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アメイジングソケット 少年少女の異界攻略譚  作者: 埴輪星人


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第7話 初心者向け異界:辛口 その4 死に戻り

「ああああああああああああああああああああああああああ!」


「があああああああああああああああああああああああああ!」


 神代神社の境内にて、苦痛に絶叫しながら飛び起きる正樹と佑梨。


 その声を聴いて、社務所から命が出てくる。


「あら~、お帰りなさい」


「えっ? 命さん……?」


「ここ、神代神社ですか……? どうして?」


 命に声をかけられ、一瞬我に返る正樹と佑梨。


 だが、自分たちの置かれた状況を認識して、先ほどとは別方向に混乱する。


「あ~、多分全滅して、死に戻ってるね~。死ぬのってすごく痛くて苦しくって怖いけど、大丈夫~?」


「えっと、あっ……」


「……なんでだろう……。あんなに痛くて苦しかったのに、全く気にならなくなってる……」


「わたしもです……」


「……あ~、そういえば、相沢さんは超再生を持ってたわよね~。でも、喜多村君のほうはそれ系を持ってなかったと思うけど~、なにか新しいアビリティかスキルを覚えたの~?」


「……アビリティとスキルか。だったら心当たりがあります」


「やっぱり。何を覚えたの~?」


「不屈アビリティと苦痛耐性スキルです」


「……よりにもよって、その組み合わせかあ~……」


 正樹の答えを聞いて、初めて渋い顔を見せる命。


 その表情に、不吉なものを感じてつばを飲み込む正樹と佑梨。


「な、何かまずいんでしょうか……?」


「相沢さんみたいに、再生系のアビリティとか持ってれば全然問題ないんだけどね~……」


 恐る恐る質問する正樹に、渋い顔のままそう言う命。


 そのことか、と少しだけ安心する正樹。


「えっと、その話はさっき、相沢さんと一緒にしました」


「喜多村さんが怪我したり死んだりすることに鈍感になってしまうと、まずいじゃすみませんよねって」


「うん、まあ、そういうことね~。精神面にしても、苦痛が消えてるわけじゃないから、気が付かないうちにダメージがひどく蓄積してることがあるのがね~……」


 予想していたとはいえ、かなり物騒なことを言ってのける命。


 その言葉に、本当にやばいと実感して顔を引きつらせる正樹。


 貧乏くじと悪運の組み合わせといい、正樹は組み合わさると有用だが厄介なことになる能力と縁が深いようだ。


「でもまあ、習得しちゃったものはしょうがないからね~。常日頃から無理しすぎないように注意して、早めに再生系のアビリティを引けるよう祈ろうね~」


「やっぱ、それしかないですか……」


「一度習得したものを付け外しできるのって、基本的にクラスとジョブだけだからね~。エクストラ関係の能力にはオンオフできるものものあるけど、それだってオフにしててもいくらかは能力が発動してるし~」


 またしても絶望的なことを言い切る命。


 それを聞いて、どんどん表情が絶望に染まっていく正樹。


 その様子を見ていた佑梨が、これ以上は危険だと話を変える。


「そういえば、超再生を持ってると、死に戻っても大丈夫っぽいことを言ってましたけど、どういうことでしょう?」


「ああ~、それね~。すごく単純な話、超再生は肉体だけじゃなくて、精神とか魂も健全な状態に再生するのよ~」


「えっ?」


「だから、死にさえしなければどんな状態になっても、いずれは完全に元通りになるのよね~」


「それ、副作用とかは……?」


「一切ないわ~。しいて言えば、過信するとあっさり死ぬかもっていうぐらいね~」


「ええ~……」


 正樹とは別ベクトルでヤバい話を聞かされ、うめくことしかできない佑梨。


 死にさえしなければ、というのがいろんな意味で物騒だ。


「注意事項としては、アメイジングソケットで得た能力は、異界から脱出すると百分の一から千分の一ぐらいまで効果が落ちるってことね~。それでも、超再生はあり得ないほどの速度で傷がふさがったりとか、ちぎれた指とかが生えてきたりとかはしちゃうけど」


