第9話 まさか過ぎる校外学習
(さて…いよいよ当日だな)
翔は、いつになく気合を入れて朝支度をしている。自分が提案した校外学習な上に、確実に成功させなければならない。朝のニュースもきっちり確認する。
(行くか)
支度を済ませ、部屋を出ると
「お…おはよう…翔」
「ああ、おはよう。カナ。」
少し浮かない顔のカナが待っていた。
「その…えっと…なんていうか、わざわざありがとう…」
「気にしなくていいさ。」
2人はいつも通り、教室へ向かう。
「皆さん、おはようございます。今日は午前中の授業のあと、午後から校外学習です。昼休み中に、決められたバスに乗り込んでくださいね。後、今回の校外学習には生徒会長が同行します。また、行先では生徒会長ならびに樟葉君の指示に従うように。」
担任のサキが発表するが、案の定、クラスの反応は良くない。当の翔は全く気にせず、スマホで取引に集中していた。
(今日は時間全然取れないから、せめて午前中だけでも稼いでおかなきゃな)
昼休み、翔はカナに声を掛ける。
「カナ、行くか」
「うん…」
「私も一緒に行くわ」
レイカも加わる。3人はバスに乗り込んだ。既にハルカも乗り込んでいる。
「さてと、席は自由だ。桜木はカナを頼む。俺は会長と打ち合わせあるから。」
「わかったわ」
翔はハルカと、カナはレイカと座る。
「翔と隣合わせ…嬉しいな…」
小声でハルカが囁く。
「そうか?」
「うんっ…」
「すまん…少し寝かせてくれ…」
「ゆっくり休んで…」
やはり疲れが取れていない。翔はそのまま眠りについた。
「カナ…大丈夫?」
レイカはカナを心配する。
「大丈夫だよっ。」
やけに明るい。
「カナ、樟葉君と何かあった?」
「んー…土曜日、一緒に出かけたよっ」
「随分、発展してるのねー」
「えへへ…♪」
何はともあれ、カナが笑っているのでレイカも一安心する。バスは都内に向けて出発していく。
「そう言えば、どこに行くか分からない校外学習って初めてよね…」
レイカが不安げに話す。
「まぁね…ミステリーツアーって感じだよね。でもま、翔が計画したんだし大丈夫だと思うよっ」
「でも…今回の校外学習を期に、クラスが変わってくれなきゃ意味がないんだけど…」
「アハハ…私は翔を信じる」
「私も樟葉君を信じてるわ…」
2人は翔を信じているが、他の者は全く信用していなかった。
バスは都内に入り、とある高層ビルの地下駐車場に入っていく。
「さて、着いたな」
翔がバスを降りる。2年生全員も降りて整列する。
「学年主任の三島です。ここから先の指示は生徒会長と樟葉君に従って下さい。」
サキが全員に呼び掛ける。しかし、生徒達は明らかに嫌そうな表情を浮かべている。
「…大丈夫なの…?」
ハルカが翔に耳打ちした。
「ま、任せとけって」
特に気にしている風ではない。至って冷静だ。
「んじゃ、とりあえず全員俺についてこいよー」
適当に呼び掛けて入口に向かう。渋々全員従う。
「いらっしゃいませ。樟葉様。」
スーツを着た若い女性が丁寧にお辞儀して挨拶する。
「悪いな。こんな無茶な頼み聞いてもらって。」
「いえいえ。樟葉様のお願いならば、全面的に協力するよう言われております。ご案内いたしますのでどうぞ。」
「ああ、頼む。」
おおよそ高校生の会話とは思えない。翔は普段と変わらない態度で話しているが、相手は大人だ。
「ちょっと…何あれ…」
「樟葉君って何者なの…?」
「ちょっと怖い…」
皆、ヒソヒソ声で話す。
「どうぞ。こちらです。」
若い女性がドアを開けるとそこには、巨大な金属製の扉がある。
「ようこそ、おいでくださいました。お待ちしておりましたよ。樟葉様。」
若い男性が待っていた。
「ありがとな。んじゃ、始めるか」
そう言って翔は生徒達の方へ向く。
「あの…樟葉君。そろそろここがどこか説明して下さいね…?」
