第1話「最初の当たり」
着ぐるみモンスター
Another Story
「もし、最初の当たりが忘れ物小僧だったら」
第1話「最初の当たり」
内田紀人 作
※この物語は、本編とは異なる世界線の物語です。
さとるが人間の姿へ戻った、その少しあと。
人の世界から遠く離れた場所では、黄龍と四聖獣、そしてその配下の妖怪たちが、一台のガチャを囲んでいた。
四枚のコイン。
四回の抽選。
それぞれの結果が出揃うと、最後に四つのうち一つだけが淡い光を帯び始めた。
「おっ!」
最初に声を上げたのは白虎だった。
光に包まれていたのは――白虎の配下、忘れ物小僧。
「ぼく?」
忘れ物小僧は、自分を指さした。
「お前だ!」
「へえ」
「もっと喜べ!」
白虎が、その小さな背中をばんばん叩く。
「痛いですよ、白虎さま」
「初めての当たりだぞ!」
「そうですね」
「反応が薄いな、お前!」
そのやり取りを見ていた妖怪たちが、一斉に騒ぎ始めた。
「いいなあ!」
「人間に見てもらえるんだ!」
「次は俺も!」
「私も行きたい!」
期待と羨望の声が飛び交う中、忘れ物小僧だけは、自分の体を包み込む光を不思議そうに眺めている。
やがて、黄龍が静かに口を開いた。
「行っておいで」
「はい」
忘れ物小僧が答えた瞬間、その体を包んでいた光が強くなる。
そして光は、人の世界へと伸びていった。
◇
その頃。
則人は、突然目の前に現れた小さな妖怪を、まじまじと見つめていた。
「…………誰?」
「忘れ物小僧です」
「忘れ物?」
「はい」
「何を忘れたの?」
「ぼくが忘れたわけじゃありません」
「じゃあ、なんで忘れ物小僧なの?」
「そういう妖怪なので」
「へえー」
則人が、じーっと見る。
忘れ物小僧も、じーっと見返す。
しばらく無言で見つめ合っていると、横から呆れた声が飛んできた。
「いつまで見つめ合っとるんじゃ」
ぬらりひょんだった。
「だって、また新しい妖怪だよ!」
「また?」
「今日は妖怪が多い日だなあって」
「怪人にも会ったじゃろうが」
「あ、そうだった!」
すっかり忘れていたらしい。
ぬらりひょんが深いため息をつく。
そんな二人をよそに、忘れ物小僧は周囲をきょろきょろと見回していた。
そして、則人の横に置かれている大きなバッグに目を留める。
「それ、何です?」
「これ?」
則人がバッグを指さした。
「KIDの着ぐるみが入ってたバッグ!」
「へえ」
忘れ物小僧が近づく。
そして何気なく――。
ぺた。
バッグに手を触れた。
「あ」
「ん?」
忘れ物小僧が、そっと手を離す。
「どうしたの?」
「ちょっと、やっちゃったかもしれません」
「何を?」
忘れ物小僧は答えない。
その時だった。
人間の姿へ戻ったさとるが、則人たちを振り返った。
「じゃあ、ぼく帰るね」
「うん。またね!」
さとるが歩き出す。
その進行方向には、例の大きなバッグが置かれていた。
ところが。
さとるはバッグのすぐ横まで来ても、避ける様子がない。
「さとる君」
「なに?」
「バッグ、踏まないでね」
「バッグ?」
さとるが足元を見る。
「……どこ?」
「そこ」
「何もないよ?」
「あるじゃん!」
則人には、ちゃんと見えている。
いつも通りの、大きなバッグだ。
「ほら! そこ!」
則人が指さす。
さとるも、その先を見る。
「あ……これ?」
「そう、それ!」
「こんなのあったっけ?」
「ずっとあったよ!」
「そうだっけ?」
さとるが首を傾げる。
そして一度バッグから目を離した。
「じゃあ、帰るね」
「待って!」
「なに?」
「バッグ!」
「バッグ?」
「また忘れた!?」
則人は目を丸くした。
さとるは不思議そうな顔をしている。
則人は、ゆっくり忘れ物小僧へ顔を向けた。
「……何したの?」
「ちょっとだけ」
「ちょっとだけ何したの!?」
忘れ物小僧は、少し申し訳なさそうに笑った。
「忘れられやすくしました」
「バッグを!?」
「はい」
「なんで!?」
「触っちゃったので」
「触っただけで!?」
ぬらりひょんが額を押さえる。
「当たり早々、何をしとるんじゃ……」
忘れ物小僧は、しょんぼりとバッグを見る。
「戻した方がいいですか?」
則人はバッグを見る。
それから、忘れ物小僧を見る。
もう一度、バッグを見る。
「…………」
何かを考え始めた。
その顔を見て、ぬらりひょんの眉がぴくりと動く。
「おい」
「なに?」
「今、何を考えた」
「別に?」
「その顔は絶対に何か考えとる顔じゃ」
則人はにやっと笑った。
「これ、もしかして――」
「ろくなことを考えるでないぞ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
忘れ物小僧が二人を見比べる。
「戻します?」
「ちょっと待って!」
「待たんでよい!」
ぬらりひょんの声が響く。
こうして。
則人と忘れ物小僧の出会いは――
いきなり、忘れ物から始まった。
――つづく
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