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第八話 ⑨ ~昼休み~ 蒼井視点 前編

 第八話 ⑨




 蒼井視点





「蒼井生徒会長!!予算会議の動画見たよー!!私募金するね!!」

「頑張ってね会長!!部長たちに負けるな!!」

「応援してるからね!!」


「うん。みんなありがとう!!」


 予算会議が終わってからというもの、僕を見掛ける度にみんなからのそういった声が貰えている。

 どちらかと言うと、女性からの支援が多い。

 僕の境遇に感情移入してくれてるのかもしれない。


 生徒会には僕に対しての支援金が沢山来ていて、個人で一番支援を受けているサッカー部の星くんの倍は、支援金が入金されてる。


 正直なところ。みんなを騙しているような罪悪感を持ってしまう気もするが、それを言う訳には行かない。


『生徒会の悲劇のヒロイン』


 というみんなが持ってる僕のイメージを壊す訳にはいかないからね。


 予算会議の後。桐崎くんにデートの約束を取り付けて、僕は喜んでいたところだったが、事態はそんな悠長なことを言ってられる状態では無かったようだった。


「……な、なんだよ。これ」


 日曜日の夜。僕は自室でスマホを眺めていた。


 たまたま見ていた桐崎くんのSNSにアップはされていたのは、彼と黒瀬さんが仲良さそうに映っているツーショット写真だった。

 珍しく二人とも眼鏡を着けていて、アイレンズ・ミサトと言うハッシュタグがついていた。


 どうやら僕の知らないところで二人で出掛けていたようだ。


 このことを藤崎さんは知っているのだろうか?


 ……いや、知っているだろう。その上でこの行動を許しているんだ。出なけれ桐崎くんはこんなことをしない。


 そして、『黒瀬さんとならこういうことをしても構わない』そう思えるくらいには、桐崎くんが黒瀬さんへ向ける好感度が高いことを示している。


 バン!!


 と僕は自分の机を叩いていた。


 何をしていたんだ蒼井空!!


 夏休みに一日デートの約束をして、浮かれていたのか!!


 そんな遠い日に一日だけした約束なんてなんの意味もないじゃないか!!


 彼に対しての本気度が足りてなかった。


 自分の人生を全て賭ける。そのくらいの意気込み。覚悟が無いとあの二人とは戦えない。


 僕はその土俵にすら上がれていなかった。


 きっとあの二人は思っているだろう。


『僕ごとき、敵じゃない』


 …………。


 考えろ、蒼井空。


 あの二人がそう思ってるのなら、それを利用してやればいい。


 そして、あの二人には無くて、僕だけが持っているアドバンテージを活かせ。


 それは、『予算会議での一件。彼は僕に対して大きな負い目を抱いている』という事だ。


 それを利用して、夏休みに一日デートの約束を取り付けたが、恐らくだがまだ彼の中には僕への負い目が残っている。


 だが、それだけでは足りない。


 もうひとつの武器がいる。




 …………覚悟を決めろ、蒼井空。




 僕は知ってる。彼と黒瀬さんが朝の教室で仲良く本を読んでいる。という事を。

 そして、それは藤崎さんも了承している。


 あんなツーショット写真をアップするような二人だ。きっと朝の教室でも何か特別なことをしているに違いない。


 その『特別なことをしている』現場を押えることが出来れば、大きな武器になる。


 だが、それは諸刃の剣だ。


 黒瀬さんはそれで一度大怪我をしている。


 慎重に使わなければならない武器になるだろう。


 僕は覚悟を決めて次の日の朝に備えた。






 月曜日の早朝。僕は二年一組の教室の前にたどり着く。




 バレないように中を見ると、桐崎くんが一人で本を読んでいるのが見えた。


 黒瀬さんはまだ来ていない。だとすると、ここに居るのは危険だ。鉢合わせの可能性がある。


 僕は素早く物陰に隠れると、黒瀬さんが来るのを待った。


 そして、少しすると黒髪の美少女が見えた。

 ……黒瀬さんだ。


 僕は息を殺す。そして、彼女が教室の中に入ったのを確認すると、扉の前へと移動する。


 気が付かれないように耳を澄ませると、


「おはようございます、悠斗くん」

「おはよう、詩織さん」


 二人の朝の挨拶が聞こえる。


 桐崎くんは先程まで読んでいたハードカバーの小説の表紙を黒瀬さんに見せていた。


「早速読ませてもらってるよ。なかなか俺好みの描写で、とても好き……んっ!!」


 な、何が起きているんだ!!??