ハルカが流石にといった表情で問う。
「もちろん。まぁ皆はこの金属扉を見ても何だか分からないだろうな。でもここは誰もが一生のうち必ず来る場所の地下だ。」
「必ず…来る場所…?」
「そう。ここはCTF銀行東京本店の地下金庫室だ。」
その言葉に全員が凍り付く。
「CTF銀行って…中央東京フィナンシャル銀行よね…メガバンクの…」
流石にハルカも面食らう。
「その通り。で、こちらにいるのが…」
「皆様、ようこそいらっしゃいました。私はCTF銀行東京本店、店長の天満宮日と申します。樟葉様には毎度お引き立て頂いており、いわゆるお得意様でございます。」
完全に全員がフリーズする。教師陣も何も言えない。銀行の本店長など、一般人は見ることすらない。
「ま、本店長には無理を言って校外学習の見学先として地下金庫室を見せてくれって頼んだんだ。セキュリティ上、ここは普段は使わない予備だそうだ。」
「樟葉様のお願いとあらば、この天満、全力で協力いたします!」
現実がぶっ飛び過ぎていて誰も何も言えない。
「樟葉君…一体なんで、本店長と…?」
ハルカがようやく口を開いた。
「なんでかって?それをまず教えてやるよ。んじゃ天満さん、金庫開けてくれ」
「かしこまりました。少々お待ちを」
天満がハンドルを回す。他に数人、スーツ姿の部下が手助けする。しばらくして、金庫室の扉が開いた。
「どうぞ、こちらへ」
天満の案内で中へ入る。翔と生徒達も続く。そこには札束が積み上げられていた。
「え…なにあれ!?」
「お金!?」
皆がざわつく。
「皆さん、静かに。」
ハルカが注意する。
「さてと、皆この札束見えてるよな?で、これ幾らだっけ天満さん?」
「はい、樟葉様の預金も一部を現金で用意するようにとのご指示でした。ここには総額4億円用意いたしております。」
そのセリフに皆が再び凍り付いた。額が桁違い過ぎる。さらに預金という言葉に引っかかった。
「樟葉君…まさかこれあなたの預金なの?」
レイカが尋ねる。
「その通り。これ全部俺の金だ。俺が稼いだ俺の金だ。」
すると、
「わざわざ授業時間潰して金の自慢とかなんなの!?」
「どんだけ趣味悪いのよ!」
「最低!」
皆が不満を漏らす。
「ちゃんと意図を説明して?樟葉君」
ハルカが促す。このままでは収拾がつかない。
「ぶっちゃけ額はどうでもいいんだ。別に1000円でも良かったんだが、金のインパクトを知ってもらいたいからあえて大手メガバンクの金庫室で4億円を御開帳というセッティングをした。本題はここからだ。この中で自分で生きる金稼いでる奴は何人いる?」
そのセリフは皆を一瞬で黙らせた。
「いる訳ないだろうな。生活費全てだ。家賃や学費から食費、光熱費、交通費などなど。じゃあお前らはなぜ今の生活ができるんだ?」
誰も答えない。
「親が稼いでるからだろ?親が仕事して働いた金でお前らは生きてる。言っておくがその事実は皇のお嬢様だろうが変わらない。同じだ。」
反論は出ない。全くもって事実だからだ。
「俺は親が早くに亡くなった。中学の時は何とか乗り切ったが、高1の頃は生活費なんてなかった。でも最後に残った金全部使ってFX初めて儲けた結果がこれだ。お陰で銀行の店長とも知り合いになれたし、生活は余裕だ。俺に文句言いたい奴は、まず自分の財布見てからいいな。そこに入ってる金はお前らの働いた金じゃないんだぞ。」
「それでも…なんで樟葉君が本店長とそこまで仲が良いの?4億程度なら法人取引で幾らでも動く額じゃない?」
レイカらしい質問が出る。
「それは私からお答えします。樟葉様は高校1年生の頃、わずかな資金を元手にいわゆる荒稼ぎをなさりました。そのお金をたまたま当行へお預け頂いたのが始まりです。個人かつ高校生で1億ほどの預金をして頂き、私も少し興味が湧きました。この若さでこのスキル。私は大いに可能性を感じております。これからも大いに腕を振るって頂き、当行をお引き立て頂ければと思っているのですよ。」
