その2
探索を続けて十七年後。
(今年も、だめなのか……)
王女の誕生日を三日後に控えたある日。
一昼夜、砂漠を歩きまわったせいであろう、さすがロウも疲れ果て、
使い古した鞄を枕に、横たわりながらそう考えていた。
(いや、まだだ。私が王女様を諦めたら、誰が王女様をお救いするのだ!!)
頭に浮かんだ諦めを振り切り、浮かんだ満月に手を伸ばす。
(月は見えているだけまだいい。王女様は、すがたかたちすら、お見えにならないのだから……)
ぐ、と月を手にするかのように手を握る。
と、その時である。
月を横切るように、影が横切った。
「四枚の、翼……!」
飛び起き、その影を見つめるロウ。
竜のものであろうその影は、北にある山岳地帯へと消えていった。
「山岳地帯……か? あそこはくまなく調べたはずであったが……」
国内はおろか周辺国までくまなく歩きまわったロウであったが、実は、山岳地帯だけはくまなくという訳ではなかった。
もちろん登れる場所、歩ける場所は全て調べたのだが、登れず、歩けない場所がそこには存在していた。
崖。
切り立った崖までは、探索していなかったのである。
その事に気付いたロウは、崖の周りを調べ始めた。
山に強い者を雇い、必死に探索を進めた結果、とある一角に不自然な穴を見つけることが出来た。
人の腕ほどもある穴が、そこかしこに空いていたのだ。
他の地域には全く空いていない穴。
穴の場所を調べ、地図に印を付けていくと、とある崖の周りに集中していることが解った。
そして、その崖を調べてみようというその日。
奇しくも、ロウが竜の影を見てから一年後のことであった。
「それでは、私から降りてみる。お前たちはここで待て。
安全が確認出来たらヒモを引っ張るから、追って降りてきてくれ」
そう言うと、降ろしたヒモをつたい、ロウはするすると崖を降りていった。
幸い、崖は降りやすかった。
ぼろぼろと崩れることもなかったので、しっかりと踏ん張ることが出来た。
半ばほどまで降りた時のことであろうか。
ロウは不自然に大きな穴を見つけた。
大人の背丈ほどもありそうな、大きな穴。
それを調べてみようと近づくと、風が不自然な音をたて始めた。
まるで笛のような音が……。
妙だな、とロウが思い、その穴に目を向けた時、“それ”と目が合った。
崖に空いた大きな穴……そこに、何者かが居たのである。
一瞬であった。
一瞬のうちに、ロウはその穴の中に引きずり込まれてしまった。
戸惑いはしたが、さすがに豪傑である。
ロウは気を失うこともなく、冷静に現状を把握しようと努めた。
(この感触……まるで羽毛のようだ。く、力では振りほどけないか……)
ロウを引きずり込んだ“それ”は、ゆっくりとした足取りで彼を運んでいく。
(こいつは何者なんだ。私を食べようとでもいうのか。
まあいい。私を離した瞬間、剣を抜いて戦おう。しかし、真っ暗だと少し辛いな。目を閉じて、暗闇に慣らしておくか)
やれることを考え終わると、彼は大人しくすることにした。
もしかしたら気絶したり、死んだりしたかと思って油断するかもしれない、体力も温存したい。そこまで考えてのことである。
十分ほどしただろうか……。
ロウの鼻孔は、花の香りをみとめた。
すると、突然体が軽くなった。
“それ”が、ロウを離したのである。
時得たりとばかりに腰の剣を抜き、正眼に構える。
しかし、彼は面食らった。
目の前に広がっていた花畑に。
花畑を明るく照らし出す太陽の光に。
そして、自分の前で平伏している“それ”に。
「すいやせんでした!!」
“それ”は言葉を発した。




