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おてんば魔女のお菓子魔法革命 ~大好きな幼馴染と綿あめ精霊と、世界を激甘に染め上げます!~  作者: 明石竜


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第一話 おてんば魔女と、喋る綿あめと、恋する幼馴染

「おーっほっほっほ! 見よ、これぞ我が魔力の結晶! 名付けて『極上爆裂サクサク・ミルフィーユ・ボンバー』よ!」

 新緑の風が吹き抜ける辺境の地、ルピナス村。

 そのはずれにある小さな大衆食堂の裏庭で、十五歳の少女、シャルロッテ・ルピナスは高らかに笑声を上げていた。村の名前とシャルロッテの家名が同じなのは、彼女の先祖がこの村を拓いたからである。

 癖のある、燃えるような赤髪をツインテールに結い、エプロンドレスの袖をまくり上げたシャルロッテは、おてんばという言葉を具現化したような少女だ。

 彼女が掲げた木べらの先では、淡く桜色に輝く魔力が渦巻いている。

 その視線の先にあるレンガ造りの特製オーブンから、いま、凄まじい勢いで「何か」が膨らみつつあった。

「ちょ、ちょっとシャロ!? またそんな危なっかしい実験して! それ、本当に食べられるものなの!?」

 シャルロッテの袖をぐいぐいと引っ張っているのは、幼馴染の少女、エルマだった。

 エルマは村の宿屋の娘で、光を吸い込んだような美しい亜麻色の髪を一本に三つ編みにしている。

 シャルロッテとは対照的に、大人びていて少し引っ込み思案な、誰もが振り返る美少女だ。

「失礼ねエルマ! これは実験じゃないわ、神聖なる『お菓子魔法』の儀式よ! ほら、見てみなさい!」

 シャルロッテがパチンと指を鳴らす。

 瞬間、オーブンから飛び出したのは、幾重にも重なったパイ生地。

 それがまるで花の開花、あるいはちょっとした爆発のように空中へ舞い上がった。

 シャルロッテがさらに木べらを一振りすると、宙を舞うパイ生地の間に、自動的に濃厚なカスタードクリームと新鮮なイチゴがリズミカルに挟まっていく。

「わあ……きれい……」

 エルマが思わずうっとりと目を輝かせた。

 そう、シャルロッテは、この世界でも極めて珍しい『お菓子魔法』の使い手だった。

 攻撃魔法? 使えない。

 防御魔法? 結界の代わりに巨大なクッキーを出すのが限界。

 だが、砂糖と小麦粉と魔力を練り合わせ、世界をちょっとだけ幸せにするお菓子を作る才能に関しては、天才のそれであった。

「ふふん、見とれた? さあエルマ、あーんして!」

 シャルロッテは出来立てのミルフィーユをフォークですくい、エルマの口元へ突き出した。

 距離が近い。

「えっ、あ、う、うん……」

 エルマは急に顔を真っ赤にした。

 シャルロッテはいつも距離感がバグっている。

 男勝りでサバサバしているくせに、こういう無自覚なアプローチを平然としてくるからタチが悪い。

 エルマの心臓は、さっきのパイの爆発よりも激しく跳ねていた。

 エルマが意を決して小さな口を開け、サクッと一口かじった、そのとき。

「待つモフーーーッ!! 抜け駆けは許さんモフッ!!」

 上空から、ピンク色の「毛玉」が猛スピードで自由落下してきた。

 毛玉はシャルロッテの顔面にベチャリと激突し、その勢いのまま、宙に浮いていたミルフィーユの残りをバクリと丸呑みにした。

「ぶふっ!? な、何よ一体!?」

「もふもふ、サクサク……う、美味いモフ! このバターの芳醇な香りと、クリームの絶妙な甘み! 不合格モフ!」

「どっちよ!!」

 シャルロッテが顔から引っぺがしたのは、手のひらサイズの奇妙な生き物だった。

 全体がピンク色の綿あめのようにモコモコしており、頭からはウサギのような長い耳、お尻からはリスのようなふさふさの尻尾が生えている。

 そして、つぶらな瞳の下には、なぜか立派なチョビ髭が蓄えられていた。

「な、何この可愛い生き物……!?」

 エルマが両手を頬に当てて身悶えする。

「可愛くなどないモフ! 我は高貴なるお菓子界の精霊、マカロン様モフ! この世界の怠惰なお菓子文化を叩き直すために降臨したモフ!」

「へえー、マカロンね。私のミルフィーユを盗み食いした罪は重いわよ、このチョビ髭綿あめ」

「綿あめ言うなモフ! っていうかお前、さっきの魔法は何モフ!? あんなふざけた魔力の使い方、見たことないモフ!」

 マカロンと名乗った毛玉は、シャルロッテの肩に飛び乗ると、小さな手(前足)を腰に当てて偉そうに胸を張った。

「我は、世界一の菓子職人になる素質を持つ者に力を貸すために来たモフ。お前、荒削りだが面白い魔力を持ってるモフ。我が専属プロデューサーになってやるから、ありがたく思うモフ!」

