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第八話 ⑭ ~星くんと本気の綱引きをする事になりました~

 第八話 ⑭




 怜音先輩とのやり取りを終え、俺は自分のクラスへと戻ってきた。


「お疲れ様でした、悠斗くん。首尾はどうでしたか?」

「ただいま、詩織さん。なんとか怜音先輩を説き伏せることが出来たよ。縄の確保も出来たし、それにプラスして怜音先輩のクラスとの合同練習も約束出来た。更に言えば彼女相手に『貸し』を一つ作ることも出来た。うん。大勝利だね」


 と、俺はそう話した。


「その割には悠斗、あまり嬉しそうな顔してないね。どうかした?」


 俺の顔色を見ながら、朱里が聞いてきた。

 俺はそれに少しだけ苦笑いを浮かべながら答える。


「いや、結果だけ見れば大勝利だけど、流石にあの人と話すのは疲れるよ……てか、こうしていろいろとやってると、どんどんあの人との会話のハードルが上がってる気がする。失望させたくないからね、毎回緊張の連続だよ」


 と、俺はやれやれと手を広げながら言葉を返した。


「さて、俺も着替えてグランドに行くよ。二人とも待たせて悪かったね」


 俺はそう言うと、教室に残っていてくれた朱里と詩織さんに声を掛ける。

 そう、他のみんなは着替えを済ませてグランドに行っている。この教室には、俺たち三人しか居ない。


「……あ、あれ?俺は着替えをするんだけど」

「うん。そうだね、着替えないとだよね?」

「流石に制服で体育祭の練習は出来ませんからね」


 そんなことを言う二人。いや、大切なことはそれじゃなくて……


「え?な、なんで教室から出てってくれないの?」


 お、俺……着替えるんだけど……


「え?出ていく必要ある?」

「そうですね。全部見てる仲じゃないですか」

「………………」







 ……そして、美少女二人にガン見されながら、俺は着替えを済ませた。


 そ、そんな性癖は無いんだけどなぁ……





 教室でその後二人を相手にして『いろいろ』あったあと、俺はグランドと向かっていた。


 始業のチャイムは既に鳴っており、授業には少し遅れているような状況だ。


 まぁ、普段の授業とは違い、明確な開始時間が決まっている訳では無いので、『遅刻』と言う概念があまり無いのが幸いか……


 そして、ある種の疲労感を持ってグランドに辿り着くと、怜音先輩にお願いしていた『綱引き用の縄』の前で、星くんが立っていた。


「ご、ごめん星くん。ちょっと遅れた」


 俺は駆け足で彼に近寄ると、まずは遅れたことに謝罪した。


「いや、別に気にしなくて構わないよ。こうして縄の確保に尽力してくれたんだ。本当なら三年生が使うようなものをこうして二年生が使えるんだ。本当に君はすごいね」


 そう。基本的にはこの時間。権力の強い三年生が縄の確保やグランドを使用することになっており、学年が下がる事に使用する場所が制限されていく。


 一年生だった去年は、体育館の端っことかだったので、ドッチボールをして遊んでたくらいだ。


 こうして縄の確保をして、尚且つその三年生と練習出来るなど、ほかの二年生や一年生とはかなり違うことを出来ている。


「そ、そう言って貰えると幸いだよ」

「……ん。どうしたんだい桐崎くん。なんだか少し疲れてるみたいだね?」

「い、いや……怜音先輩を相手に交渉したのは流石に骨が折れたからね……」


 と、俺は本当の『疲労の原因』については隠して話す。


 い、言えるわけないだろ!!教室で二人からあんなことをされてから来ました。なんてのは!!


 なんだか二人は結託しているような感じで、ある種の仲間意識のようなものを感じだ……


 中でも良くわからなかったのは、


『うん。別に二人でやっても特に不快に思うとかは無いね』

『そうですね。今後もこういう時間があっても良いかもしれません』

『詩織ちゃんが抜け駆けしないか。ってのもあるからね』

『さっさとして貰えませんかね、朱里さん。そうしたら解禁ですよね?』

『一応夏休みに約束してるからね。その後ならいいよ?』

『はぁ……じゃあ、それまで我慢しますよ。でも悠斗くんから求められたらその限りではありませんが?』

『ふーん。まぁ良いよ。そうならないようにはするし』



 なんて言う、会話が『俺の下半身の辺り』で行われていた。と言う……



「まぁ、俺には想像も出来ない苦労があった。そう言うことだよね。お疲れ様、桐崎くん」


 と、星くんは何かを納得したように、首を縦に振った。


「それでね、桐崎くん。ここで君を待っていたのは『宣戦布告』をするためだ」

「『宣戦布告』?」


 俺がそう言うと、星くんはニヤリと笑った。


 かっこいいなぁ……


 なんて思っていると、


「綱引きの練習は練習ではあるが本気でやろう」

「うん。手を抜くつもりは微塵も無いけど」


 と答えると、星くんは少しだけ顔を赤くして言う。


「今度、首藤さんとご飯に行くことを話してある。その条件として、この場で君に勝つことを明言してから来た」

「……なるほど。それなら手を抜くのは君の覚悟に対して失礼だ」


 彼と首藤さんの『お食事デート』の為にわざと負ける?そんな失礼なことが出来るはずがない。


 本気で戦わないと彼に対して失礼だし、勝利の価値が薄れる。


「なぁ、星くん。俺たちの戦いは、新聞部の見世物にする予定なんだ」

「あはは……そうなんだね。構わないよ、そのくらいなら」


 そう言う彼に俺は提案した。


「せっかくだから、俺に勝ったら首藤さんと食事に行く。と言うのも記事にしてしまおう。『学園の王子様。深緑の令嬢を賭けて、ハーレム王と綱引き真剣勝負!!』これなら盛り上がりそうだし、君が首藤さんとご飯に行っても邪推されない」

「い、いいのかい?それだと君の悪名がまた……」

「あはは。そんなの構わないよ。それに……」


 俺は星くんを見て、ニヤリと笑う。


「君との真剣勝負にはそれくらいの価値がある」


 俺のその言葉に、星くんは笑った。


「いいだろう。その言葉を裏切らないような勝負をすると約束するよ」


 俺たちはそう言うと、握手をした。


 パシャリ!!


「「……え?」」



 カメラの音を聞いた俺たちは、その音の方へと振り向く。


 そこには、ニヤリと笑う怜音先輩がいた。


「いい写真が撮れたよ二人とも!!今の話は全て聞いた!!新聞部が責任を持って記事にするよ!!」


 そんなセリフを聞いた俺と星くんは、大きくため息を吐くのだった。



 ほんと……この先輩は油断も隙もない……

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