「じゃあ…樟葉君はこの銀行にとって…儲ける道具なの…?やっぱ銀行って反吐が出る…」
レイカがしかめっ面で言い捨てる。
「桜木。お前、大企業の娘なくせにアホか?」
翔が突っ込んだ。
「どういうことよ!あなたはこの銀行の犬にされてるのよ!?」
猫耳と尻尾をピンと立てて反論する。
「銀行が儲けようとして何が悪いんだ?銀行に儲けてもらってもっと融資してもらって世の中の金の流れを生み出してもらわなきゃ、ここにある4億が紙きれになるかもしれないんだぜ?」
「でも…あなたはいいように利用されてるだけ…」
「違うな。銀行は俺を利用している所は否定しないが、俺だって銀行を利用している。金を預ければ利子もつく。銀行は預かった金で新たなビジネスに打って出られる。」
「それでも…」
「俺は犬なんかにはならない。50対50でないと話に乗ることはない。俺は儲けた金や運転資金も全部この銀行に任せている。それは銀行にとってメリットなわけだ。しかも俺は若いから、先が長い。この年で億単位の取引持ちかけてるんだぜ?銀行からしたら涎垂らして欲しがる」
「それはそうと…樟葉君…4億もあるならもうちょっと学校生活真面目に送ろうと思わないの?」
サキが切り出す。これには皆も頷く。
「はぁ…あのな。サラリーマンの生涯年収が2億から3億だ。これを考慮すると、残りは1億ちょっとしか残らない。もし俺や俺の大切な人に心臓移植が必要な事態になったらどうするんだ?場合によるが平気で億単位の金が吹き飛ぶ。」
「…」
反論が思いつかない。
「あるいはハイパーインフレでも起きたらどうする?億あっても飯食えないかもしれねーぞ?何が言いたいかっていうと、金は必要な時に必要な額がなけりゃただの紙くずなんだよ。備えあれば患いなしって言うが、なけりゃ患いだらけって事だ。」
「守銭奴なのね」
サキが吐き捨てた。
「何とでも言えばいい。俺はあんたなんかよか稼いでるからな。何でも金で解決できるとは言わないが、金がなけりゃ解決できないものがある。だから俺は貯める。もちろん、適度に使うが」
「そこまでお金に固執するなんて…」
サキがため息まじりに言い放つ。
「てめぇみたいなクソ教師に言われたかねーんだよ…金が足りないだけで、大事な人亡くした俺の気持ちなんざ分からねーだろうよ。金さえあれば助かった。でも足りなかった。請求書の額面に満たなきゃ、命も守れない。気持ちや愛も人間には必要だが、まずは金がなけりゃ守りたいものすら守れないんだよ。そんなことも分かってない連中が多いからここに連れてきた。」
絶対零度の怒りを感じさせる翔の声はサキに深く刺さった。レイカやカナ、ハルカは涙を流している。
「こんな風に現実は残酷で冷たい。後から後悔する前に1円でも多く稼ぐ。それが俺だ。お前らは親という守護者がいるから安心かもしれねーけどな?俺は自分で稼がないと誰も守ってはくれない。そういう訳だから、俺が学校で金稼ごうが誰も文句言うなよ?言いたいなら俺よか成績取って、俺よか稼いでからにしな。質問あるやついたら聞いてやる。」
「じゃあ私から…もし大切な人が居たら、今なら守れると思いますか?」
ハルカが静かな声で尋ねる。
「ああ…もし今俺に恋人が居たら、一生守ってやるよ。金の心配はしなくていい。だから俺の精一杯の愛情をくれてやるさ。でも、今は誰とも付き合う気はないけどな」
その言葉はかえって生徒達に火をつけてしまった。
「え…樟葉君と付き合えば一生遊べるのかな…?」
「お金に困らないって最高じゃん!」
「やだちょっとカッコイイかも…」
ヒソヒソ声で話す生徒達。
(ああ、これぞ現金な女ってやつなのかねぇ…)
翔は内心呆れていた。
(諦めないもん…!)
