21話:難民の家
広場の石畳が、思っていたより硬かった。
ベシムは空き家の前に荷物を降ろしながら、そんなことを考えた。何度かこの広場に来たことがある。夏至祭に、父の商いについてきたとき。兄のエディンが力比べに出た年も来た。石畳の上を走り回り、ルシェンと一緒に栗を割り、転んで膝を擦り剥いた。
あのとき、石畳がこんなに硬かっただろうか。
***
朝、ファトマという老婆の前で父が膝をついた。
ベシムは父の後ろに立って、それを見ていた。父が誰かの前で膝をつくところを、ベシムは一度も見たことがなかった。村の長老の前でも、連邦の役人の前でも、父は腰を屈めなかった。誇り高い人だった。
今、父は膝をついている。
ファトマが父の肩に手を置いて、立ち上がらせた。老婆の手は小さかったが、その手が触れた瞬間に父の肩が少し下がった。ベシムには、それが何を意味するのかわかった。力が抜けたのだ。長い間保ち続けていた何かが、ここで初めて抜けたのだ。
ベシムは顔を上げたまま、泣かなかった。
涙は南部の道の途中で使い果たしていた。
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村人たちが食事と寝床を用意してくれた。
女性が水を運び、農夫が空き家の扉を開け、ドワーフの職人が薪を抱えてきた。誰もが親切だった。手際もよかった。ベシムは気づいた——慣れているのだ。難民を受け入れることに。それだけの人が、ここに流れ着いているということだ。
空き家に入った。
低い天井。壁が石で、床も石だ。エルフが使っていた家らしく、窓枠に古い蔓飾りの跡がある。中は広くはないが、一族が身を寄せ合えばなんとかなる。炉がある。木の台がある。それだけでよかった。それだけあれば、生きていける。
母が荷物を解き始めた。布の包みから、家財道具が少しずつ出てくる。茶碗。毛布。縄で結わえた束。南部の家から持ち出せたもの、それだけだ。
ベシムは荷物に手をつけなかった。
荷物を解いたら、本当になってしまう気がした。
(難民に、なってしまう気がした)
母が振り返った。
「ベシム。外に行っておいで。少し。ここは母たちが片付けるから」
見透かしていた。いつも見透かす。ベシムは黙って外に出た。
***
村の中を歩いた。
知っている道だ。交易路を南から入ると広場に出て、右に折れると鍛冶場がある。さらに進むと井戸があり、その先に語り部の長老の家がある。覚えている。前に来たとき、ルシェンが案内してくれた。
同じ道なのに、違う道のように感じた。
すれ違う人が、一瞬だけ見る。見て、それから目を逸らす。あからさまではない。だが確実にそこにある——新しい目だ。来たばかりの者を見る目。どこから来たのか、なぜここにいるのか、いつ出ていくのか、あるいは出ていかないのか。
以前は、そういう目をされなかった。
以前は旅の途中に立ち寄っただけだったから。
井戸に着いた。水を汲んだ。鉄の柄を回すのに力が要った。父の兄、ウジ叔父が今どこにいるか、ベシムは知らない。投獄されたと父が言った。それ以上は父も知らないかもしれない。ベシムも聞けなかった。聞けばまた何かが崩れそうで。
桶に水が溜まった。冷たかった。顔を洗った。
村は静かだった。いつもどおりの午後の静けさだ。炊事の匂いが路地に満ちている。どこかで子供が笑っている。鍛冶場の方から金槌の音が聞こえる——あれはドラガンか、師匠か。
ここは、生きている。
南部の村は、もうない。
***
夕方、ルシェンが来た。
広場の外れで顔を合わせた。ルシェンは一瞬で気づいた。「ベシム」と名前を呼んで、駆け寄ってきた。懐かしい顔だった。琥珀色の目に、変わらない温もりがあった。
「また会えた」
ベシムは言った。嬉しかった。本当に嬉しかった。
だが同時に——恥ずかしかった。こんな形で再会したかったわけではない。客として来たかった。商人の息子として。力比べに出る兄について来た弟として。
ルシェンが「大丈夫か」と聞いた。
「ああ。大丈夫だ」
答えながら、ベシムは思った。大丈夫ではないかもしれない。でも、大丈夫にしなければいけない。弟妹がいる。老人たちがいる。父が膝をついた。それだけで十分だ。後は、自分が立っていればいい。
「ドラガンは? あいつ元気か?」
話が変えたかった。
「元気だよ。相変わらず力自慢で、飯ばかり食ってる」
「そうか。よかった」
兄のエディンが力比べでドラガンに負けたとき、悔しそうに帰ってきた。来年こそ勝つと言っていた。
来年、兄はここに来られるだろうか。南部に残った兄は、今どこにいるのか。
「ルシェン。お前の村は——本当にいいところだな」
言葉が口から出た。嘘ではない。本当のことだ。この村は本当にいいところだ。難民を追い返さず、食事を出し、寝床を用意する。種族で差別しない。それが今のベシムの一族には、命に等しい意味を持っている。
「ここなら、また歌が歌える」
声がかすれた。抑えようとしたが、かすれた。
ルシェンが頷いた。言葉を選んでいるのか、何も言わなかった。それでよかった。言葉は要らなかった。
***
母が空き家の戸口に立っていた。
「ベシム。夕飯にするよ」
母の声は穏やかだった。心配を隠した、穏やかさだった。母はいつもそうだ。子供たちが安心できるように、先に安心しているふりをする。ベシムはもうそれを見抜ける年になっていた。
「今行く」
ルシェンに手を挙げて、石畳を戻った。空き家の戸をくぐった。
低い天井。石の壁。窓枠の古い蔓飾りの跡。荷物が解かれていた。茶碗が棚に並び、毛布が隅に積まれ、炉に火が入っている。
家になっていた。
まだここは、ベシムの家ではない。でも母が火を入れた。炉に火が入っている場所は、家だ。オークの習わしで言えばそうだ。火のあるところに、家がある。
弟が走り寄ってきた。まだ小さい。何があったかを、どこまで理解しているかわからない。
「ベシム兄ちゃん、ここに住むの?」
「しばらくな」
「しばらくって、どのくらい?」
答えられなかった。
「わかんない。でも——大丈夫だ」
弟が頷いた。信じた。信じてくれた。
ベシムは炉の前に座った。火を見た。南部で最後に炉に火を入れたのはいつだったか。もう思い出せない。でも、ここに火がある。ここに家族がいる。ここで歌が歌える。
それで、今日は十分だ。
明日のことは、明日考える。