「はあ? お断りよ。私はこの村で、エルマと一生イチャイチャしながらのんびり暮らすって決めてるんだから」

「ちょっとシャロ!? イ、イチャイチャって何よぅ!」

 エルマが湯気を出しながらうろたえる。

「フッ、お前の意志など関係ないモフ。精霊の契約は、お菓子を食べた時点で成立するモフ! これでお前と我は、一蓮托生モフ!」

「なんですってー!?」

 シャルロッテがマカロンを掴んで引きちぎろうと(綿あめ的な意味で)引っ張っていると、食堂の勝手口から、シャロの母親の怒声が響いた。

「シャーーールロッーーーテーーー!! また裏庭で爆発音させたわね!! そんな暇があるなら、街道の荷馬車に、今週分の仕込みパイを届けてきなさい!!」

「げっ、お母さん!」

 シャルロッテは首をすくめた。

「あ、それなら私も一緒に行くわ、シャロ」

 エルマが嬉しそうに申し出る。

「本当? 助かるわエルマ! よし、じゃあこのチョビ髭は置いて……」

「置いてくなモフ! 我のポジションはここ(シャロの頭の上)モフ!」

 マカロンはシャルロッテの頭にがっちりとホールドし、実質的なヘアアクセサリーと化した。

 こうして、おてんば魔女シャルロッテと、恋する幼馴染エルマ、そしてお調子者の精霊マカロンの、騒がしいお留守番……ではなく、おつかいが始まった。

 街道へ向かう道中、シャルロッテはカゴに詰めたパイを抱えながら、エルマと肩を並べて歩く。

「ねえエルマ、さっきのミルフィーユ、本当に美味しかった?」

「え? う、うん。すごく美味しかったよ。シャロのお菓子を食べると、いっつも元気が出るの。それに、今日のカスタード、いつもより少し軽かったよね? 卵の量、変えた?」

「えっ、分かったの? ほんのちょっとだけ減らしたのに」

「だって、シャロのお菓子はずっと食べてるもの」

「へへ、よかった。私さ、エルマが美味しいって言って笑顔になってくれるのが、世界で一番好きなんだよね」

 シャルロッテは屈託のない笑顔でそう言った。

 狙って言っているのではない。

 本気で、天然で言っているのだ。

(もーーー! シャロのばか、無自覚たらし……!)