 桐崎くんが黒瀬さんに対して小説の感想を話そうとした唇を、いつの間にか接近していた彼女の唇が塞いでいた。


 う、浮気現場!!??


 とんでもないものを見てしまったような気持ちに僕はなる。


「んぅ……悠斗くん……好きです……」

「…………詩織……さん」


 彼に対して愛を囁く黒瀬さんと、それを受け入れているような桐崎くん。どう見ても『同意の上での行為』にしか見えなかった。


『特別なことをしている現場』


 なんてものじゃない。とんでもないことをしてる現場を見てしまった。




 そして、どちらともなく唇を離すと、唾液が糸を引いて落ちた。それは二人が深く繋がっていた証でもあった。


「…………なんで大きくなってないんですか」


 黒瀬さんはそう言って桐崎くんの下半身を見ている。


 大きく……?……あ、アレのこと!!??


 動揺する僕のことなどまるで知らない黒瀬さんは、何かを納得したように呟いていた。


「……やってくれましたね、朱里さん。まぁ、良いですけど」


 その台詞はきっと私が知らない彼女たち二人の間でやり取りを察してのこと。なのだろう。


「『何回』したんですか?」


 …………何回?


「『四回』かな……」


 …………四回?


「なるほど、では悠斗くんのMAXは『六回』という事ですね」

「…………」


 …………わかった。そういう事か。


 僕が知らないところで、黒瀬さんは桐崎くんと『そういう行為』を二回していた。

 そんな関係になるまで進んでいたんだ。


 そしてその後に彼は藤崎さんとは四回も『そういう行為』をしたんだな。


 だ、だから下半身が反応しなかったんだ……


 な、なんて……ふしだらな……


「こうして、悠斗くんとキスをするのは二人きりだと確信が持てた時だけにします」

「うん。わかったよ」


 その言い方だと、まるで『二人きりでなくてもキスしても良い』と言うように聞こえるけど。なんなのだろうか……


「でも、悠斗くんが求めてくれるならその限りではありませんが?」


 そう言うと黒瀬さんは少しだけ挑発的な表情をする。


 それが桐崎くんの琴線に触れたのだろうか?


 彼は椅子から立ち上がると、黒瀬さんの身体を強く抱きしめていた。


「……え、えっ!!??」


 黒瀬さんが驚いたような声を上げる。

 大丈夫。僕も驚いている!!


 黒瀬さんの耳元で桐崎くんが何かを囁いていた。


 その言葉に、黒瀬さんの顔が真っ赤に染った。


 な、何を言われたんだ!?



 そして、桐崎くんはそんな彼女の唇を強引に奪っていた。

 そして、やや乱暴にその口の中を舌で掻き回している。


「んっ……ふぅ……ッ!!!!」


 僕が驚いたのはその後だった……


 彼は彼女に唇を押し付けたまま、黒瀬さんのおしりと胸を揉んでいた……


 えぇ……教室で何してるの……



「……んっ……っ……」


 そして、次第に艶を帯びていく黒瀬の声。神聖な教室の中で行われているみだらな行為に僕は少しだけ頭を抱える。


 そして、桐崎くんは黒瀬さんの胸の先端……を刺激したところで両の手を離した。


 黒瀬さんはトロンとした瞳で桐崎くんを見ている。


 あと少ししていたら彼女は……うん。言わないであげよう。


「これ以上の事は今はしないであげるよ」

「……はい」


 真っ赤な顔で黒瀬さんは頷いていた。


 そして、桐崎くんは僕が耳を疑うようなひとことを言った。


「君に『身体』は与えてあげたけど必ずしも『従順』な訳では無いからね?」


 『身体を与えた』……どういう事だろうか??


 今のやり取りの中に込められた意味に、僕は訳が分からなくなる。



「……やっぱり、悠斗くんは……えっちです」



 真っ赤な顔をで彼を非難する黒瀬さん。

 だが、そこに嫌悪は無かった。


 ふむ……これ以上は彼を問い詰めないと良くわからないな。


 僕はそう結論付けると、新しく手に入れた『諸刃の剣』の使い方を思案した。


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