(ここで諦めるわけないじゃない!)
カナとハルカは本気と書いてマジと読む方の火がついていた。
「じゃあこれにて解散とする。各自バスに乗ってくれ。俺は店長と後片付けあるから」
翔は生徒達を解散し、宮日とともに金庫室に残った。
「悪いな、天満さん。いろいろと」
「いえいえ。世の中の学生にはまだまだ樟葉君と私のいる世界は早いという事ですよ」
「違いねーな。それと怪しい動きはあったか?」
「いえ、特にありませんでしたよ。」
「ま、さすがにこんな場所で何かやらかしたらバレるわな」
「にしても…シャ・ノワール学園、素晴らしい…」
「んー?あんた猫耳とか好きだっけ?」
「当然ですよ。可愛いさはプライスレスです。日々億単位のお金を扱っていますが…あの猫耳と尻尾を持つアストレアたちにはお金で測れない可愛さがありますよ!」
「俺も同意見だ。そーいや学園のメインバンクもここだったけど、アレ調べてくれたか?」
「ええ。ここでは何ですし会議室へ行きましょう。」
「だな。」
2人はCTF銀行東京本店ビル最上階の会議室である資料を見ている。
「さすが樟葉君、稼ぐ才能はまさに経理の才能とも言えるけど…」
「やっぱ予想通りかー…」
「シャ・ノワール学園は全アストレアに対して門戸を開いているから学費も割安。しかし、教育内容は私立の一般的な学園を超えている…」
「財務状況がヤバすぎだな…典型的な自転車操業か…」
「こちらも融資はしてきたけどこれ以上は…」
「そりゃそうだろ…よく今まで貸してたな…」
「日本政府が出資している都合もあってね…」
「あー…そういう…メガバンクって大変だな…」
見ている資料はシャ・ノワール学園の財務資料。まさに赤字で、いつ破綻するか分からないのだ。
「正直、個人的には学園なんてどうでもいいんだが…あそこ潰れるとアストレアの居場所無くなるからな…」
翔の懸念は決して絵空事でもない。
「アストレアは一般の学校も通えるけど、それでは問題になるんだったね?」
宮日が確認する。
「イジメだよ。つーかシャ・ノワール学園内でもイジメあんのに、一般のとこ入れたらもう予想するまでもない…」
「今回の校外学習でイジメ問題は解決するんじゃなかったのかい?」
「50%解決するってとこだろな?」
「じゃあ残りは?」
「首謀者突き止めない限りは終わらんだろ」
「…何というかお金扱ってる方が楽な気がしてきたよ…」
「同感だな…別にヤラシイ事考えてるわけじゃなくって」
「お金は正直だよね、うん。お金を通じて色々分かる」
「ほんとそれな…」
2人は意気投合しているが、問題の解決策を考えねばならない。
「とりあえず、シャ・ノワール学園を潰すと可愛いアストレアの居場所が無くなる。それに政府も黙ってないだろうし…」
「政府が金出すってとこが引っかかる。アストレアの社会的地位向上なら公立の学校などに投資するべきだ。なのにわざわざ三セクにして学園を作ったんだ…?」
「多分、全額出すと国立になっちゃうからそれを避けたかった…?」
「ていうことは…国立じゃマズい訳だ。多分、表向きは国が支援してアストレアのイメージアップ政策を実施しているってしたいんだろうな」
「でも裏が見えないね」
「そこらへん、銀行ネットワークで探ってくれないか?」
「やってみよう。そういうことは任せてくれ。」
「んじゃ俺はシャ・ノワール学園の赤字を何とかするか…」
「なるべくこっちも協力するけど…」
「分かってるさ。銀行は銀行らしくしててくれ。」
「そう言ってくれると助かるよ。」
「面白くなって来たな。マジで」
「君のそういう顔、高1の時以来じゃないかい?」
「かもな…高1つっても最初は精神的に死んでたが」
「…そうだね。」
「世の中所詮金…とは言いたくない。それを言ったらあいつに会わせる顔なくなる。でも、まずは金を準備して盤石な態勢で臨む。そうじゃなきゃ結局後で金に泣くんだからな」