 エルマは顔の赤さを隠すように、わざと一歩先を歩いた。

 その背中を見ながら、シャルロッテは不思議そうに首を傾げる。

「お前ら、早く歩くモフ。甘ったるい空気で我が溶けそうだモフ」

「うるさいわね綿あめ、黙ってなさい」

 そんな漫才を繰り広げながら街道に出たそのとき、のどかな空気は一変した。

「ひ、悲鳴……?」

 エルマが足を止める。

 街道の先、村へ向かう予定だった商人の荷馬車が、数体の奇妙な魔物に囲まれていた。

 それは、本来ならおとなしいはずの野生の「野良ゴブリン」たちだったが、様子がおかしい。

 目が赤く光り、口からヨダレを垂らして興奮している。

「大変、襲われてる! シャロ、村の自警団を呼ばなきゃ!」

「間に合わないわ! エルマはここで待ってて!」

 シャルロッテはカゴをエルマに預けると、迷わず魔物たちに向かって駆け出した。赤いツインテールとエプロンドレスの裾が勢いよく跳ねる。

「おい、そこの不細工ども! ルピナス村の入り口で暴れるんじゃないわよ!」

「シャロ、無茶モフ! お前は攻撃魔法が使えないモフ!」

 頭の上のマカロンが叫ぶ。

「使えないなら、作ればいいのよ!」

 シャルロッテは走りながら、懐から素早く「小麦粉の袋」と「即席乾燥酵母ドライイースト」を取り出した。

「お菓子魔法・第一形態——『クイック・イースト・ライズ』!」

 シャロが魔力を込めながら小麦粉をばら撒くと、それは空間の水分を吸って一瞬で巨大な「パン生地」へと変化した。

 しかも、凄まじい速度で発酵し、膨張していく。

「いっけえええ!」

 木べらの一振りで、巨大化した粘着性の強いパン生地がゴブリンたちに襲いかかった。

「ゴブ、ゴブブ!?」

 ゴブリンたちは、ベタベタと顔や体にまとわりつくパン生地に絡め取られ、身動きが取れなくなる。

「よし、動きを止めた! 仕上げはこれよ!」

 シャルロッテはさらに、ポケットから「ザラメ糖」の袋を取り出し、豪快に空中へ放り投げた。

糖分過多シュガー・オーバーロード!! カチカチ・カラメル・プレッシャー!!」

 シャロの放った熱魔力がザラメに引火する。

 空中でお菓子魔法によって急速に熱された砂糖は、一瞬でドロドロの高温カラメルソースとなり、ゴブリンたちを包むパン生地の上に降り注いだ。

 そして――辺境の冷たい風にさらされた瞬間、カラメルはガラスのようにカチカチに凝固した。

「ゴブゥッ!?」

 パン生地と硬化カラメルのハイブリッド拘束具により、ゴブリンたちは完全に身動きの取れない「お菓子細工の彫刻」と化してしまった。

「ふぅ……。どうよ、お菓子魔法を舐めないことね!」

 シャルロッテは木べらをパッと回し、大きな緑色の瞳を得意げに細め、ドヤ顔でポーズを決めた。

「……呆れたモフ。お菓子を質量兵器や拘束具にする奴があるかモフ。お前、やっぱり天才のバカモフ」

 マカロンが呆れ果てた声を出す。

「シャロ!!」

 後ろからエルマが血相を変えて走ってきた。

 シャルロッテの体をあちこち触って怪我がないか確かめる。

「大丈夫!? 怪我はない!? もう、本当に無茶ばっかりして……!」

「へへ、平気平気。ほら、商人の人も無事みたいだし」

 助けられた商人は、腰を抜かしながらも「ありがとう、お嬢ちゃんたち……」と涙ぐんでいた。

 一件落着。

 そう思われた、そのときだった。

 カチカチに固まったゴブリンの隙間から、ドロリとした「黒い霧」のようなものが抜け出し、空中に消えていくのをマカロンが見逃さなかった。

「……む? いまの黒いモヤは……『魔王の残滓』モフ!?」

 マカロンのチョビ髭がピクピクと震える。

「魔王の残滓? 何それ」

 シャルロッテが首を傾げた。

「間違いないモフ。この世界のどこかで、封印されていた魔王の力が目覚めつつあるモフ。さっきのゴブリンが凶暴化していたのも、この黒い霧のせいモフ!」

 マカロンは真剣な顔(※ただし見た目は綿あめ)で言った。

「この魔王の呪いを浄化できるのは、世界を笑顔にする至高の甘味――つまり、究極のお菓子だけモフ! シャルロッテ、お前が世界を救うモフ!」

「はあ? だから何でそうなるのよ。世界救うとか面倒くさいし、私は村でエルマと――」

「シャロ」

 遮ったのは、エルマだった。

 エルマは真っ直ぐな瞳でシャルロッテを見つめていた。

「私、シャロのお菓子が世界中で一番大好き。でも……もし世界が大変なことになったら、シャロのお菓子作りに必要なイチゴや小麦粉が、手に入らなくなっちゃうかもしれないよ?」

「……えっ」

 シャルロッテは絶句した。

 それは、おてんば魔女にとって死活問題である。

「それにね、シャロ。私……シャロが世界を救うところ、一番近くで見ていたいな。……一緒に行っちゃ、ダメ?」

 エルマは上目遣いで、シャルロッテの服の裾をきゅっと握った。長い睫毛の奥から、澄んだ青い瞳でシャルロッテを見上げる。

 確信犯的な可愛さである。

「うっ…………!」

 シャルロッテは胸を撃ち抜かれた。

 エルマのこのおねだりに、勝てた試しがない。

「……お、怒られない程度に、ちょっと遠くの街まで材料探しに行くくらいなら、お母さんも許してくれるわよね!」

 赤面しながらガシガシと頭をかくシャルロッテ。

「決まりモフ! これより、世界を激甘に染め上げる『お菓子魔法・世直し旅』の始まりモフ!」

 こうして、シャルロッテの、エルマとのイチャイチャを守るための(ついでに世界も救う)大冒険が、にぎやかに幕を開けたのだった。

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