12・記憶の形
すると、カードはいきなりするりとルルスの前へ飛び、するりとルルスの体のなかへ入る。
目を見開いたまま視点のとどまらないルルス。
自分の頭に浮かんだのは11歳頃の記憶。
『・・・・・・ちゃん、・・・・・・これからどこへいきましょうか?』
『へ?私の口癖ですか?敬語だと話しやすいんですよ?』
誰と・・・・・・話してるのでしょう?
うれしそうに誰もいないところでつぶやいて。
『ただいまです。』
どうして誰も出てこないのでしょう?
どうしてこの数か月と言うときのなかで、私は独りぼっちなのでしょう・・・・・・?
どうしてこうも私は宙を見つめるのでしょう?
そこには何もないというのに・・・・・・。
はっと我に返る。
「メイアちゃん。これ、私の記憶です!ただ。何かが足りないような・・・・・・わからない。わからないんです。」
「あ。あんたのカードだったのか?」
「ええ。今までありがとうございました。」
頭を少し下げると、悲しそうにルルスは笑った。
「これで地震は・・・・・・こないのか・・・・・・?」
そうルーナがつぶやいたときだった。
ガタガタガタガタッ!!
「キャッ。」
小さな声をあげルルスは棚にしがみついた。
「地震!?」
メイアとミョンハクは尻餅をついた。
「ちっまたか!」
ルーナは冷静に蝋燭の火を消し、壁によりかかりながら立っていた。
「どーなってんだよ?」
カシャッ。
揺れが治まるとルルスのポケットから何かが落ちる。
「あら?なんでしょう?これ・・・・・・。」
「小さいキーホルダー?あ。私のポケットにも。」
「でもそれぞれ違うな。」
どうやら三人のポケットの中に入っていたらしい。
本のキーホルダーのよこについているアイテムや色が違う。
「私のは杖・・・・・・でしょうか?」
「俺のは剣だな。」
「私の・・・・・・何これ?」
翼がアンバランスについているような・・・・・・。
ほんの色はルルスが青。
メイアが白。
ミョンハクが赤となった。
といってもきれいな色ではなく、青には黒を足したような渋い色で、白には肌色が交ざってるんじゃないかと思う程薄汚れたような色。
赤はワインレッドのような色だった。
「・・・・・・何でこんなに悲しくなるんでしょう?」
ルルスはキーホルダーを握りしめながらつぶやいた。
記憶のことがどうも、かなり引っかかるらしいのだ。
「どうかしたの?」
「いえ、記憶が・・・・・・大事なところだけ抜け落ちていて、修業をしているときはちゃんと教えてくださる方がいらっしゃるんです。でも、それ以外は、家にも、私が見ている先にも、人が・・・・・・いないんです。」
苦しそうにルルスが言うので、メイアはなんと言っていいかわからなかったが、記憶が戻れば全て思い出すのではないかと思い、こう言った。
「大丈夫だよ。きっとちゃんと何もかも思い出して元通りになるよ。」
「そう・・・・・・ですね。いつか、思い出せますよね?」
「うん!」
ルルスは、寂しそうに笑い、メイアは元気よく頷いた。
“異次元へと旅する者の代償として三人に関する記憶は戻らない。”
そんなことすっかり覚えていない三人は、"いつか"があると・・・・・・信じ続けなければならないなんて知らない。
待ち続けても何も起こらないなんて事もありえるだろうに。
−勇者は大切なものを取り戻すための旅に出た。−
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