第17話 倹約の成果
生徒会で財務状況改善策を話し合って実行して数日経った。たかが数日されど数日。
「すでに改善の傾向が見られるな」
翔は生徒会室でパソコンを見ながら呟いた。
「逆に言うとそれだけ無駄遣いしてたって事よね…」
ハルカがげんなりした声でこぼす。
「まぁそうだけど、結果が出ているのは良い事だ。」
ここは前向き志向でいるべきなのは自覚していた。2人が仕事を続けていると、ドアを開けて入ってきた者がいた。
「会長…」
「あらルリちゃん、どうしたの?」
「改善予測報告書です」
「あら、ありがとね。助かるわ」
「仕事ですから。ではまた」
短いやり取りに抑え、ルリは出て行った。
「なぁハルカ」
一連の流れを見ていた翔が声を掛ける。
「なぁに?」
「更科ってなんでハルカとしか話さないんだ?」
至極当然の疑問である。
「それがね…私にも分からなくて…私も話すっていってもさっきみたいな業務的な会話だけだしね…」
「そうなのか…あまり感情は出てないが可愛らしいのに勿体ないな」
「むぅ…翔は私のだもん」
むくれるハルカ。
「いや俺は誰のでもないぞ…?」
「私のだもん!あげないもん!」
お子様っぽくなっている。どうやら甘えん坊モードだ。
「よしよし…」
頭と猫耳を撫でる。翔も慣れてきた。
「ありがとにゃ~」
猫声は何回聞いても飽きない。可愛すぎるのだ。
「で…報告書の中身は?」
話を元に戻す。
「予測通りなら、黒字化達成できるけど…空き地の活用が鍵みたい」
ハルカも元通り。
「なるほど。とりあえずCTFの支店はここに来るって言ってたな…」
そう言いながら地図に印を入れた。
「残りどうするの…?」
「ま、そこら辺は天満さんと相談して何か誘致すりゃいいだろ」
「な…なるほどね…」
相変わらず発揮される銀行パワー。
「とりあえず…成果は出ているわけだし、とりあえず一安心だな」
「ホントにねー…助かったわ…」
2人は疲労を感じていた事もあり、そのまま椅子で舟を漕いでしまった。
その頃、職員会議にて、
「学園の経営を再建しているようですが…」
「あの状況から立て直してくるとは…」
教師陣が恨んだような声で話す。
「仕方ないですよ。樟葉君の背後にはCTF銀行がいますから…」
サキが溜息交じりに指摘する。
「三島先生でも何とかならないんですか…?」
「無理ですよ。あのメガバンクには手出しなんて出来ません」
「しかしこのままでは…」
「分かっています…」
サキは歯がゆい思いをしていた。
「どうしますか?」
「そうですね…財務状況が良くなった反面、学園内のサービスクオリティが低下していますし、そこを切り口にしてみます」
サキは次の一手を考えた。
生徒会室では相変わらず、翔とハルカが舟を漕いでいた。そこに大急ぎでやってきたのはシオリだ。
「会長…!起きてください!大変ですよ!」
「ふにゃ…?シオリちゃん…どーしたの?」
少し寝ぼけながら用件を聞くハルカ。
「掲示板にこんな書き込みが…!」
そう言われて見てみる。
「んー…?学園の経営を改善するからと言ってサービスを低下させるなんて無能乙、か…うーん」
ハルカも対処に悩む。
「あー…そんな書き込みされたのか」
翔が伸びをしながら話に入ってきた。
「ちょっと!翔も真面目に考えなさいよ!」
シオリが少し憤慨する。
「ま、そんな事もあるだろうと思ってな?改善策やらを書いたプリントを寮で配ってもらったんだよ」
「寮…?」
シオリが聞き返す。
「普通に教室で配ったら教師にバレるからな。寮という教師が普段来ない場所でプロパガンダって訳だ。」
「でもそんな限定的でいいの?」
ハルカも気になる事を尋ねる。
「いいさ。ちゃんと理解できてる奴さえ居れば、掲示板でこんな書き込みされても…見てみな」
翔がタブレットに掲示板を表示させ見せた。シオリが見つけたスレは完全にスレ主を叩く流れになっている。