「それ、人前であんまり派手なケガをしないように注意しないといけませんね……」


「まあ、その代わりいろいろとメリットもあるから、その位は受け入れてね~。ちなみに、女の子的なメリットとしては、どんなひどいけがでも絶対傷跡が残らないことと、本来絶対再生しないものも再生するから胸とかおしりとかが垂れてこないとかかしらね~」


「そうなんですか?」


「そうなのよ~。相沢さんだと、特に胸は将来的に重要になるんじゃないかしらね~。絶対もっと育つでしょうし~」


「あの、そういうことを喜多村さんの前で言うのは……」


 命のあからさまに下世話な話に、顔を赤くしながら小声で抗議する佑梨。


 その横では、正樹が気まずそうな表情で佑梨の胸に行きそうな視線を必死にそらしている。


「……というか、その説明だと相沢さん、老化しないんじゃ……」


「そのうちしなくなるね~。寿命を踏み倒すには別のアビリティがいるけど~」


「……どんどんヤバい話が詰みあがっていきますね……」


「異界に誘われちゃった時点で、遅かれ早かれなにがしかの形で人間の枠から離れちゃうからね~。今はちょっとだけ相沢さんが先行してる感じだけど、そのうちどっちもどっちになると思うよ~。特に喜多村君の場合、主人公補正セットがあるしね~」


 やばいことに気が付いてしまった正樹に対し、そんな追い打ちをかける命。


 その言いようから、命は佑梨の未来予想図なんて目じゃないぐらいヤバい存在になっているのでは、と察したものの、藪蛇を恐れて黙っていることにする。


「それにしても、初めての異界でこんなに早く死に戻ってくるなんて、いったい何があったの~?」


「それがよく分からないんですよ。宝物庫から出た瞬間に、足元の感覚がなくなったと思ったら全身を感じたことがないようなすごい痛みが襲って……」


「僕のほうは、相沢さんがいきなり倒れたと思ったら叫びだして、なんだと思ってそっちを見た瞬間にたぶん何かに刺されて、引っ張られて締めあげられて……」


「ん~……。聞いた感じ、間違いなく何かのモンスターにやられてるとは思うんだけど~、時間的に多分第一層目なのよね~……。いったい何にやられたのやら~……」


 そう言いながら、胸元から直径五十センチ以上はありそうな、結構大きな鏡を取り出す命。


 命の胸はそれはそれは立派な山だが、さすがにそんな大きなものは絶対に入らない。


「それ、どうやって……」


「この服の機能ね~。ちなみに一応言っておくと、体形をごまかす機能は一切ないから、胸を盛ったり腹肉を減らしたりはできないのよ~」


「あの、なぜわざわざ僕にそれを言うんでしょうか……」


「前にね~、そういう失礼な疑問をぶつけてきた男がいたから、一応ね~」


 ぎょっとして突っ込んだ正樹にそう言いながら、鏡をのぞき込む命。


 鏡に映った光景を見て、顔をしかめる。


「いくら辛口とはいえ、初心者向け異界の第一層にあんなのが出てくるあたり、本当に主人公補正セットは仕事に手を抜かないわね~……」


「そんなにですか?」


「そんなになのよ~」


 不安そうに聞く佑梨に対して、渋い顔でそう答える命。


 その様子を見るに、どうやら大分致命的な相手らしい。


「どれぐらい絶望的な感じか分かってもらうために、まず初心者向け異界に関して簡単に説明するわね~」


「あっ、はい」


「お願いします」


 いまいち分かっていないのを見て、一から説明を始める命。


 説明してもらえると分かって、素直に応じる正樹と佑梨。


 何気に異界については、まともな説明はこれが初めてである。


「名前に辛口ってついてるところから察してると思うけど、初心者向け異界も難易度があってね~。初めて侵入する異界は、甘口、普通、辛口のどれかになるのよ~」


「質問です。僕の主人公補正セットも踏まえると、やっぱり甘口や普通より辛口のほうが、難易度的にきついってことでいいんでしょうか?」


「そう考えていいわよ~。ちなみにその上に激辛、地獄、悪夢、絶望と続くけど、全部初心者向けでちゃんとクリアできるようにはなってるわよ~。地獄あたりからは高難易度異界の九割より絶望的な難易度だけどね~」


