第27話 初心者向け異界:辛口 八日目 専用施設1 その7
「……すごく、誘惑されますね……」
「レベル1の時点で、こんなにメニューがあるの、すごいよね~」
売店にフードコートとして併設される形で解放されたレストランで、麦茶を片手にメニューを見ながら佑梨と命がしみじみと言う。
釣りに夢中になっている間にいつの間にか完成していたレストランは、正樹の料理人ジョブの影響もあってから、ショボい売店のフードコートとは思えない程度にメニューが充実していた。
もっとも
「メニューはいっぱいあるけど、作れるのはフライドポテトとフナの塩焼きだけなんだよね」
「そうなのよね~。プリンは牛乳が、パフェ類はそれに加えてフルーツが、ケーキ関係は小麦粉が必要なのよね~」
「軽食類も、一番簡単なうどんですら小麦粉がなくて作れませんし……」
「なぜか麦茶は材料不要かつ、無料で提供してくれるけど」
現時点では、たくさんあるメニューのほぼすべてが売り切れ表示になっているのだが。
「これは、早急に畑や牧場の強化と作物の充実及び品質の向上が必要です」
「気持ちはわかるけど、ここをいくら強化しても、異界攻略に影響ないよ」
「そんなことはありません! 全滅した後の気持ちの立て直しにすごく影響します!」
正樹の言い分に、力強くそう言い切る佑梨。その横で、にこにことうなずく命。
今のところ、おやつ類も命が用意してくれてはいるが、神社という縛りがあるからか、残念ながら出てくるのは和菓子系ばかりだ。
佑梨としては和菓子は大好物なのでそれは問題ない。ないのだが、それはそれとして生クリームやカスタードクリームがたっぷり入った洋菓子も食べたい。
命にしても、正樹たちの面倒を見ながら現実のほうで洋風スイーツを食べることはできるが、現実側の神代神社はかなりの僻地にあるうえ、異界にいる間は時間経過もない扱いだ。
入手先が車で三十分走ったコンビニに限定されることもあり、在庫的にも財布の中身的にもそんなにいろいろは食べられない。
なので、正樹の専用施設でそのあたりが充実するのは、とてつもなくありがたいのだ。
「うん、まあ、二人がフルーツとクリームたっぷり系のスイーツに飢えてるのは分った。けど、それ踏まえても、優先するのは農場公園じゃないと思うんだ」
「それはまた、どうしてですか?」
「素材的にも攻略的にも、今の時点で最優先なのはたぶん、佑梨ちゃんの専用施設にある錬金工房と神聖魔法学院だと思う」
「あ~、それはそうね~」
「あの、錬金工房はまだわかるとして、神聖魔法学院はどうしてですか?」
「学院ってついてるから、知識関係の補強ができるはずって考えてるんだ。具体的には図書館か何かがあって、レシピ類がいろいろ増やせるんじゃないかなって」
「なるほど……」
正樹が示した方針に、それはそうだと納得する命と佑梨。
戦闘がどうしてもアイテム頼りになり、また二人そろって規模が大きな専用施設を持つため、必要な素材の種類も量も大変なことになっている。
そのことを踏まえて考えると、間違いなく佑梨の錬金術は生命線となる。
「あと、多分だけど、僕の料理人が予想通り固定されてソケットが空いたように、佑梨ちゃんの錬金術師も固定されるんじゃないかなって思うんだ」
「そうですね。今までのパターンを踏まえると、錬金工房と銘打って、錬金術師が固定されないっていうのも不自然ですし」
正樹の指摘に、佑梨も同意する。
実のところ、正樹のものに限らず専用施設全般、習得していることが前提となっている、もしくは習得していないと機能が大幅に制限されたり性能が極端に落ちたりするジョブに関しては、必ず固定機能が付いている。
このことについては、農家、酪農家、釣り人の固定機能が解放され、料理人が固定されたことで正樹のヘルプにも明記されている。
もっとも、変化が大きすぎることもあって、当の正樹はそのことに気が付いていなかったりするが。
「農場の作物もメモリーに化けるってことは、錬金術で加工できるものも結構あるはずだし、採取場頼りだった今までよりちょっとは素材集めもはかどるはず」
「施設のレベルが上がらなくてもね~、正樹君の農業スキルが育てば収穫量は増えると思うから、そういう面でもちょっとは楽になるはずよ~」
「そうですね。それで、わたしの錬金工房と神聖魔法学院を解放できれば、さらに素材の作成や変換が楽になるかもしれませんし」
農場の性質も踏まえ、そう楽観論を口にする正樹。
正樹の楽観論に、ちゃんと根拠を持った上で同意する命と、希望的観測を述べる佑梨。
