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ヘンタイはタイヘンだ  作者: 窓井来足
第一章
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第一章 その1

この小説は。ヘンタイとタイトルにはありますが。

エロや下ネタはほぼ無い作品ですので、そういうのが苦手な方もご安心ください。


……え? ではどういう変態が出てくるのかって?

それは読んでからのお楽しみという事で。

 テレビの画面や映画館のスクリーンの中で大活躍しているような、悪を懲らしめ、人々の笑顔を守る正義のヒーロー。

 そんなものにいい歳して本気で憧れているヤツなんて果たして一体、この世界にどれだけの数いるのだろうか?


 なんて、ふと疑問に思ったのだが。

 よくよく考えてみると案外いるのかもしれない。


 まあ、もちろんヒーローオタクみたいなヤツのことは例として挙げるまでもないが、そのほかにも。


 例えば、そういうヒーローが活躍するような作品の制作に携わっているような人たちには当然、ヒーローに対する憧れを抱いている人も多いだろう。

 あるいは、子供の頃に憧れたヒーローに影響されて今就いている仕事を選んだような人――確か前に、警察官とか宇宙飛行士でそういう人がいるとか聞いたことがあるけれど――彼らは今でもそのヒーローに憧れていたとしてもおかしくはない。

 後は……自分の子供がヒーロー番組を見るようになったのをきっかけとして、子供の頃に抱いていたヒーローに対する気持ちが甦ったというような親もいると思うし……


 他にも様々な理由で〈大人になってもヒーローに憧れているヤツ〉というのは結構存在しているはずだ。


 で、そんな中でも忘れてはいけないのは。

 実際に人々を脅かすような未知の存在と戦ったり、人知を超えた摩訶不思議な事件を解決しようと日々奮闘している、世間の人から見ればまさに「テレビや映画の中にいる(あるいは中にしかいない)正義のヒーロー」に当たるようなヤツらである。

 彼らもやはり自分の〈理想のヒーロー〉に憧れ続けていて、そしてそれを目指して日夜努力しているのだ。


 で、この俺、緋暮夕輝(ひぐれゆうき)もそんな世間から見ればヒーローのような仕事をしている人間の一人だったりする。


 ……なんて言ってもまだそういう仕事を始めて一年ちょっと。

 一般世間は勿論のこと、一般ではない世間でも語られていない、マイナーで無名の、言ってしまえば〈ヒーローの卵〉とか、その程度の人間だ。


 こんな俺でもいつかは人々の間で語り継がれるような、立派なヒーローになりたいと思っているのだが……なれるのだろうか?


 この仕事を始める前は「誰かが助けを求めたり、どこかで誰かが叫んでいたら急いで駆けつけるような立派なヒーローになる」と迷い無く宣言していたような俺だが。

 最近〈人々を救う〉だとか〈正義を貫く〉ということの大変さが仕事を始める前に比べてより一層身に染みてきたこともあって、正直に言ってしまえばちょっと自信がないのだった。


 いや、仕事を始める前からヒーローオタク的なところがあった俺は、〈正義とは何か〉とかそういうことを真面目に考えたり、そういうテーマを扱った本を読んだりする機会も多かったんで、仕事として本格的に〈正義〉というものと向かい合えば様々な困難にぶち当たるというのは重々承知し、覚悟していたつもりだったのだが。

 実際に働いてみてから正義について再び考えると、働く前にしていた程度の覚悟ではとてもレベルが足りないんじゃないかと思うようなことが多々あったとか。まあ、そんな感じだ。


 自分をこの仕事に誘った相棒からは、「こういう仕事に関わっている人は新人の頃、大抵はそういう仕事に関しての悩みを抱える。そして、それを悩んだ人の方が将来的には良い仕事をするものだよ」とか言われて励まされたりもするのだが。

 そんなこと言われたところで、悩みがなくなるというワケでは当然のことながらないのだった。


 もうこの際、昔からなりたかったような〈強くてカッコいいヒーロー〉になれなくても構わない。「情けなくて駄目っぽい、コメディ作品に出てくるような三枚目」みたいのでも、ちゃんと仕事として続けていけるのならそれでいいとさえ、最近は考えているぐらいだ。


 ん?

 いや。よく考えてみると。


 俺がそういうコメディなヒーローでいられるような社会、別の言い方をすればコメディなヒーローでも解決できるような事件しか起らないような社会なのなら、世間としてはそれに越したことはないのか。


 俺が昔から憧れていたような〈強くてカッコいいヒーロー〉が活躍するためにはそれに釣り合うような凶悪な敵が出現したり、危険な事件が発生しなければならないワケで。

 そう考えると〈コメディ作品に出てくるようなヒーローで解決できるような事件しか起こらない社会〉というのは別の視点から見れば〈物騒な事件が発生しない社会〉ということだから、理想的な平和な社会だとも考えられる。


 世の中はそういう、大した事件も発生しないようなのどかな状態の方がいいに決まっている。


 ……が、しかし。

 そんなこといっても現実はそういう理想の世界にはなっていない。


 コメディのヒーローでは解決できないようなシリアスな難件があちこちに転がっているというのが現状だ。

 今だってこの世界、この国、いやそこまで範囲を広げるまでもなく、この街にだって困っている人や悲しんでいる人、不安や恐怖に怯えている人が俺が気がついていないというだけで大勢いるのだろう。


 一人でも多く彼らを救うために、俺には一体何ができるのだろうか?


