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第16話 無いものはお金と時間!

 

 翔が副会長に就任した事で、当然自身にも仕事が舞い込む。


 「翔、こっちの書類どうなってるかしら…」


 「それ全部もう検印してある。今、レポート纏めてるところ」


 「へ…早過ぎでしょ…」


ハルカは翔のあまりの手際の良さに驚いていた。


 「樟葉君、こっちのファイルなんだけど…」


 「そっちは修正箇所ぜんぶ朱筆入れたから」


 「は…はい…」


 「結構お前サボるから修正多いぞ」


 「…うっ…」


レイカは専務、翔は副会長なので序列は翔が上だ。しかもハルカ以上に厳しい。


 「全く…朱筆入れるこっちの身にもなれよな…あーハルカ、俺の分の仕事終わったから何かあったら声掛けてくれ」


余裕を見せる翔。そのまま持ち込んだノートパソコンで取引を始めた。


 「翔が異様に手際いいのって…時間作ってFXやる為だったりする…?」


恐る恐る尋ねる。


 「そうだけど?でも俺は文句言われるような仕事はしてないぞ?サボってもないし」


ぐうの音も出せない正論。


 「でも副会長決まって良かったわ…すごく助かる。」


ほっと一息ついて椅子にもたれるハルカ。


 「ハルカって…忙しくなりすぎるとキャラ豹変するものね…」


レイカの表情は何かに怯えたようにも見える。


 「そうなのか…あ、200万儲かった。」


会話に乗りながらサラッととんでもない事を言う。


 「さ…さすが翔…」


この流れには最早、慣れつつある。すると、生徒会室へ誰かが入ってきた。


 「会長…」


どこか疲労感を漂わせるような物言い。翡翠色のセミロングヘアも時間がないのかちゃんとセットされていない。

 