思惑通りにいかなかったとしても、錬金工房に限って言えば確実に錬金術師の強化につながるため、長い目で見れば必ず何かしらのプラスはある。
「じゃあ、いまから素材集めの周回だね」
「そうですね。と言っても、割り切って素材変換をすれば、すぐ終わりそうですけど」
「そういや、佑梨ちゃんのほうもイチタリナイ状態だったっけ」
「はい。正樹さんのものに比べて、難易度が高くて面倒な素材が必要だったし、思いっきり専用装備と食い合っていたので、後回しにしていましたけど」
「あの時は、専用装備が優先だったからね」
「はい。しかも、錬金工房と神聖魔法学院に使うって分かったの、専用施設1が解放された後で、もうその時には専用装備のほうにセットしちゃってたんですよね」
「そういや、あの時拾った素材の大部分は、あの後一度も拾ってないよね」
「ですね」
佑梨の専用施設の解放状況を確認し、いろいろと思い出す正樹。
施設としての仕様が大幅にファンタジーよりなせいか、佑梨の専用施設は正樹のものに比べて、レアリティこそ同じものの入手率が低かったり素材変換が面倒くさかったりするものが要求されがちだ。
専用装備とも食い合うところを見ると、本人に自覚はなかろうが、そもそも佑梨自身がそういうものを必要としがちなのだろう。
もっとも、正樹は正樹で入手難易度こそ低いものばかりとはいえ、ちょくちょく低レベル帯とは思えないほどの量を要求されるので、どっちがより難易度が高いかは一口には言えない。
スライムを仕留めるまで雑草1個が手に入らずに専用施設1をまともに運用できなかったことを考えると、余計にであろう。
「じゃあ、頑張って素材を集めよう!」
「はいっ!」
「いってらっしゃ~い。私はもうちょっとまったり鶏でも眺めてるわね~」
明日の自分たちのために、気合を入れる正樹と佑梨。特に仕事もないので、もう少し農場でさぼることにする命。
そんなこんなで、食欲というもっとも原始的で本能に直結した動機から、今までにないぐらい本気で周回に挑む佑梨であった。
「……むう」
「さすがに、優先順位を間違えたらだめだよ?」
「分かっています。分かっていますけど……」
二時間後。がっつり周回を終えた佑梨と正樹は、質・量ともに上振れした収穫物を前にそんなやり取りをしていた。
なお、宝箱の中身が素材だったのも、質が上振れした理由の一つだったりする。
「でも、これだけあれば、正樹さんの専用施設1が全部解放できて、しかも農場と牧場のレベルもあげられるんですよ!」
「その後が続かないし、農場のレベル上げても欲しい作物の種がないと話にならないから、結局パフェとかは遠ざかる気がするよ」
「分かっています。分かっているんですよ。でも、どうしてももしかしてという可能性が頭をちらついて……」
思った以上にパフェやケーキに飢えていた佑梨に、思わず天を仰ぐ正樹。
なんだかんだで自分の一部なのでなんとなく分かるのだが、農場と牧場のレベルを一つ二つ上げたところで、佑梨が満足するようなスイーツは実現できない。
が、それを今の佑梨に言って納得してくれるかというと、多分納得しないだろう。逆の立場なら、正樹だって納得しない。
なので、方向性を変えてみることにする。
「ちょっと話を変えるけど、気になってたことがあるんだよね」
「気になってたこと、ですか?」
「うん。種って、錬金術で作ったりできないのかなって」
「錬金術で、ですか? 多分できるとは思いますけど、今は無理です」
「施設を作っても?」
「それは分かりません」
「そっか。もしできるんだったら、命さんがくれた謎の種と同じものが用意できないかなって思ったんだけど」
「……ああ、あれが作れたら、作物の種類が増やせますね」
「うん。果物類も多分増やせるから、単に農場のレベルをあげるよりも直接的に作れるスイーツが増えると思うんだ」
「そうですね」
「あと、錬金術で肥料とか作ってもらったり、品種改良を補助してもらったりすれば、そもそも果物自体が美味しくなるはずだから……」
「美味しいケーキが作れます!」
正樹の誘導に見事に引っ掛かり、錬金術を強化するほうに考えが傾く佑梨。
そこに、正樹がさらに追撃を入れる。
「そうやって錬金術のレベルが上がれば、もっと効率のいい肥料とか作れるかもしれない。そうすると、錬金術に使う素材の収穫量が増えて、僕や佑梨ちゃんの専用装備と専用施設の解放が進むから、もっといい作物が収穫できる」
「そうすれば、さらに美味しいスイーツが! 分かりました、錬金工房を解放します!」
バラ色の未来を語られ、ノータイムで錬金工房の解放を決める佑梨。踊るような足取りで、命から借りている工房へ移動する。