「すごい…」
ハルカが感心する。
「にしても…プリント配るだけでこうも旨く行くの?」
シオリはあまりにも都合よすぎると感じていた。
「カナに頼んで配ってもらった。あいつは寮長だし皆に信頼されてるからな。」
「ふ…ふーん…?カナのこと信頼してるのね…?」
シオリが目を逸らしながら返す。
「そりゃな。でも、シオリも信頼してるぞ」
「そんな風に見えないし!」
「学園内で目立ったトラブルとか起きてないだろ?助かってるんだぜ?こんなけ色々やってると生徒からも反感買いそうなんだけどな」
「そ…そりゃ風紀委員長として学園の治安維持を預かる身だからね!」
「ああ、ありがとな」
「そ…そんな風に感謝されても…う…うれしくないしっ!!仕事あるからまた!」
背を向けてそのまま出て行ってしまった。しかし、尻尾がふにゃふにゃしていたので、本音は嬉しいというのが見え見えだ。
「ほんっと…ツンデレだよな…」
「仕方ないわよー」
苦笑する翔。笑顔のハルカ。
「でも、こうやって事なきを得られるのも成果と言えるな」
「正しいと信じたことを認められると嬉しいよね」
「そうだなぁ」
「それにしても…ここからどうなるかな…」
「どうだろうな。教師陣にももう打つ手がほぼ無いと思うんだよな」
「これで騒ぎが収束すればいいのにね…」
「俺もそう願いたい所だけどな…」
その日の仕事を終え、翔は寮へ戻った。
「おかえりっ、翔っ」
エプロン姿のカナが迎えに出てきた。
「ただいま、エプロン似合ってるな。」
「にゃっ…!?はずかしいってばぁ…」
猫耳と尻尾がピコピコ反応してしまう。
「でも、どうしたんだ?エプロンまでして」
「今日も夕飯作ったのっ」
「それはありがたいな。」
翔はテーブルに着く。
「はいっ、めしあがれっ」
「おっ、今日はトンカツか。」
揚げたてホクホク。旨そうだ。
「やっぱスタミナ付けてほしいからねっ」
「ありがとな。じゃあ、いただきます」
箸をつける。揚げ加減はまさに極上だ。
(いやこれ…マジで旨いぞ…カナの腕前はプロ以上だな…)
あまりにも美味しい為、夢中で食べきってしまった。
「ど…どうだった?」
カナが恐る恐る尋ねる。
「カナ…」
「な…なに?」
「美味すぎて、何ていえばいいか分からん…!」
「喜んでくれてよかったぁ♪」
「いやぁ…もうレストラン行く気しなくなるな」
「そ…そんなに?」
「そんなにだ」
「恥ずかしいけど…ありがとねっ」
2人は終始笑顔だった。とても和やかな夕飯時だ。
「それはそうとさ…」
後片付けをしながら、新聞を読んで一服する翔に尋ねる。
「んー?」
「これで騒動は終わるかな…」
「んーハルカも同じ事聞いてきたけどな…」
「翔はどう考えているの…?」
「多分、ここからが正念場な気がするな。」
新聞を畳んで答えた。その表情はシリアスそのものだ。
「翔…」
「どうした?」
カナは少し涙していた。
「私ね…怖いの…」
僅かに震えている。
「不安って意味か?」
「うん…私は学園が大好き…でも…最近、騒動ばっかでさ…しかも先生たちと対立なんて…」
「まぁ…普通の高校じゃあり得ない話だからな…」
「この先どうなるんだろ…」
「俺たちの手で切り拓いてやろうぜ?」
「うん…でも…今は抱きしめて…?」
「ああ…」
翔はカナを優しく抱きしめる。頭と猫耳を撫でてあげた。
「ありがとね…落ち着いた…」
「それなら良かった」
ちょうどその頃、シオリは風紀委員会室で仕事を片付けた所だった。
(ふー…やっと終わった…)
肩を回しながら、帰り支度を済ませる。
(あれ…?装備品庫、電気付けっぱなし…?)
窓の外を見ると、明かりが灯っているのが見えた。気になるので帰りに寄る事にした。
(え…?鍵開いてるし…)
自分が最後に出た時は施錠しておいた。
(まさか…侵入者…?)
