ビビとイゼルは一緒にいた
キリがいいのでここまで
天才王子の爆睡事件から開けて翌朝。
イゼルはふにゃふにゃと動くあったかいものに口と鼻を塞がれて目覚めるという、子育て中のパパさんのような目覚めを経験した。色気もへったくれもない。
敵襲かと勘違いしなかったのはふにゃふにゃしたものがあまりに幼く、ぷにぷにだったからだ。ぷにぷにした暗殺者は存在しないだろう。ぷにぷにに殺されるなんて死に方ごめん被る。
目を開けるとまんまるの薄紫色の宝石の目があった。
そのキラキラした宝石はイゼルをみて笑ったのだ。
イゼルは自分の家臣が目が潰れそうであるとうめいている心境を始めて理解した。
目が潰れそうだし胸も痛い。これが医学書に載ってた心臓病かもしれない。
そう、「感情が溢れそう」
始めて感じる感覚であった。自分の身に何が起こったのかはわからないが今感じている機微が感情なのだと理解した。
ここにはいつも突っ込んでくれるノーマンがいない。
昨晩のことを思い出し、ここが公爵家の屋敷であることを思い出し、人生で始めて寝落ちしたことを思い出し、穴を掘って隠れたいという感覚を始めて知った天才王子(4)
手近な場所にあるハウジングベルを手に取った。
ドタバタとおよそ貴族の屋敷に相応しくない足音が聞こえて公爵家の面々がなだれ込んできた。一緒にノーマンもいる。
公爵に強めのハグをされてちょっとボロボロになったノーマンを横目に昨日あったこと、今の自分の状態を公爵に伝え、王城に伝令を送ってもらう。
その間ビビはずっとイゼルのお腹の上にいた。とってもあったかい。
嬉しいのと困ったことを半分こしたような気持ちであった。
ビビがなかなかイゼルから剥がれない。公爵夫人が抱えようとしても乳母が抱えようとしてもいつものおっとりをどこにおき忘れたのか
魔物のように泣き叫ぶ
フギャー!!!!!!!!
イゼルは嬉しかった。離れたくないと思っていることが自分一人じゃなくて嬉しかったのだ。王城からお迎えが来ても、イゼルが帰るそぶりをするだけこの小さなモチモチの体からどうやって出てくるのかわからない音量で泣き叫ぶ
取らないで
一緒がいい
行かないで
寂しいの
言葉にはなっていないけどイゼルはそう感じ取った。
そしてお迎えに来たお付と公爵に
「申し訳なく思っているのだが私もこのこと離れたくないと感じている。公爵に迷惑がかかるのは理解しているのだが私がこの屋敷に滞在する許可がいただけないであろうか」
と生まれて初めてにっこりとおねだりをした。
公爵としては子沢山のところに子供が一人増えようが二人増えようがどうってことはなかったのだが、迎えに来ていたお付きのジェームズ腰が抜けるほど驚いた。
だって昨日までうっかりすれば廊下に飾ってある芸術品かな?くらい微動だにしなかった王子の表情筋がものすごくいい仕事をして4歳児らしい可愛い笑顔を作っていたのだから。
緊急用のスクロールを破き、魔術師長を召喚し、両陛下と通信をつなぎ、もうみんなの心は一つだった
「うちの子が笑ってる!!!!!!!!!」
この異常事態をなるべく長引かせるため、イゼルは一年ほど公爵家の屋敷に滞在することになった。
期限はイゼルが6歳になって公務に出るまで。
その日から上の兄弟の誰よりもイゼルとビビは一緒にいた。
一つの魂が二つに分かれていたかのように
連理の枝が呼び合うように
イゼルとビビはずっと一緒にいた。




