第二章 その2
さて、夕輝たちの事務所。
彼らが町の治安を守っている組織である以上、それなりの……ものなのでしょうか?
「ここが雄飛町超常的不可思議事件対策特殊部隊本部事務所――なのか?」
「そう、ここが私が所長を務める、雄飛町超常的不可思議事件対策特殊部隊の本部事務所だ! ここでこの街に起こるありとあらゆる不可思議な事件を取り扱い、我々は日々、市民の安全と平和のために働いている!」
「……なんていうと、なんかすごい建物の気もするが」
実際は御覧の通り。
誰がどう見ても普通の一軒家である。そんな無駄に文字数を稼ぎそうな、長ったらしい名前がついた凄い建物には見えない。
一応、ここがそういう事務所だと示すものとして観基が作った看板もあるにはあるのだが、仮にそれを見たところでこの建物をそういう凄い建物だと思う人はいないだろう。
まあ、そもそもその看板は地味な上に植木の陰に隠れていたりするので、発見できる人がいるのかどうかがまず疑問なのだが。
それはともかくとして。
この建物、観基の自宅も兼ねていたりもする。
観基はこの家を、自分で稼いだお金を使ってローン無しで購入しているのだ。
観基の年齢(俺よりやや年上らしいので、二十代半ばぐらいだろうか? そういえば正確な年齢を尋ねたことがない)で、この家を一括払いで購入したと考えると、たしかに凄い建物ではある。
が、それは「世間の常識では凄い」であって、この建物に観基がつけている無意味に長い肩書きが連想させる〈凄い〉とは別ものだ。
更にいえば、観基がこの家を購入するために稼いだお金は、例のごとく、エスパーの能力を使ってギャンブルをすることで得ている。
なので稼いだこと自体も凄いのかどうか、ちょっと怪しい。
いや、なんというか、エスパーという存在そのものだけなら事務所の肩書きにふさわしい凄さなんだろうが。エスパーがギャンブルで稼いでいるというのは〈凄い〉ではなく〈せこい〉に変ってしまう感じがするのだ。
やっぱり、例え「自分の能力で稼いでいる」といっても、エスパーの力をつかってギャンブルをするのは反則だと思う。
「イカサマはバレなければイカサマとは言わない」とはいえ、やっぱり、エスパーがその力を使ってギャンブルをやるのは正しくはないだろう。
いや。
それとも相手も〈ギャンブルに有利な能力を持った超能力者〉だったりするのだろうか?
あるいは相手が人の命さえも賭けに使うようなヤツらなので、観基は容赦していないとか。
……今度、この辺りを、本人から詳しく聞いてみることにしよう。
などと俺が考えている間、釉美さんは事務所の様子をあちこち、あれこれ窺っていた。
そして、
「ここが〈本部〉というには支部があったりするようなそれなりの規模の組織なのだろう? それにしては、ここには私たち以外の気配がないのだが……?」
と、疑問を口にする。
この事務所を見て、まだ俺たちのことを〈何か大きな組織に属している人達〉と思っている辺り、彼女はかなり純粋というか、いい人なのかもしれない。
だが、このまま誤解されたままでもやりにくい。
仕方がないので俺は、
「それが釉美さん。そういうのは無いんだよ。観基が『これから先、隊員が増えたら街の他の場所に支部も作ろう』とかいって、一応、ここを本部って名付けたんだけど、実際は支部とかはなくて、隊員も俺たちしかないんだ」
と、釉美さんの想像をぶち壊すような説明をする。
まったく、観基も誤解を招くんで、無駄にスケールのでかい名前なんて、こんな事務所として一応つかっているだけの普通の民家につけないで欲しい。
俺の回答に、釉美さんは「なるほど」と一応は納得したのだが、すぐに。
「それじゃあ、どうやって二人だけで街を守っているんだ? ここに向かっているときに観基さんから聞いたけど、ここは怪事件が発生しやすい一種の『パワースポット』らしいじゃないか。そんなところをたった二人で守れるものなのか?」
という新たな疑問を投げかけてきた。
「その『パワースポット』のおかげかな。大抵の場合、この街に関する事件は大事になる前に、私が察知できるんだよ。まあ、たまに私たち二人では手に負えそうにないレベルに事件が発展していることもあるけど、そういう時は私の人脈で応援を呼べるから大丈夫」
答えたのは俺ではなく観基。
しかし、その言い方だと俺があんまり役にたっていないような感じがする。
「なるほど、この街が平和なのは観基さん、あなたのおかげということなのか」
いや、だから俺もいるんだって。
俺もこの街の平和維持に貢献しているんだって。
……と、言いたかったが、その一方、俺がこの仕事に携わるようになる前は観基がほぼ一人でこの街を守っていたという事実もあるし、何より観基の能力がこの仕事において要であることは否定できないので、「街が平和なのは観基のおかげ」という意見は強ち間違いではないのだった。
「しかし、街を守るか……この世界にも私と同じような仕事をしている人、いや、人たちがいたなんて、どこの世界も変らないものだな」
あ、言い直してくれた。どうやら釉美さんは俺の存在に気がついてくれたらしい。
……じゃあなくて。
「同じような、仕事?」
「ああ、私も自分の世界では住んでいる街を――」