嫌な予感がよぎる。気配を殺し、中へ入る。
「そこにいるのは誰!?」
格闘の構えをとりながら、呼び掛ける。
「…さすが有栖さん。背後取られるなんてね」
そこに居たのは…
「三島先生…?何やってるんですか…?」
サキだった。何かを物色しているように見える。
「別に何でもないですよ」
明らかにそんな風ではない。
(追及してもいいけど…ここは敢えて泳がせてみるかな…)
「そうですか」
「施錠はよろしくね」
「分かりました。」
サキはそのまま立ち去った。
(先生、何してたんだろう…)
調べてはみたものの、保管品に異常は無かった。結局、そのまま施錠して引き上げた。そしてそのまま、寮へ向かった。
「誰かいるかしら?」
「あれ…?シオリ?」
「あ…カナ…」
「どうしたの?こんな時間に」
「ちょっと伝えたい事あってね。翔は?」
「翔なら、部屋にいるはずだよっ」
「ありがとね」
(シオリ、何かあったみたいね…きっとこれからの事に関係あるんだろうなぁ…)
カナは心配になったが、そっとしておく事にした。
シオリは翔の部屋の前に立つ。
(なんでこんな緊張してるの私…!いつも通りでいくんだから!)
インターホンを押す。
「んー…?」
若干、眠そうな顔をした翔が出てきた。
「あ…翔…」
「なんだ…シオリか。寂しくなったのか?」
「ば…ばか!そんなんじゃないわ!」
「そうか…じゃあなんだ?」
茶化されたおかげでかえって冷静さを取り戻した。
「上がっていい?ちょっと伝えたい事があるの」
「なるほど…わかった」
翔が招き入れる。
「って…話には聞いてたけど…FX用のパソコン、ホント凄いわね…」
ディスプレイの多さに驚く。
「そうか…?まぁ…多い方かもしれないけどな?」
「にしても…パソコン以外は質素ね…」
部屋を見渡すが、殆ど何も無い。
「まぁ…それは良いとして…用件は?」
「うん…風紀委員会には装備品庫があるんだけどね…そこに三島先生が居たの」
「三島先生?あいつ何か風紀委員会と関係あったか?」
仮にも先生をあいつ呼ばわりである。さすがにシオリも引いたが今は指摘している場合でもない。
「いや…?特に無いけど…でも夜にしかも、施錠しておいた倉庫に入るなんてね…」
「なるほどな。問い詰めたりはしなかったのか?」
「敢えて、泳がせたわ…情報少ないし。」
「いい判断だな。でも、教師陣が次に何かを仕掛けてくるのは確定だな」
翔の表情が真剣になる。
「翔はどう見る…?」
シオリとしては、翔の見解が気になる。
「そうだな…必要な物品を探していたと考えるのが妥当だが…」
「やっぱり…?」
「何か持ち去られたのか?」
「何も…」
そこは引っかかる点でもある。施錠された倉庫に侵入したのに何も盗っていないからだ。
「何らかの偵察、情報収集って事か…」
「にしても、よりによって三島先生がね…」
「何かあるのか?」
「いや、熱心で人気ある先生だからね…」
「むしろそれは表の顔でちゃんと裏の顔があるって事だろうな」
「なるほどね…分かった…また何かあったら伝えるわ。」
「ああ。それとこれ俺のメアドと電番な。」
そう言いながらメモを渡す。
「分かったわ。それじゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
シオリが帰った後、翔はスマホを取り出す。
『あぁもしもし?』
『こんな時間に掛けるってことは訳ありだね?』
『勿論だ。天満さんの人脈使って警察庁の人間に接触できないか?できるだけ上のポストの奴に』
『えらく急だね…分かった、やってみよう』
『学園存続の為には、盤石の態勢で作戦を実行したいんだが…今度ばかりは、教師陣が派手な真似しそうなんでね…』
『なるほどね…警察庁なのはやはり警察を味方にしたほうがいいような事が起きるって意味だよね?』
『まぁな。』
『連絡取れたら教えるよ』
『ああ。いい結果を待ってる』
電話を切る。
(やれやれ…三島サキ、あれはとんでもない奴だな…)
翔はサキについて調べていたが、衝撃的な事実が明らかになったのだ。
(これは…流石に本気出すしかない)
翔は椅子にもたれながら、コーヒーを飲んだ。調べ物は徹夜になりそうだ。