「樟葉君は背負っているものが大き過ぎるかもしれない…」
「日本の経済背負ってるだろあんたは」
「お互い苦労するね」
「全くだな。んじゃ、俺はそろそろ学園に帰る。またなんかあったら電話するからな、天満さん」
「いつでも歓迎するよ、樟葉君。私としてもCTF銀行としても」
翔は銀行を出て、学園に戻る。
「またあんたか。何の用だ、三条さん」
「いえ、樟葉さんは中々恐ろしい方だと思っただけですよ」
「そうかよ。」
「ハルカお嬢様がお呼びです。生徒会室までお越し下さい。」
「わかった」
生徒会室へ入る翔。ハルカとレイカ、カナが待っていた。
「なんだ?揃踏みか?」
「翔!」
カナが叫ぶ。
「へ…?どうしたカナ…?」
「翔…」
「え…?は…ハルカ…?」
「樟葉君いつの間にか、ハルカとカナを篭絡してたのね?」
レイカが突っ込む。
「人聞き悪い言い方するな。ていうか何がどうなってるんだ」
「どうもこうもないよ!帰りのバスで、レイカに会長がどうやったら翔ともっと近くなれるか相談したって聞いたから…」
「あー…そういうパターンか…」
いわゆる修羅場である。
「ねえ翔…カナちゃんより私よね…?」
「翔…会長となんて…私でしょ!?」
2人とも譲らない。
「はー…俺は誰とも付き合う気はないって言っただろ?だからカナもハルカもイーブンだっての。つーか、俺と付き合いたいなら金以外の全てを俺が納得しなきゃいけないわけだ。ぜってーしねーな」
「それって…もしかして…」
レイカが少し不安げに聞く。
「ああ。俺が守れなかった奴だ。どんな奴でも…あいつには叶わない…」
そう言う翔はやはり寂し気だ。
「でも諦めないもん!」
「カナちゃんに負けるわけにいかない!」
2人は全く引く気がない。
「ま、諦めないって言うなら頑張ってみな。」
少し余裕を見せる翔。
「じゃあ私はカナにつこうかなー?ハルカはアドバンテージあるし、私がカナを支えるわ」
レイカがカナの肩に手を添える。
「れ…れいかぁ…ひどぉい…」
ハルカがお子様っぽい声を出す。
「つーか、桜木とハルカって仲良いのな?」
ふとした疑問を投げる。
「そりゃ私とハルカは同い年だし、大企業の娘と名家の娘って似てるから気が合ったの。でも私体弱くてねー留年しちゃったから」
あまり気にした風でもなく答えるレイカ。
「なるほど。ま、ダブろうが気にしなくていいんじゃね?学校の為に死んだらバカらしいし、個人の体調なんか心配しないのが学校だからな。」
「バカにしたりしないんだ…大企業の娘が留年っていい恥さらしってよく親にも怒られたのに…」
「桜木は桜木なりに頑張ったならいいだろ?俺は俺なりに頑張って生きてる。学校なんてのは卒業しちまえばただの通過点になるんだ。1年くらい遅れたからって何なんだ?そんな事気にする位なら、日本の明日を心配しとけってこと」
「…ハルカもカナも樟葉君が好きになっちゃう理由が見えた気がするわ…私もなんか…まんざらでもないし…」
少し恥じらうレイカ。
「ちょっとレイカ…私を支えてよ…!?」
カナが憤慨する。
「ま、とりあえず校外学習は終わったが、明日から第二段階だな」
翔が話題を変える。
「第二段階…?」
ハルカ含め、全員が聞き返す。
「首謀者を特定する。」
「でもどうやって…?」
ハルカが心配する。あまり無茶な真似はして欲しくない。
「ま、そこは任せな。」
翔がニヤッと笑う。
「ま、樟葉君なら任せても大丈夫ね」
レイカは賛同した。
「私も…翔の事を信じる…」
カナも乗った。
「じゃあ、特定したら報告お願いね?」
ハルカも賛成する。
「分かった。んじゃ、俺は部屋戻るから。今日はお疲れさん」
こうして、異例づくしの校外学習は幕を閉じたが、同時に騒乱の幕が開く瞬間でもあった。