「二人とも、まあ、とりあえず中でお茶でも飲みながら話さないか?」
俺と釉美さんの話を中断させながら、玄関を開ける観基。普通に「ただいまー」といいながら中に入っていく辺り、やはりこの建物は「事務所」というより「観基の自宅」という説明の方がしっくりくる感じなんだが。
あの肩書きは、一体何だったのか。
まあ、もう、あまり気にしないことにしよう。
☆ ☆ ☆
さて。
釉美さんが、今回、こちらの世界にやってきた件の概要はこうである。
まず、さっき俺たちに対して「同じような仕事」といっていたように、釉美さんは向こうの世界で自分の住んでいる街を守る仕事をしているらしい。
「もっとも、私の場合は君たちとは違って、道場で先生をする、副業としてだけどね」
と、釉美さんは言っていたが、何でも、彼女の家系は先祖代々街を守ってきているのだという。
その事を考えると、俺たちよりも釉美さんの方がより〈本業〉なのかもしれない。
で、その釉美さんが守っている街。
その街の上空にある日、まるで特撮で地球侵略をしに来た宇宙人が、宣戦布告をするために映し出す立体映像のようなものが出現した。
その立体映像には、これまたそういう特撮作品でありがちな奇抜な服装や、得体の知れないメイクをした人物が映し出されていた。
この、映像に映っている人物が「愚かな地球人どもよ!」とでも演説を始めればまさに特撮作品のワンシーンにしか見えない状況に、街の住民は近いうちに自分たちの街を侵略されるのではないかと不安と恐怖の念を抱いた。
そして、その想像は、〈住民達がそれを想像したこと〉によって現実のものとなった。
まず、不気味な映像に恐怖を覚えた人々。
彼らが街を去った。
次に、映像を一目見ただけではそこまで恐れなかった人々。
彼らも〈常に街の上空に得体の知れない顔がある〉という不快感によって徐々に街を去っていくようになった。
更に、それらのことで人が急激に減ったことによって生じる不便さによって街を去る者も現れた。
結果、街に何らかの強い思い入れがあるような人々を除いて住民がほとんど引っ越してしまい、釉美さんの住んでいる街は急激に過疎化が進んだ。
そのため、地価も一気に下がった。
そして、これを狙って、安くなった土地を一気に買い占めに走った〈集団〉がいた。
この集団。こうやって一から丁寧に説明してしまえば〈立体映像に関係のあるヤツら〉なのはいうまでもない。
だが、土地を購入しに来たとき彼らは当然のことながら怪しい服装やメイクなんてしていなかったし、そもそも集団ではなく個人で訪れているのですぐには気がつかれなかったのだ。
この〈不気味な映像で地価を下げて、その後買い占める〉作戦は、釉美さんの住んでいる街で上手くいったことをきっかけに、彼女の住んでいる国の各地で行われるようになった。
結果、〈集団〉はその国の財界・政界に強い影響を与えるまでになったのだ。
どうやら、土地を買い占めることができれば、主要な産業地域や観光地を押さえたり、選挙で有利になったりできるので、結果としてそうなるらしい。
この点に関して、釉美さんはもっと細かいことまで説明してくれていたが、俺は一回聞いただけではこの程度までしか理解出来なかった。
観基はわかったように頷いて、あれこれ質問していたけれど。
まあ、ともかく。
この事態を解決するために、釉美さんは各地にいる彼女と同じような仕事をしている人々と連携し、怪しい映像の発信源が自分の住む街のとある建物に存在することを突き止め、そこに乗り込んだ。
そして、その建物の最深部で〈集団〉の中心人物を発見した。
だが、彼は既に自分の存在が誰かに発見される可能性を考え、異世界移動装置を身につけ、逃走準備をしていたのだった。
いきなりここで異世界移動装置が登場するのは突飛な気もするが。
釉美さんが調べたところによると、どうやら彼らのボスは俺達の世界にいる科学者に研究資材などを提供している見返りとして、先に登場した立体映像投影装置のような高度な技術で作られた装置を手に入れていたらしい。
つまり、〈集団〉の計画はそもそも異世界と接触できるようになってから立てられたものなので、彼らのボス側から見れば〈ピンチになったら異世界に逃げる〉というのは当然の判断だったということになる。
話を戻すと。
追い詰められたボスはその異世界移動装置を利用して、俺たちの住んでいる世界に逃走した。
釉美さんはその移動の際に、取り押さえようとボスに飛びかかったので一緒にこの世界に飛ばされて来たのだという。
ただし、無理矢理異世界間移動に介入した彼女は、ボスとは異なる場所に飛ばされてしまったのだそうだ。
この世界に飛ばされた後、釉美さんはボスを捕らえ元の世界に帰るために、ボスの居場所を探し出そうとした。
こういう事態の為に持っていた貴金属の類を売却して手に入れた資金と、彼女が所有する携帯型情報機器に入っている様々なデータ、そしておよそ一ヶ月の期間を費やして、ついに釉美さんは俺たちの住んでいるこの雄飛町の郊外にある研究所にボスがいることを発見し、そこに踏み込んだ。
しかし――
(続く)
釉美による事情説明のラストでこの回は終わっていますが。
研究所に乗り込んだところに、果たして何があったのか。
それは次回のお楽しみってことで。




