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その4

「おい、貴様、ゴンザとか言ったな」


低く、冷たい声。

異変を感じ取ったのか、ゴンザは振り向く。

その眼前に、いつ抜き放ったのであろうか、ロウの構える剣があった。


「な、なんでございやしょう」


「黙れ。これから質問をする。いいな。質問についての答えだけ喋れ。

それ以外を口にしたら翼を切り落とすぞ」


空気が張り詰める。ゆっくりと息を吸い、声として吐き出す。


「この花の種を植えたのは誰だ。お前か? それともお前の兄弟か?

それとも、四翼の竜か? 他の誰かか?」


ロウはゴンザを睨みつける。

ゴンザは目を逸らそうとするが、吸い込まれたように動けない。


「いいか。この花はな、王家にしか栽培を許されていない花なんだ。

種子が飛ばないよう、完全な密室で育てられる。しかし、その花が、外に出たことが一度だけある」


喉を鳴らすゴンザ。

その体は、瘧にかかったかのように震えている。


「王女様が、さらわれた時だ。

あの時、王女様のゆりかごには、その花が置いてあったんだよ」


剣を構え直しながら、ロウは言葉を続ける。


「つまりだ。この花がここにあるってことはだ。

お前の知ってる奴か、お前か……いや、ここにいる誰かが、四翼の竜を知っているってことだ」


ゴンザは、がくりと膝を付く。

先ほどまでの快活さは既に無かった。


「言っただろう。俺の目的は王女様だけだ。王女様さえ取り返せれば、お前たちに危害を加えたりはしない。

ただし、隠し立てなどしようものなら容赦はしないぞ。俺は、王女様のためなら、悪鬼羅刹にでもなれる」


ちらり、とゴンザはある方向に目をやる。

そこには、花畑から通じる細い階段があった。


「あそこか」


ロウはゴンザの視線を見逃さなかった。

そこに向かって歩き出したロウの足を、翼がしっかりと掴む。

一つしかない瞳から大粒の涙を流して、ゴンザは言った。


「どうか……どうか放っておいてくだせえ!

王女様はあっしらの希望なんで! 太陽なんで!

異形のあっしらにも優しくしてくれた!

赤ん坊のころからここで育てたんだ!

おしめを替えてやったりもした!

知ってるかあんた! 王女様は、あっしの翼で寝るのが好きなんだ!

すごく柔らかくて、優しいって言ってくれたんだ!

お願いだ! 今のままで……」


「だまれ!!」


すがりつくゴンザを一蹴し、ロウが叫ぶ。


「お前に、なにがわかる!! 王女様がさらわれてから、ずっとだ!

ずっと俺は王女様のことだけ考えて生きてきた!

王女様は王様にも王妃様にも愛されることなく生きてきたのだぞ!

代わりのものといたら、お前たちの、偽りの愛情だけではないのか!

そんなものは嘘だ! 偽物だ! 

俺の思いと、王様、王妃様の愛情こそが、ほんものだ!!」


そう言うと、ロウは剣を一閃させる。

剣が鞘に収まると同時に、ぽとりと音がした。

ゴンザの片翼が落下する音だった。


「~~~~っっ!!!」


声にならない叫びを上げ、もう片方の翼で傷口を抑えるゴンザ。


「これ以上邪魔すると、もう片方も切り飛ばすぞ。

お前は王女様をさらった怪物の仲間だ。殺されないだけマシだと思え」


そう言うとゴンザに背を向けて階段を目指す。

しかし、その足を、再びゴンザの翼が掴んだ。


「どうしても……いけませんか……」


「くどい。今度はもう片方だと言ったはずだが」


「それでは……仕方ありゃあせん……」


ゴンザの眼が怪しく輝く。

本来、アーリマンという種族は、その瞳の魔力でもって相手を石化させることが出来る。

先ほど視線を交わした際にそれをしなかったのは、彼が平和的解決を望んでいたからだろうか……。


「どうしてもダメってんなら、あっしは、あっしと、あっしらと、王女様を守るため、戦いやす」


逃すまいと、ロウを掴んでいた翼に力をこめる。


「王女様を守るため、だと?」


ロウが呟く。怒りを感じさせる響きが、そこにはあった。


「さらったお前たちが、王女様を、守る、だと?

ふざけるな!! 盗人猛々しいとは、このことだ!!」


ロウの足は徐々に石化し始めているが、彼は怒りの最中にいながらも冷静だった。

風を切る音が、戦いの終わりを告げた。


ロウは、掴まれていない右手で腰に仕込んだナイフを瞬時に抜き取り、

ゴンザの眼に向かって投擲した。

両翼があればロウを押さえつけながら石化させることは容易だったであろう。

だが、ゴンザに残されていたのは片翼だけであった。


眼と、片翼を失いながらも、ゴンザは戦いをやめようとしなかった。

残された翼で、ロウを絞め殺そうとしてきたのだ。

しかし、ロウは冷静に翼を切り落とす。

もはや、ゴンザに出来ることは無かった。


「お願いだ……お願いだ……」


呪詛のように繰り返す言葉。

それは彼の本心からの願いであったのだろうが、

ロウの怒りに火をつけるだけの言葉であった。


「楽にしてやる」


鍔鳴りの後に残されたのは、翼をもがれ、眼を潰され、頭を断ち割られた、ただの肉塊だった。

吹き出す血が、あたりを緑色に染めた。

気づくと、ロウの足は元に戻っていた。




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