第六話 ⑧ ~LHR・なんとか彼女と同じ委員を出来るようにしました~
第六話 ⑧
「はい。結果が出たようですね」
俺がそう言うと、二人が頷く。
「私が学級委員に選ばれました」
黒瀬さんはそう言うと、『学級委員』と書かれたくじを俺に向けてくる。
「では、皆さん。学級委員を引き受けてくれた黒瀬さんに拍手をお願いします」
俺のその言葉に、誰よりも早く拍手をしたのは、朱里さんだった。
悔しいだろうし、悲しかっただろうし、泣きたい気持ちだろうし、そう言うのを全部受け止めて、彼女は拍手をしていた。
俺はそんな彼女を見て、一つのプランを自分の中で組み立てていく。
大丈夫だよとは言えないけど、朱里さんと一緒に『委員』をやる方法はまだある。それを提示して実行させるのが、俺の仕事だ。
そんな思惑は表に出さないようにして、俺は黒瀬さんに声を掛ける。
「黒瀬さん。早速だけど前に来てもらって書記をお願いしても良いかな?」
「はい。かしこまりました」
彼女はそう言うと席を立ち、朱里さんに一礼してからこちらに来た。
そして、黒板に
学級委員 桐崎悠斗・黒瀬詩織
と記入した。
とても綺麗な文字だった。
「黒瀬さんありがとうございます。ではこれから各委員を決めていきます。『基本は』各委員、男女一名ずつの選出になります。自分のように去年の経験を活かした委員をやるのも良いですし、黒瀬さんのように新しいことにチャレンジをするのも良いと思います。ですが、我々は高校二年生です。部活動では既にレギュラーだったり、レギュラーが目前と言う人も少なくないです。そう言う方が所属する委員には『自分がフォロー』に入ります」
そのための帰宅部のエースですから。
俺がそう言うとクラスに笑いが起きる。
「ではまず図書委員から……」
俺が司会進行をして、決定事項を黒瀬さんが黒板に記入する。
まるで長年連れそった夫婦のように、上手い具合にハマっているような気がしてしまった。
各委員の選出は『思った通り』早くに決まった。
クラスを見た時に『カップル』が多いクラスだと思っていた。
それも主に『去年の委員を共にした人同士』と言うものだった。
となれば、自分らのように去年と同じ委員を恋人同士でやりたいと思うのは必然だろう。
黒板には男女のカップルで形成された各委員がズラっと並んだ。
俺は時計を見る。
ロングホームルームはまだ時間が残ってる。
よし、計算通りだ。
先程から元気の無い朱里さん。
絶対に俺が助けてみせる。
「さて、皆さん。スムーズな委員の選出にご協力いただき、ありがとうございます。イチャイチャし過ぎないようにしてくださいね?」
と俺は冗談ぽく言う。
みんな何となくわかって居たのでクスクスと笑いが起きる。
「山野先生」
「なんだ?」
俺は計画を実行するために、先生に問いかける。
「皆の協力で早く委員がきまりました。なので、残った時間を使って、来週のホームルームで決める予定の『男女二名ずつの体育祭実行委員』を決めようと思います」
俺のその言葉に朱里さんが、ハッ!!っと顔を上げる。
俺はそんな朱里さんに軽くウィンクを飛ばす。
「来月の五月には体育祭があるので、来週には委員を決めるようです。うちのクラスは優秀なので、今週の内に決めておきましょう」
そう提案する。
「いいぞ、桐崎。と言うか、そう切り出すという事は、もう案があるんだろ?」
と、先生がニヤっと笑う。
「はい。そうですね。俺が推薦する形になりますが、クラスのみんなにはそれを承認してもらう感じですね」
俺はそう言うと、実行委員へ推薦するクラスメイトを記入した紙を黒瀬さんに渡す。
「桐崎くんは……優しい人ですね……」
黒瀬さんは小さくそう呟くと、黒板に記入していった。
体育祭実行委員 武藤健・佐藤優子・桐崎悠斗・藤崎朱里
名前が記入されたことを確認し、俺は声を上げる。
「はい。ここに記入された人に実行委員をお願いしたいと思います。ここの人達は、俺以外、『各委員に所属していない』『体育が得意』『明るくコミュニケーション能力に長けている』と実行委員に必要な能力を持ち、状況的にも恵まれてます。しかし、先程俺は言いました。『レギュラーもしくは、それに準ずる人においては自分がフォローに入る』です。言葉の責任はとりますし、数学の根岸先生曰く、俺は『健の保護者』らしいので、暴走しがちな奴のストッパーになろうと思います」
みんなに笑いが起きる。
朱里さんも笑ってくれている。
良かった……笑顔が少しは戻ったかな。
「健、佐藤さん、朱里さん、引き受けてくれないかな?」
「いいぜ!!」
「いーんちょーのお願いならしかたないなー」
「うん。私も頑張るよ」
三人はすぐに首を縦に振る。
それを見て、俺は
「では皆さん。実行委員に賛成の方は拍手をお願いします!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!!!!!!!!
今までで一番大きな拍手に教室が包まれた。
黒瀬さんも拍手をしていた。
良かった。これで少しは朱里さんのフォローが出来た。
俺は安堵の息を吐きながら、少しだけ黒板にもたれかかった。