 「ルリちゃん…!?どうしたの!?」


ハルカが心配と驚嘆が交じった声で立ち上がりながら叫ぶ。


 「これ…見て」


ルリが見せたのは財務状況報告書だ。


 「ま…マズイわね…」


意気消沈してしまった。


 「どうしたハルカ?」


翔が横から報告書を覗く。するとルリは警戒心剥き出しで報告書を閉じた。


 「いや…俺副会長の樟葉だけど…?」


 「…」


名乗っても完全無視である。


 「あ…えーとね…この子が監査の更科ルリちゃん。私以外と話すのが苦手みたいで…」


 「なるほどな」


ハルカの解説で納得した。ルリは口を閉ざしたままだ。


 「それでね…赤字は赤字なんだけど…このままじゃ不渡りが出るのも当然なんだけど、職員への給料も払えないのよ…」


 「積立金とかないのか?」


 「使い果たしてるわ…」


 「会長…一応、90%カットなら給料を支払うことだけは出来そう…」


ルリが試算を示す。


 「なぁ更科、その金は元々何に使う金なんだ?」


不安になって翔が聞いてみる。


 「…」


しかし、ルリは口を開かない。


 「ルリちゃん…どこから出したお金?」


ハルカが促す。


 「元々は融資の返済用。当然、手を付けたらいけないけど…現状、教師陣黙らせないと返済とかの話する前に学園が破綻しちゃいそうだから…」


今度はキッチリ答える。


 「へぇ?流石、監査だけあって結構考えてるんだな」


翔は素直に感心していた。


 「…」


やはり、口を閉ざすルリ。


 「ありがとね…ルリちゃん。後はこっちで考えるから、また何かあったら教えてね?」


 「分かった…じゃあまた…」


ハルカにはちゃんと受け答えする。ルリはそのまま、生徒会室から出て行った。


 「なぁ…ハルカ…更科ってハルカ以外にはああなのか…?」


 「そうね…私以外の子と話してるの見たことないわ…」


 「おいおい…でもまぁ…監査としては優秀みたいだが…」


報告書を見ながら翔がぼやく。


 「もしかして教師陣は…給料の不払いを予見してるのかな…」


 「もしかしなくてもそうだろうな…ストライキとかの原因も大抵は賃金や待遇改善絡みだしな…」


 「どうしよう…」


 「まず聞きたいんだが…この学園はパッと見、かなりの金持ちに見える位豪華だ。なんでそんなに金がないんだ?」


根本的な疑問だ。しかし、核心を突いているともいえる。


 「最初の建設で政府の補助金が潤沢に出たからね…その割には学費が安いから…」


 「なるほどな…でも、生徒数は相当多いだろ?それでも足りないのか?」


 「経費が掛かりすぎててね…」


 「ただの浪費だろ…」


身も蓋もない言い方だ。


 「ここは企業じゃないから、取締役会で相談ってわけにもいかないし、株主総会もないけど…桜木みたいに企業の娘がいるならもうちょっとマシな運営できたんじゃないのか?」


レイカにも話を振る。


 「それがね…最初は黒字だったのに、どんどん赤字が累積して、私が入った時にはもうジリ貧だったわ…」


レイカの猫耳と尻尾が悲しげに垂れ下がる。


 「おいおい…それは…」


 「とりあえず…時間がないわ…どうしよ…」


ハルカの表情は見るからに焦っている。


 「ま、金がないなら稼ぐしかないんだが…」


翔は落ち着いている。


 「そんな簡単に言うけど…」


 「いや稼ぐ方法はFXで良いんだけどな?」


 「…なるほど。翔なら…」


妙に納得するハルカ。


 「でもな、まずは経営努力が先だ。支出減らさないと稼いだって結局出ていくだけだしな」


 「確かにそれは言えてるわ」


レイカも賛同する。


 「で、支出を簡単に減らす手段と言えば?」


レイカに尋ねる翔はニヤニヤ笑っている。


 「…リストラね」


レイカも不気味な笑みで答える。


 「つまり、俺らに盾突く奴らはクビにすりゃいいわけだ」


 「でも先生居なくなったらどうするの!?」


ハルカが憤慨する。


 「いや中途採用すりゃいいじゃん。」


何を言っているんだ、という表情であっさり答える。


 「…」


最早言い返す言葉が見つからなかった。


 「とりあえず、生徒会公示で依願退職を募る。それ以外にも無駄なコストを削るぞ。急がないと時間がない。やられる前にやらなきゃ学園は終わりだ。」


翔が呼びかける。


 「分かったわ…とりあえず、レイカ。生徒会役員全員集めてきて!」


ハルカが指示を飛ばす。


 「了解よ」


直ぐに出て行った。


 「後はシオリも呼んだほうがいいな…」


そう言いながら、翔は校内放送のマイクのスイッチを入れる。


 『おーい、シオリ。俺だ、翔だ。大至急、生徒会室来い。』


 「え…それ…いいの!?」


内容は分かるが言い方があまりにも放送らしくない事にハルカは目を丸める。


 「伝わりゃいいんだよ。とりあえず、カナとマキも呼ぶか」


そう言いながら携帯でメールを出す。


 「そんなに集めてどうするの?」

 

 「とにかく人数集めて、人的ソースと情報ソースを確保だ。風紀委員会と保健委員会は予算規模大きいしな。他の委員会は事実上死んでるし。あとはカナは寮長として来てもらう。」


 「他の委員会は予算カットで生徒会の傀儡になってるのよね…」


 「それが生徒会の業務増加になってるって訳か…とにかく、今はこの危機を乗り越えないと学園の明日はないぞ」


 「うん…」


 「とりあえず、俺は集まるまで休む。」


そう言って猫耳ヘッドホンを装着して目を閉じた。


 しばらくして、生徒会室が賑わう。


 「翔、皆来たわよー」


ハルカが肩を揺らして起こす。


 「ん…じゃあ始めるか…」


ヘッドホンを外して、ゆっくり立ち上がる。


 「ていうか!翔!私たち呼び出して何するつもりよ!しかもあんな呼び出し方されたら…その…恥ずかしいじゃない!」


シオリが不満そうな声を上げる。


 「まー焦るなって。とりあえず、やるべきなのは学園の財務状況改善だ。皆に集まってもらったのは、学園内で無駄に金使ってそうな部分を指摘してもらう為だよ。」


 「なるほど…それを言えば、やはり紙代ですよ。社長。」


ヒビキが真っ先に意見を出す。


 「ごもっともだ…だが、ペーパーレス化する資金が全くない。そこで、購入する紙はなるべく安いものを選ぶ。さらに裏紙利用を促進する事。纏まった資金ができたらペーパーレス化するからな」


