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第八話 ⑩ ~昼休み~ 蒼井視点 中編

 第八話 ⑩





 朝。桐崎くんと黒瀬さんの情事の現場を見た僕は、自分の教室へと戻っていた。

 写真に残す。なんて真似はしていない。きっとそれをしたら、桐崎くんは僕を軽蔑するだろう。

 彼の中では『結構美人な生徒会長で、頭も良くて要領も良い。だけど、少し抜けてる所もある』という評価なはずだ。



 ……だとするならば、彼と黒瀬さんの情事の現場を『たまたま見てしまった』とするのが良いだろう。

 彼に相談をするために教室へと来たら、君と黒瀬さんの現場に遭遇してしまった。


 そういうプランで行こう。


「おはよう、空。早いねー今日はどうしたの?」

「おはよう、琴音。今日は生徒会のことで少し桐崎くんと話がしたくてね。彼の教室に行った帰りなんだ」


 僕に次いで二番目に登校してきた琴音に、僕は『表向き』の理由を説明する。


「……黒瀬さんとツーショット写真をアップしてたハーレム王に、なんの用があったの?」


 と、琴音は形の良い眉を寄せながら僕に問い掛けてきた。


 あはは。それだと琴音がヤキモチ妬いてるように見えちゃうよ?

 なんてことを思いながら、僕は言う。


「予算の運用のことで少し話をしようと思ったんだ。僕への支援金が結構な額集まっていてね。出来高案件の追加とかを話そうと思ったんだ」


 そう。これは嘘ではない。実際には本当に話そうと思っていたこと。


 万が一。覗きがバレてしまった時は、そういう理由で来たんだ。と言えるように用意していたものだ。


「へぇ、そうなんだ。それってあれだよね。料理研の伊澄ちゃんが、生徒会へのお菓子の差し入れは出来高になりますか?って言ってきた……」

「そうそう。生徒会のお菓子代も馬鹿にならないしね。できたてのお菓子が食べられるならこちらとしても嬉しいよね」


 伊澄ちゃんの本当の目的は、桐崎くんにお菓子の差し入れをして、好感度を稼ぎたい。ってのなんだろうけど。


 ホント。桐崎くんは女の子をたらしこむのが上手だよね。


 まったく。僕の同級生が何人も彼の餌食になっていく様を見ていた時は戦慄したよ……

 まぁ、僕もその一人と言ったらそれまでだけど。


「ふぁ……おはよう、空」

「おはよう怜音。どうしたの、早いじゃないか?」


 僕は少ししてから教室にやって来た怜音に挨拶を返す。


「いやぁ、悠斗くんが寝かせてくれなくてな」

「…………え?」


 困惑する僕に、琴音が苦笑いをしながら説明をする。


「ハーレム王のツーショット写真の件について色々やってたみたいでね。寝不足なんだって」


 このまま寝たら寝過ごしちゃうから徹夜のまま登校するかー。ってことみたいだよ。


「そうなんだ……」


 それで、彼のせい。と言ったのか。


 てか、いつの間に名前呼びしてるんだ?


「ね、ねぇ、怜音。なんで桐崎くんを名前で呼んでるんだい?」


 僕のその質問に、怜音は笑いながら話す。


「とある依頼を悠斗くんから受けていてね。それが成功した暁には『名前で呼ぶことを許します』と彼に言われてる。だからこうして名前で呼ぶ練習をしているんだよ」


 悠斗くんが居ないところなら呼び放題だろ?


 なんて事をいけしゃあしゃあと言う怜音。


 あはは、本当に怜音は彼のことを『気に入ってる』のだろうな。


 恋愛的な意味は無さそうだけど。


 さて、こうして二人が揃っているなら、話しておいても良さそうだな。


「なぁ、二人とも。ちょっと聞いてもらいたいんだ」


 僕がそう言うと、二人は同時に振り向く。

 あはは。こういう所はホント双子だなと感じるよね。


「今日のお昼ご飯は桐崎くんのグループと食べようと思うんだ」

「ふぅん……なるほどねぇ……」


 怜音はそう言うと、僕を見てひとつ頷いた。


「予算のことを話すと見せかけて、悠斗くんにアプローチを掛けてこよう。そういう魂胆か」

「…………違うから」


 違わないけど。


 まったく。本当に彼女は鋭いな。


「いいよ。親友の恋路を応援するのも親友の役目だからね」

「…………空がハーレム王の餌食になってしまったなんて。うぅ……」

「い、いや……本当に予算の話をしようと……」


 そんな会話をしていると、教室に段々と人が増えてくる。


「そんな訳だから、悪いけど今日は二人でお昼は食べてくれ」

「おっけー」

「いーよー」


 二人はそう言うと、僕の元から離れて行った。


 ふぅ……とりあえず最初の一歩は踏み出せた感じかな。


 僕は安堵の息を吐いた。






 そして、時間は過ぎて、四時間目が終わるチャイムが鳴った。




「じゃあ僕は食堂に行ってくるよ」

「いってらー」

「私たちはいつもの場所で食べてるねー」


 そう。僕たちはいつもは購買でお弁当を買って、屋上で食べている。

 生徒会長の特権である

『学校にあるどこの扉も開けられる鍵』

 を使って、屋上で食事をしている。


 今日はその鍵を琴音に渡してある。


 食堂へとたどりつくと、僕は日替わり定食を頼むことにする。


 なんだかんだ言ってこれが一番コスパも含めて最強と思ってしまう。


 そして、彼らがいつも使っている丸テーブルを見ると、


「……あ、あれ……桐崎くんが居ない……」


 いつものメンバーは居るものの、桐崎くんだけがそこに居なかった。


 ど、どうしよう……


 僕は思案する。だが、彼が居ないということは、あの二人に直接話を出来るチャンスでもある。


 落ち着いて考えろ。あの二人は僕を『下に見ている』

 まずはそこを上手く使いながら会話をしよう。


 そして、その油断を利用して、こちらに有利な展開に持ち込むんだ。


 僕はそう結論付けると、丸テーブルへと向かう。


 そして、少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら話しかける。


「……ごめんね、僕も同席してもいいかな?」



「……蒼井……さん?」


 黒瀬さんは僕を見て、意外そうな表情をした。

 それとは別に藤崎さんは僕を見て少しだけ笑みを浮かべた。


「いいですよ。ご一緒しましょう、蒼井さん」


 なるほど、黒瀬さんの反応から推測して、『彼』の件でやって来た。そう思われているな。


「ありがとう、藤崎さん。実は桐崎くんに用事があってきたんだけど、彼の姿が見えなくてね。さすがに一人で食べるのは寂しいから混ぜて欲しいと思ったんだ」


 と、僕は『不憫な生徒会長』と言う体で話をした。


「あはは。それは残念でしたね。今日の悠斗は咲きちゃん先生に呼ばれてここには居ないんですよ」


 へぇ……山野先生が……


「なぁ、話はいいから早く食おうぜ」


 と、言う武藤くん。

 あはは……ごめんね。


「ごめんね、武藤くん。それでは食べようか」


 僕達は声を揃えて「いただきます」と言ってご飯を食べ始めた。

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