その名前は
本日2話目です
「ねえ、あなたはここで何していたの?」
「え?ああ、あれだよ採集ってやつ。ほらこれ、さっき採ったムラサキマダラキノコ。意外と高く売れるんだ」
久しぶりに人と森を歩くのも悪くない。そういえば名前も知らないし、こっちも一度も名乗ってなかったな。
「へえ、私も今度探してみようかしら。森の浅いところに行くくらいなら許されるでしょうし」
「許される?なんか制限されてんのか?」
「なっ何でもないから気にしないで!それよりあなた、名前を聞いてなかったわね。なんて言うの?」
「ランベルだ。姓はない。君は?」
「私は……アリゼよ。よろしく、ランベル」
彼女は、少しの逡巡の後そう名乗った。それはまるで、ほんの少しの喜びと、期待と後悔がないまぜになったような表情で。
「......どうしたのよ、急に黙り込んで」
「いや、何でもないさ。おっと、ゴブリンだ」
おかしいな。今までやってきてこんな浅瀬で遭遇することなんて1年に一度あるか無いかってところだぞ。それが1日に2回なんてどうかしている。
「牽制するわ。【光矢】」
アリゼの放った光の矢がゴブリンに当たって弾けた。致命傷には至らないが、動きを止めるには十分だ。
というか、魔法使いかよ。しかもあの武器、魔法発動媒体にもなる儀式剣じゃないか。随分と高級な装備だな、どこかの令嬢なのか?
「【身体強化】」
本日2度目のスキル使用だ、もう魔力が心許ない。
止まったゴブリンに近づき、一閃。浅い、返す刀で再度攻撃を試みるが防がれる。
棍棒を振りかぶってきたので受け流し、心臓を狙って突きを放つ。
「gigyagi!gu」
「【光矢】」
最後の抵抗を試みてきたが、アリゼの魔法によって防がれた。
これで終わりか。何とかなったな。
「お疲れ様、やっぱりあなた強いじゃない」
「そっちこそ魔法使いだったのか。いいな、その剣」
「ええ、お祝いでもらったの。気に入ってるわ」
お祝いときたか......これはやはり貴族の類ではないか。まあ本人が隠している気があるのなら突っ込まないでいよう。その方が互いのためだ。
「そうだ、ゴブリンの討伐報酬で酒場で飯でもどうだ。奢るぜ」
「そう?じゃあ行こうかしら。一度入ってみたかったのよね。1人じゃ許されないし。あ、自分の分は自分で払うわよ」
「そうか?じゃあ、とりあえず戻ろうか」
――思えば、この頃から俺は彼女に惹かれていたのかもしれない。らしくもなく酒場に誘っているあたり相当重症だ。
この日の朝はいつにも増して晴れていた。まるで、この出会いを祝福するかのように。