 「分かりました。」


 「学園内の節電を進めるのはどうかしら?誰もいなくても明かりつけてたりするし…」


レイカが提案する。


 「いいだろう。使わない場所はとにかく消灯。さらに空調もオフだ。ブレーカー落とせそうなら落としてくれ。それから電気買うのを電力会社じゃなく安いとこに変えよう」


 「分かったわ。」


 「保健委員会で調達する物資のコストを下げれないかな…」


マキもここぞと案を出してきた。


 「確か、保健委員会は専門科目で看護・医療を選択している者はある程度、医薬品を提供できたよな?」


専門科目と言うだけあって、医療分野となると研修医以上のスキルを備える生徒もいる。保健委員会はまさにメディック集団なのだ。


 「もちろん。薬剤師の資格を持つ子もいるわ。」


 「よし、医薬品はなるべくジェネリックを使ってくれ。後はAEDの配置数はそのままでいい。必要な機器もケチらなくていいぞ。命や体は金で買えないからな」


 「わかったわ。出来るだけ頑張る!」


保健委員会は予算規模が大きいが、むやみやたらと削減すると後でしっぺ返しが怖い。


 「風紀委員会としては、必要装備の調達価格を下げたいわ…!」


シオリも削減には反対していないが、これくらいしかコスト抑制できそうな部分が見当たらなかった。


 「なるほど…主に不審者対策として使ってるものか…普段はどこから仕入れてる?」


 「指定業者よ?学校用品の」


 「…学校用品じゃない気がするが…」


 「最近、私立では風紀委員会とかに持たせる例が増えてるのよ」


まともな学生生活すら送ってこなかった翔にとって盲点だった。


 「なるほど…これはアキバの知り合いに頼めば半額位で同じの買える。連絡先教えるから、仕入ルート変更な」


 「わ…わかったわ!」


ここは素直に従うシオリ。


 「寮長としてなんだけど…」


 「忌憚なき意見を頼むぜ?カナ」


 「寮の電気代…翔がべらぼうに高いのよ…」


これは物凄く言い辛い事だった。翔がなぜそんなに電気を使うかは皆がもう知っている。


 「ちょっとカナ!それはその…かわいそうとは言わないけど!アンフェアじゃないの!」


シオリが猫耳と尻尾をピンと立てて反論する。


 「まぁまぁ、シオリも落ち着けな?俺は会社を持ってる訳だし、俺の部屋で消費される電気代は俺に請求してくれていいぞ。ついでに、太陽光発電パネルを俺の予算で屋上につける。余剰電力はタダで寮に回すから使ってくれ。これでどうだ?」