 ……人々に俺を呼び出すための防犯ブザーみたいなアイテムを配布するとかはどうだろう?

 いや、それはお金が掛かりすぎて非現実的か。

 仮に俺の守っているこの街の住民にだけ配るとしても、果たしてどれだけの費用がかかるものか。


 というか、そんなこと考えるまでもなく。

 今着ている仕事着を作るのにかかった費用を払い終えるまでは、そもそもお金のかかる方法で人々を救うのは俺にはまず無理に決まっている。

 この服、色々とこだわり、防刃防弾性や耐火性、耐水性、機動性、発汗性、保温性、柔軟性その他様々な性能を詰め込んだせいで馬鹿高くついたし。

 しかもその上、相棒から「どう考えても趣味にしか思えない。特にデザインが」とか言われたので経費から出してもらえず、結局自腹で払うことになってしまったからなあ……。


 ヒーローとはいえ、人々を守るのにはお金が必要というのはホント、中々シビアな問題だよなぁ。


 まあ、でも。

 仮に俺がものすごい金持ちで、街中の人間にブザーを配布できる資金力があったとしても、実際にそういうことを行ったりはしないだろう。

 そういうものを配ったら悪用される怖れもあるし、それに「とりあえず人に頼ればいい」みたいな人間の弱い心を助長してしまうかもしれない。


 人々のために行ったことが、悪人に利用されたり、人を堕落させたりする。

 これもまた、この仕事をしていればぶつかる、難題の一つだ。


 おそらく、この手の問題は〈正義の味方〉を目指すものにとっては一生付きまとう、切っても切れないものなんだろう。


 なんて。

 こんな解決できない問題が山積みな毎日なワケだが。それについて、いつまでもああだこうだと考えているだけでは無意味だろう。

 とりあえず俺にできることは今日も明日も明後日も、目の前の問題に全力で挑み続けることぐらいだ。

 よし、これからも頑張ろう。


 とまあ。こんな感じで。

 俺は〈正義の味方〉や〈ヒーロー〉、あるいは今後の自分のあり方についてなんかを特に脈絡もなくぼんやりと考えながら、日課としている朝のパトロールを行なっていた。


 すると、その時だった。


「ちょ、ちょっと! 困ります!」


 という女性の声が俺の耳に飛び込んできたのは。


 ……いや。

 この様子を物語として描いた場合、読者から「ヒーローについて考えていたら、すぐに助けを求める声が聞こえるなんて、いくら何でもご都合主義過ぎないか?」とか批判されるかもしれないが。


 俺はいつもパトロール中にこういう「正義とは何だ?」みたいなことを考えているんで。

 今回はたまたま、そういうことを考えている最中に事件が起きた。それだけのことだったりするのだった。


 そんな言い訳をするとそれはそれで読者から「パトロール中にそんなこと考えていていいのかよ」などと指摘されそうだが。

 そもそも、こういうことを考えるきっかけが「この街の平和を守るにはどうしたらいいか」なので、むしろパトロール中だからこそ考えているのだ。決して仕事中に仕事と関係のないことを考えているワケではない。


 まあ確かに、いつもならさっきみたいなことを考えた後に、〈カッコいい変身ポーズ〉とか〈必殺技の名前〉なんかを、いつかそういう力を手に入れたときのイメージトレーニングとして考えていたりしていて。

 そこまでいくと「仕事とはまったく関係がない」と指摘されてしまうのかもしれないが。

 考えていることが膨らんで、当初の目的からややずれてしまうことぐらい誰だってあるだろう。

 少しぐらいは大目に見て欲しい。


 まあ、それはいいとして。

 話を戻すと。

 とりあえず女性が助けを求める声が聞こえたということだ。


 この声。

 口調や、その内容からしておそらく〈やや強引な客引き〉とか〈怪しい団体のしつこい勧誘〉に対して上げた声であって、決して〈強くてカッコいいヒーロー〉が駆けつけなければならないようなレベルの凶悪犯罪とか、大事件の類に巻き込まれている人が助けを求める叫び声などではない。


 だが、だからといってさっきまで「立派なヒーローになる」などと考えていた俺が、事件の大小にこだわって、助けにいかないなどということをしていいワケもない。


 当然、俺は声の聞こえた方に向かって走り、駆けつけようと試みた。

 しかし、実際に現場に駆けつけはしなかった。


 何故なら。

 その現場にいた、そいつ。

 声を上げた女性――ではなく、その女性に迷惑をかけている一人の男。

 そいつは、あまりに、あまりにも奇妙なヤツだったので。

 果たして俺はそいつの前に飛びだして行ってもいいのか分からず、とりあえず様子を窺うことにしたからだ。


 この判断から俺を「散々ヒーローがどうとか言っておきながら、実際には咄嗟の行動もできないような臆病なヤツ」と見下すか。

 あるいは「不審な相手に対していきなり飛びだしていかないとは、ヒーローがどうとかいっているだけの熱血馬鹿かと思えば冷静な判断もできるのか」と評価するかはまあ、人それぞれだと思うけど。


 俺はどんなに勇敢なヤツ、あるいは無鉄砲なヤツがこのときの俺と同じ状況に置かれたとしても、やはり俺と同じように様子を窺ったんじゃないかと思う。


 何というのか。

 そいつの異質さは「勇気があれば立ち向かえる」とか、そういう方向性とはまるで別物だったのだ。


(続く)

と、まあ。ヘンタイが登場するのは次回なのですが。

ええ、とにかく変ですのでご期待ください。

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