい)だもの。カティアは許してくれるよ。はっはっは。



「…あれ?いない…」


カティアの部屋は護衛も含めて空っぽ。外に出かける用事は無かったはずだけど。

…となると、"庭"かな?


僕は入ってきた扉と対面するように設置された扉に手をかけて、躊躇う事もなく開け放った。うん、やっぱり少しひんやりするなぁ。


扉の外に出れば、高い青空が広がってる。

少し視線を下げれば芝生と色とりどりの花々が咲き乱れる庭園がある。カティアの魔法で枯れることもない、永遠に続く花園なんだよ。


少し奥まで進んでいくと、カティアだけに与えられた離宮が見えてくる。お茶してたらお菓子貰ってお昼寝しよう。


「ゼクト様、いらっしゃいませ」


離宮に入る前にワゴンを押すメイドが見えた。僕に気づくと直ぐに礼をとる。うんうん。流石、よく躾けられてるね。


「ん。カティアいる?」

「はい。姫さまなら修練場の側に」


おっと、丁度今からお茶の時間かな。いやぁ、良いタイミングだね!僕!メイドはこれからキッチンに向かうみたいだから、僕の分も頼んでから修練場を目指す。


それから何回かカティアの侍女やら騎士やらとすれ違った。何か、違和感。


飼い主と犬はよく似るって言うけど、カティアの侍女やら騎士たちは、仕事をサボり気味の僕を見るときは大抵"またか"っていう呆れを浮かべながら対応してくれる。

…けど今回は、なんというか、呆れというより…もっとこう…。


「あらゼクトおにい様」

「カティア!遊びに来ちゃった」


カティアは軽くまとめていた髪を下ろして、侍女たちが用意した椅子に座った。僕の分の椅子も用意してくれてある。


「お仕事の方は落ち着きましたの?おにい様方が進まないと呟いておりましたけれど」

「ん?大丈夫!皆優秀なんだから、僕が休み休みやっても平気だって」


あ。カティアも呆れた顔。サボりの現行犯の時はいつもだけど。でも、カティアもいつもとちょっと違う気がする。


「カティア。なんだか今日は皆僕を微妙な目で見るんだけど…。呆れられてるのはいつもの事としても、なんかおかしくない?」


聞いちゃった方が早いよね!というだけの気持ちだった。


「いつも呆れられているのをわかっていながら改善の兆しがないおにい様も流石ですわね」

「僕は反省も後悔もしてないよ!別に呆れられても平気さ!楽しいことだけしてたいけど、それはダメだからちゃんとやらなきゃ怒られる事だけはやってるからね!」


ダメ野郎と言われてもいい。僕は長い人生を楽して生きられればそれでいい。その為なら、侮蔑程度甘んじてうけようじゃないか!


「お待たせ致しました」

「わぁー…い…?」


さっきすれ違った侍女がワゴンを押してる。その上に乗っているのは、ティーセット。それはいい。問題は、その後ろをついてきている騎士たちが4人がかりで運んでいる籠。その中に入っているのは大量の野菜。


「…えっと、アレ何?」


カティアは笑顔でおやつです。と答えた。おやつ、おやつかあー。……何の?


その時、僕の身体が何かの影に入った。背中側に何かいる。ふわっともこっとしてるそれに包まれて、なんだかとっても気持ちがいいのにどうしたことか寒気が止まらない。


「…か、カティア?その、今僕の後ろに何がいるのかな?」

「うさぎです。とても可愛らしいでしょう?お母様が贈ってくださったの。"北"の希少種の中でも獰猛で有名ですが、変わった個体でとても人懐っこい子ですわ」


うさぎ、北、獰猛、カティアの母親からの贈り物という単語から連想するに、品種名ジャイアントラビット。雑食オブ雑食。鋭い爪も牙も無いけど、北に多い獰猛な動物たちの中でもトップクラスに入る危険動物。


…あの人、なんてものを実の娘に贈ってるの!?


で、でも人懐こいっていうし、何よりカティアも落ち着いてるし、大丈夫…


「ただ、お気に入りのこの子を"こちら"で飼育しているのには理由がございまして」

「へ、へぇ…!ナニカナッ…?」


カティがあの微妙そうな顔をしている。


「種族的には雑食のため、人間や他の動物を無闇矢鱈に食べる可能性もありました。ですから、お母様が、"怠慢な者は許可無しで食べてよし"と躾けましたの」


あ。これマズイ。と直感して、理解する。カティア達のあの微妙な顔に浮かんでいたのは、憐憫だ。理解と同時に、視界が真っ暗になった。





「……ト…!」


うーん…。


「ゼク……!!」


なに…。うるさい…。


「ゼクト様ッ!!!」

「わあっ!?」


従者の声で飛び起きた。というか、恐怖で。食われた?かじられた!?生きてる?僕生きてる!!?


「何サボって寝てるんですか!この書類の山、今日中に目を通さないと大変なことになるんですよ!?」

「え?…えー、…ああ、それは、ダイルに渡す奴だっけ…」

「そうです!分かっているなら早くお願いしますね!?私は殿下方に会議の資料をお渡ししてまいりますので!」


従者が部屋を出て行った。


「はぁー…。アレ、夢か」


よかったぁああ。安心して脱力。そうだよねぇ、自分の子供にあんなんあげるなんて普通ない無い!いやぁ、よかったー!


と、言うわけでカティアの暇つぶし相手しに行こ〜。


僕はカティアの部屋の前に魔法で移動して、ドアを開けて、中にいなかったから外に出て、庭園の一角を通りがかって綺麗な花々を見て白くてふわふわした大きな生き物がこっちを見……。






(その後数日間、帝国の中心である王城では珍しい景色が見られた。


サボり魔、怠惰王子と名高いゼクトが、一心不乱に朝から晩までペンを離すこと無く机に齧り付いていたらしい。


周囲はやっとやる気になったのかと様子を見ていたのだが、睡眠も取らずに鬼気迫る様子で仕事をし続ける彼に対し、危機感を募らせ休むように告げても止まる事はなく、止めようとすると


「僕がウサギの餌になってもいいの!?」


と、狂乱し手がつけられなかったという。


暫くして限界が来たのか倒れ、寝室に担ぎ込まれたものの、それから数週の間倒れては魘され、起きては狂ったように仕事をするという様子が見られた。


半月も経てばある程度落ち着いたものの、未だに悪夢にうなされているという…)



そんな"報告"を受けた弟は、可愛い従妹(いもうと)に問いかける。


「その子は母君からの贈り物ですか?」

「ええ」

「…主食は?」

「野菜です」


…ですが、怠惰を食べるそうですよ。と、彼女は笑った。


読了ありがとうございました!



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