始まり
冒険者の朝は早い。早朝から動かなければ美味しい仕事は残っていないからだ。とはいえ、毎日毎日早起きしている同業者はあまりいないのではないだろうか。俺は習慣になっているので起きている。さながら休日出勤のサラリーマンのようだ。
そう、俺には前世の記憶がある。意識がそのまま引き継がれたというより、知識があると言った方が正確か。性格とかはこの体に引っ張られている部分が大きいかもしれない。
「よう!ランベル、今日も早いな!」
リーディスが声をかけてきた。暑苦しいが悪いやつではなく、年も冒険者歴も近いからそこそこ仲良くやっている。
「俺はベテランアイアンクラスの優秀な冒険者だからな。早起きは癖なんだ」
「ベテランっつってるがまだ2年目だろ。アイアンといえばお前、そろそろ昇級も近いんじゃねえのか?」
「あー……。いやあ、まだ早いかなーって思ってるんだけど」
「なんだ、乗り気じゃないのか。モタモタしてると俺が先にブロンズになっちまうぞ」
冒険者にはランクがあり、下から順にアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリルとなっている。俺たちは1番下のアイアンクラスで、下っ端だ。それでもしっかり働けばそこそこ稼げるし貯金もできるし、何より安全だ。
「ブロンズになったところでまともに討伐任務で戦えないだろ。まだ14歳の非力な子供だぞ?俺たち」
「まあなんとかなるだろ。じゃ、仕事行ってくるぜ」
そう、14歳なのである。この世界では田舎の農村で生まれたものは、長兄が畑を継ぎそれ以外の兄弟は土地を開墾するか、冒険者になるくらいの選択肢しか与えられていない。
開墾は大変だ。重機も何もない世界で、己の身と小さな道具で切り開かなければならない。もし畑を作れても、そこで確実に作物が育つ保証はどこにもないのだ。だったら俺は冒険者を選択するね。
「ブロンズかあ……。あれを使えば戦えるようにはなるだろうけど踏ん切りがつかないんだよな」
たしかにブロンズのほうが稼げるだろう。しかし、子供が戦ってもゴブリンに辛勝するくらいがせいぜいだ。怪我もするだろうし治療費も馬鹿にならない。
「ま、いいか。よーし今日も清掃するぜー……って、ん?」
いつのまにか、掲示板の前に見慣れない人物が立っていた。もう2年以上もここにいるんだ。こんな早朝に来てる人なら大体顔見知りだが、俺は彼女を一度も見たことがない。それに、装備も妙だ。同じくらいの年齢なのに装備の質が高すぎる。
「ねえ、あなた」
彼女は俺に話しかけてきた。その煌めくような金髪を靡かせ、新緑の瞳を真っ直ぐに向けながら。
「これ、どうやって見るのかしら」
これが、俺と彼女の始まりだった。この出会いがその後の運命を大きく変えるとは、その時は思いもしなかった。