「うわあ……」


 えげつないことを言い切る命に、絶望のあまりうめき声を漏らす正樹。


 わざわざこの話をするあたり、恐らくだが命は正樹たちが激辛以上の難易度に挑む羽目になると予測しているに違いない。


「で、まあ、具体的な難易度の違いとして、甘口はボス以外での戦闘がなく、罠もチュートリアル的なのが一個だけ。普通はそこに加えてごく弱いモンスターが普通にうろつくようになる感じ。この二つに共通するのは、出てくるモンスターはスキルなしの一般人でも倒せる強さってことなのよね~」


「それって、素手でもですか? わたしみたいに小学生でも?」


「うん、倒せるよ~。多分五歳ぐらいなら余裕で行けるはずね~。まあ、怪我したり死んだりする可能性がゼロとは言わないけど、子供向けのスポーツで起こる確率ぐらいだしね~」


 モンスターの強さについて佑梨に聞かれ、どんなものかと説明する命。


 命の説明通りだとすれば、モンスターと言っても踏みつぶせば倒せるとかその程度の強さなのだろう。


「で、それが辛口になると罠が難易度据え置きのまま数が激増、モンスターもスキルなしの一般人が素手で倒すのは難しいぐらいになって、何よりゲームで言うところのエリートモンスターとかFOEとか強シンボルとか呼ばれる類のモンスターが出てくるようになるのよ~」


「その、強シンボルに襲われたってことですか?」


「うん。だけど、普通は強シンボルと言っても、人間丸ごと溶かしたり簡単に引きちぎったりするレベルのは出てこないはずなのよね~。だって、どう言いつくろったところで、所詮は初心者向けなんだし~」


「ですよね……」


「言うまでもないかもしれないけど、クリアする上でその手の場違いに強いモンスターを倒す必要はないわ~。ただね~……」


「ああ、僕たちの場合、主人公補正セットの兼ね合いで倒さないとクリアできないかもしれない、と……」


「うん。ルールの問題じゃなくて~、クリア条件を満たそうとするとあいつらに邪魔されるんじゃないかな~、的な感じでね~」


「うわあ、ありそう……」


 命の言葉に、実に嫌そうな顔をする正樹。


 何が嫌かといって、自分でもそうなるとしか思えないのが嫌だ。


「なんであんなのが出たのかちょっと確認……。ああ、誰かルール違反した結果、ペナルティモンスターとは別にごく低確率で発生するエリートモンスターの超進化を引いた、と。主人公補正セットは、本当に仕事の手を抜かないわね~……」


「それ、僕のせいですか……?」


「喜多村君は悪くないけど、なるべくしてなった感じはあるわ~」


「……ごめんなさい、相沢さん。どうやら巻き込んだみたい……」


「いえ、多分最初から主人公補正セットにロックオンされてたんじゃないかな、って……」


「可能性はあるわね~。ちなみに、原因となった違反者はこの世から排除されてるから、ペナルティモンスターはもう消えてるわ~」


 しれっと怖いことを言う命だが、正樹も佑梨も違反者が生きていないということに関しては特に何も思わない。


 なんとなく予想していたことでもあるし、暴力を振るってきたよく知らない男が死んだと聞かされてショックを受けるほど、情に厚い性格でもない。


 むしろ、ざまあみろとか面倒なことをしやがってとか、死人に鞭を打つようなことを思わないだけましだろう。


「で、ね。エリートモンスターは普通、一個上の難易度のボスよりちょっと強いぐらいなんだけど、今回は最低でも悪夢のボスぐらいの強さはあるわね~。ちなみに、相沢さんを殺したのは玉虫色のスライムで、喜多村君を殺したのが名状しがたい感じに変異したトレントとこれぞ外宇宙って感じのローパーね」


「……それに勝てとは、主人公補正セットは無茶振りしすぎじゃないか……?」


「まあ、いずれ勝てるようになるはずよ~。絶対のルールとして、辛口では倒したエリートモンスターは復活しないから、安心してゾンビアタックなりなんなりで頑張ってね~」


「まあ、頑張ります……」


 無責任にそんなことを言ってのける命に、遠い目をするしかない正樹。


 それを見て苦笑していた佑梨が、ふと思い立ったように命に質問する。


「そういえば、わたしたち鑑定できないので、宝物庫で見つけたものの正体が分からなくて、喜多村さんのフリーソケットに入れっぱなしなんですよ。見てもらうことってできますか?」