 「ま…まぁ?翔がいいっていうなら…いいわよ!」


シオリは引き下がる。


 「ごめんね…でもありがとう…」


カナもほっと胸を撫で下ろす。


 「じゃあ…私からも。職員賞与カットでどう?」


 「それは…どうだろな…反乱招くぞ」


翔としては穏便に行いたい。


 「え?ここ企業じゃないし、事前告知無しで予算計上しないでおくの。この学園では生徒会の決定が絶対なんだし?」


これにはその場の全員が固まった。時々、ハルカは冷酷なアイデアを立案し、本当に実行してしまう。


 「ハルカ…その猫耳と尻尾の可愛さとは裏腹に結構ダークなんだな…」


 「そんなこと無いにゃ?」


あざとくとぼける。しかし可愛い。


 「でも、いいだろう。それ採用な。」


そう言いながらハルカの猫耳を撫でる。


 「嬉しいにゃ~…」


あっさり甘えん坊モードになってしまった。


 「で、肝心の監査たる更科はアイデアないのか?」


一言も話していないルリに問いかける。


 「会長…借金に関してですが、過払い金の返還請求が出来そうです」


翔は無視し、ハルカに話す。


 「えーと…それで負債を圧縮するのね?」


元に戻ったハルカが確認する。


 「はい。これも支出を抑えるのに一役買うかと」


 「他にはある?」


 「食堂の営業取りやめはどうでしょうか?」


さらっと生徒全体に関わる案件を持ち出す。


 「うーん…流石にそれは…」


戸惑うハルカ。


 「俺は賛成だな。」


翔は構わないと考えている。


 「どうして?」


ハルカが聞き返す。


 「学園食堂は値段が高い上に味も大したことない。生徒の利用率は10%ないんだ。大半は弁当もしくは学園前のコンビニを利用する。だから営業停止でいいだろ」


 「ふむふむ…」


 「同じ理由で売店も営業停止でいいだろうな。100均あるのに誰が使うんだよって話だ」


 「確かに…分かったわ。ルリちゃんの案に賛成よ。」


 「分かりました。」


ルリはそのまま生徒会室を去った。


 「さてと…これで内部的な対策は出尽くしただろ。他にアイデアある奴いる?」


 「空地売却しちゃいましょ?」


レイカがすかさず提案する。学園の敷地は広大だが、空き地もかなり多い。固定資産税はバカにならない。


 「それは場当たり的対処だ。どうせなら空き地をビジネスに活用して収入増やそう」


 「でもどうするの…?」


 「まー任せな。」


そう言うなり、スマホを取り出す。


 『もしもし?』


 『やあ樟葉君、どうしたんだい?』


CTF銀行の宮日と打ち合わせる。


 『学園の空き地にさ、支店出してくれね?』


さらっとトンデモナイ提案をする。


 『あーいいね。あそこら辺に支店出す計画はあるんだけど、土地なくてね…』


 『よーし。具体的な資料は後で送るから、頼むぜ』


 『了解だよ。明日に会議あるからそれまでに頼む』


 『任せな』


電話を切る。


 「よし、CTF銀行の支店を誘致した。」


そのセリフに全員が凍る。


 (出た…樟葉翔名物、銀行パワー!)


 「とりあえず、一旦解散して各々の仕事に戻ろっか?」


ハルカはもう慣れたようだ。すぐに仕切り直す。その後、生徒会室に残ったのはハルカと翔のみになった。


 「ねぇ…翔」


 「なんだ?」


 「この学園、守れるかな…」


実は内心、不安でもあった。


 「大丈夫だ。皆で頑張ればどうとでもなる」


 「不思議…翔が言うと安心する…」

 

 「そうか?ただまぁ…長期ビジョンで見ると不安はあるけどな」


 「え…?」


 「俺は、この学園は普通の学校としておくのは勿体ないと思っている。」


 「もしかして、何かビジネスでも起こすの?」


 「まぁな。アストレアの為の学園ってだけで知名度はあるしな。それに、いずれ一般人も入れるつもりなら、まずはビジネスで白星あげる事で壁が取り払える気がする。」


 「壁…」


 「ああ…俺は一般人な上に男だし、銀行にもコネあるから立ち回り様もあるけど…これからビジネス起こしていけばアストレアがどんどん前線に出てくるわけだ」


 「アストレアと一般人は法の下に平等だけど…現実って厳しいわよね…」


ハルカの表情が哀しみに満ちる。


 「ああ…調べたけど、一般企業でも管理職にアストレアが就く例はベンチャー企業は別にして稀なんだ。」

 

 「やっぱり…この見た目のせいね…」


ハルカは自分の猫耳を撫でる。アストレアの大半は自分の見た目に一度は嫌気がさすという。


 「やはり見た目的な理由で就業人口もサービス業が圧倒的。正規雇用割合が高いとも言えない。だから、新たなビジネスを起こした時に差別されかねないんだ。特に企業間の取引においてはな」


 「翔は可愛いって素直に言ってくれるし、学園では周りも同じアストレアだし…過ごしやすいけど…私も本家ではね…レイカも同じ…」


 「だろ?だから不安なんだ」


 「でも…翔ならきっとどうにかするって信じてる」


 「おいおい…楽観的だな…」


 「アストレアが社会進出できるようになっては来たけど…まだまだ差別は多い。でも翔はそれを覆しそう…」


 「期待し過ぎだ。でもま、出来ることはやるつもりだよ」


 「ありがとう…♪」


翔はその日、部屋に戻って悩んでいた。


 (なし崩し的に、俺の進む方向が決まってきているが…本当にこれでいいのか…?でも今は、学園を立て直さなきゃいけないしな…)


自分の行く先にはっきりした目標が定まらない。それでも今やるべき事がある。ある種の葛藤だった。


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