「……佑梨ちゃんって、あんな腹ペコキャラだったっけ……」
「こっそり外でコンビニスイーツを食べてる私ですら、結構飢えてるからね~。年齢的にも普通に甘いおやつが好きな年ごろなんだし、あんこばっかりだと飽きてくるのも分かるし、しょうがないと思うわよ~」
「まあ、小学生だから、しょうがないか……」
「うんうん。忘れがちだけど、小学生だもの~。まあ、二十代だろうが三十代だろうが、スイーツ命レベルで好きな人はたぶん、あんなものだと思うけどね~」
「そうかも」
よくよく考えたら、子供がおやつのために本気になるのは当然だ。命に言われてそう考え直す正樹。
そんな正樹に、一転して渋い顔になった命が言葉を続ける。
「で、おやつ類に関してはまあ、レベルとか相応の内容なんだけどね~。あの農場公園の釣り堀、なんかおかしいわよ~」
「……そうなの?」
「解放したての1レベルでアユとかニジマスとかがほとんど釣れないのはいいとして、釣れる変なものがレベル不相応にもほどがあるのよ~」
「……まあ、三葉虫とか釣れた時点で、なんか変だとは思ったけど」
「出てくる前にもうちょっと釣ってみたけど、そんな次元じゃなかったわ~」
恐ろしいことを言い出す命に、いったい何を釣ったのかと胡乱な視線を向けてしまう正樹。
そんな正樹に、なんとも言い難い表情で、いくつかのメモリーを見せる命。
「……『マイクロ宇宙忍者モドキ』? 『インスマスの落とし物』? 『時空を駆け抜けた海鮮丼』? 『イルカの骨格標本』?」
「すごいでしょ~? 意味不明にもほどがあると思うわよね~?」
「そもそも、骨格標本以外どういうものかが分からない……」
意味が分からないにもほどがある品々に、反応に困ってしまう正樹。その様子に、そうだろうなあと後方理解者面でうなずく命。
「まあ、ちょっとあんまりにもあんまりだから、正樹君にお願いがあってね~」
「お願い?」
「多分、次かその次ぐらいに釣り図鑑的な機能が解放できるようになると思うから、出てきたら一番最初に解放してほしいのよ~」
「それぐらいならいいけど、他の事より釣り堀を優先したほうが?」
「そこまでじゃないわ~。 他の優先順位が高いものを終わらせた後、釣り堀の強化をしたときに図鑑的なのがあれば、他の釣り堀の機能とか施設・設備より先にやってほしいかなっていうぐらいね~」
「うん、わかった。そういうのって、達成度報酬とかありそうだから、先にやったほうがいいかもだし」
「お願いね~」
自分も気になるので、命のお願いを快く聞き入れる正樹。
そのタイミングで、佑梨が戻ってくる。
「やっぱり、二時間かかるみたいです」
「となると、もうちょっと採取して晩御飯食べたらちょうどいいぐらいかな?」
「はい。せっかくなので、解放されてすぐに作業できるように、多少は素材を用意しておきたいです」
「だね」
現在の微妙な時刻を踏まえ、もうちょっと素材を集めることを提案する正樹。
ニンジンをぶら下げられた馬状態なのもあって、やたらやる気がたぎっている佑梨が食い気味に同意する。
「じゃあ、頑張ってらっしゃいね~」
「はーい」
「行ってきます!」
命に見送られ、再度素材集めに出発する正樹たち。
その後、きっちり二周素材を集め、夕食を終えて軽く学校の勉強を済ませたあたりで、錬金工房が完成する。
その成果は甚大で……
「正樹さん! 命さんがくれた釣り堀のガラクタ類が、ものすごくいろんな素材に分解できます!」
「……やっぱり、専用施設の効果って、すごいよね……」
「はい! 正樹さんの言うことを聞いて、先にこっちにしておいて正解でした!」
「この感じだと、学校のほうも割と早く解放できそう?」
「明日の成果次第ですけど、そんなにかからないと思います。多分釣り堀で家電とか自転車とか釣れば、その素材を変換するだけでそろうと思います」
「そっか」
割と長く放置されていた佑梨の専用施設が、急に進展し始めるのであった。
マイクロ宇宙忍者もどきは頭がセミっぽいザリガニです。なお、食べられません。
釣り堀で釣れるアイテムは、基本的に釣った人のものです。
ただ、ぶっちゃけ命さん的にもらっても困るものなので、普通に素材として正樹たちに押し付けてます。
自転車とか、修理したら使えそうな感じですが、残念ながら修理する手段がないので、現状では錬金術で分解とか変換とかして素材にする以外の使い道はありません。
後、完全に食い気に走った佑梨ですが、小学生なので仕方がない。プリンなら比較的早く形になるかもなので、頑張れ。