「大丈夫よ~。これは基本サービスだから、今後も正体が分からなかったら、その場でセットしたりせずに素直に持って帰ってくることをお勧めするわね~」


「あっ、はい。次からそうします」


「じゃあ、持って帰ってきたものをここに出してね~」


 佑梨のお願いを笑顔で了承し、正樹に手に入れたものを見せるように言う命。


 命に言われ、すぐに手に入れた正体不明のメモリーを並べていく正樹。


「……ふむふむ。これはすごい。主人公補正セットは本当に仕事熱心ね~」


「えっと、何かいいものがあったんですか?」


「少なくとも、わたしたちの専用装備とか固有施設とかには使えなかったんですが」


「ああ、その辺のメモリーも出たんだ。まあ、そのあたりはそのうちってことで、説明するね。と言っても、同じものがいつ手に入るか分からないから結論だけ言うと、これ全部納品してくれれば、食事と温泉付きの無制限宿泊権限が解放されるわね~」


「「ええ!?」」


「裏を返せば、無期限で宿泊する必要があるぐらい、今回の異界攻略が難しい、っていうことでもありそうだけど」


 苦笑しながらの命の言葉に、先行きが不安でしょうがないという顔をする正樹と佑梨。


「まあ、散々死ぬことになるとは思うけど、最悪精神ダメージが抜けるまでごろごろしても許されるわけだから、腰据えて頑張って~」


「あっ、はい」


「わたしはともかく、喜多村さんが無理しすぎないように注意して頑張ってみます……」


「まあ、今日のところはいい時間だし、温泉でも入ってご飯食べてゆっくり休めばいいと思うよ~」


 他人事感あふれる能天気な命の言葉に、顔を引きつらせながらそう答えるしかない正樹と佑梨。


 こうして、正樹と佑梨の異界攻略初日は、地獄を見ながらの長期滞在が確定して終わるのであった。

さりげなく、命さんが痛みを感じる形での死に戻りを経験していないことが明らかに。


なお、激辛以上の異界に関しては、当然ながらクリアできるの前に「心が折れなければ」とか「ものすごく運と根性があれば」とかが付きます。


絶望とか、九割以上ダイジェストにしなきゃ終わらんレベルの試行回数が必要になるのが確定してますし。


なお、それのどこが初心者向けなのかというと


・最初のフロアには致死性の罠を配置しない。

・拠点からの初回進入時は最初のフロアにモンスターを配置しない。

・回避できない罠は発生しない。

・モンスターハウスは三層目以降、かつその場合はエリートモンスターはランクアップ以外で発生しない。

・特定のスキルやジョブ、アビリティがないとクリアできないフロアやギミックは用意されない。

・特殊なアイテムがないとクリアできないギミックやフロアは、同じ異界のどこかで誰でも取れる形で必ず必要なアイテムが手に入るようになっている。

・仮に必要なアイテムを壊したりなくしたりした場合も、誰でも取れる形で再入手できるようになっている。


というルールがあるからです。

ほら、ちゃんと初心者向け(罠回避やモンスター討伐の難易度は考えないものとする)


次回は一回休みも兼ねて、現在のアメイジングソケット状況をいれます。

ごめんなさい。

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― 新着の感想 ―
>本来絶対再生しないものも再生する ……あのう、それ、相沢さんが持つってことは、ひょっとして、まぁまだ先の話なんですが、 『毎回毎回破瓜の痛みを繰り返す(処〇膜再生)』 てことなんでは……?
超再生は永久歯も生えてくるんでしょうね、脳細胞も増えるのか、脱毛できなくなるはともかく加齢による薄毛は無くなるのだろうか。外科手術が必要な先天性のものがあったら危ないですね。女性の場合は要らないものま…
うわぁ〜···· ひたすら、うわぁ〜としか言えない。 オマケに帰れても受難は続く。 下手に怪我できない。 もらい事故でも一発アウト! そりゃ、服の下の怪我ならまだしも千切れた指がくっつくんじゃなくて…
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