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妙な喧嘩に巻き込まれた件

 エステルによってとある飲食店の常連になってから、入り浸っていたと聞いていたのだが、入ったその報告に、アルズフォルト以外の樹里の部下ーーつまりは魔族達から殺気が溢れた。

 

 「あの樹里さんが行方不明、ですか」


 殺気が溢れる幹部だけが集まった朝会。

 アルズフォルトだけが冷静に、事実を呟いた。


 「でも、たしかエステルさんも一緒だと思ったんだですけどね」


 「あのネズミ女のことはどうでも良いんですよ!」


 どうでも良いと言うことは無いだろう。

 というか、本人が聞いたら不快感を顕にすることだろう。

 レドルリアことレドの叫びに、アルズフォルトは無表情だ。


 「でも、あの魔王が行方不明なんて、何かの間違いじゃないか?」


 現在、この南大陸担当の魔王である樹里の側近はレドも含めて四人いる。

 便宜上、南大陸の四天王と言われている。

 そのなかの一人がレドであり、もう一人は何故かエステルとなっている。

 現在、樹里とともにエステルも行方不明であるが、この場には残りの四天王である二人もいた。

 今しがた、不思議そうにそう言ったのはノストラという名の魔族の青年である。

 樹里によって魔王の世代交代のようなものが行われたことにより、四天王の人事も変更されたのだ。

 レドの頃、四天王をしていた者達は皆定年退職の時期であり、丁度よかったのだ。

 今は役所本部でアルバイトとして再雇用されて、小遣いを稼ぎつつセカンドライフをエンジョイしていることだろう。

 この辺、ちょっと違うが天下りだろと時々言われるが、色々な事情があるのだ。

 旧四天王達は全員既婚者であり、退職して一週間ほどは配偶者とのんびり過ごしていたのだが、さらに半月、一ヶ月と時間が経過するうちに配偶者達からうざがられるようになったのだとか。

 遊びに行くのも良いが、小遣いも稼ぎたいという彼らの要望に万年人不足である本部はこの願いを聞き入れた。

 旦那元気で留守が良い理論である。

 まぁ、そんなわけで、空白になった四天王の椅子に座る面子も一新されたのだった。

 エステルが四天王の紅一点のため、残る一人も男性であった。

 いや、外見だけなら幼児だが。

 ダークエルフ族の七、八歳くらいの外見である男の子ーーマクスウェルがノストラの言葉に返す。


 「あのお嬢ちゃんは、かなり真面目な性格だからな城の門限までに帰れないようなら事務と管理室へ連絡いれて施錠するように指示を出していた。

 それが、この一週間無いというのはさすがに変だ。

 そう言えば、どこで行方不明になったんだ?」


 迷惑勇者パーティ対策もあり、城の施錠とセキュリティの面で樹里は定期報告ではないがカエルコールをしていた。

 今回、エステルとともに樹里は三泊四日の温泉旅行に出かけていたのだが、予定の日程を過ぎてもカエルコールが無かった。

 樹里の休みはまだかなりの日数が残っていたし、一日、二日くらいならそういったこともあるかと最初は気にしていなかったのだが、さすがに一週間はおかしい。

 三日目に混乱を避けるために幹部達だけで調べたところ、エステルとも連絡がつかず、二人して行方がわからなくなっていることが判明したのだ。

 それから今日までの間、極秘で捜索を続けていたのだが。


 「北大陸です。有名なレジャー施設があるとかで、そこに遊びに行ったんですよ。予定通り遊んで宿をチェックアウトしたところまでは確認がとれてます」


 マクスウェルにアルズフォルトが答えた。


 「レジャー施設、あれか?

 温泉だけではなく、カジノや乗馬ーー金持ちの遊びが一通りできるとかいうホテル」


 「は、はい」


 アルズフォルトの肯定に、マクスウェルは携帯端末を取り出すとどこかに電話をかけ始めた。

 そして、席を外す。

 残った、アルズフォルト、レド、ノストラの三人は情報の共有を行う。

 と言っても、アルズフォルトは下界のそう言った娯楽には疎いのでレドとノストラの話を聞くだけだ。


 「北大陸は最近トラブルがありましたっけ?」


 レドの疑問に、ノストラが険しい表情で答える。


 「魔族間だけなら、反勢力との小競り合いが続いていると聞いている。

 と言っても、本部での会議で報告するような問題にはなっていないはずだ」


 「そう言えば、ありましたね。そんな話」


 基本、他大陸のゴタゴタの情報はあまり入ってこない。

 各大陸担当の魔王にトラブル等の対処も一任されているからだ。

 とはいえ、支配とは少々違う。

 あくまで、ヤラセが根本にあるためそれぞれの大陸に無数に存在する国を本部の指示以外で襲うことはない。

 そして、例えば種族同士の抗争にも基本介入はしないことになっている。

 この世界を動かすシナリオに影響が出る場合は別だが、支配しているようで魔族側は基本仕事以外で手を出すことはないのだ。

 しかし、今話に出た反勢力は違う。

 便宜上の総称で反勢力と呼称されてはいるが、早い話が中央大陸にいる現在の魔王に不満を持っているテロリスト集団だ。

 様々な組織があり、北大陸のそれはかなりの過激派らしい。


 「でも、樹里さんとエステルさんの失踪に関係があるとは思えませんし」


 「わからないぞ」


 懐疑的なアルズフォルトに、ノストラが続けた。


 「樹里様は、当人やフォルが思うよりもずっと有名人なんだ。

 これは俺の妄想だが、魔族は強い者に惹かれる習性がある。

 現魔王であるあのガキに太刀打ちできる存在だと言っても良いくらいだ。

 チャンスがあれば引き抜きの勧誘くらいするだろう」


 ノストラが言い終わるのと、マクスウェルが戻ってきたのは同時だった。


 「居場所、わかった」


 言いつつ、マクスウェル携帯端末の画面を見せてくる。

 そこには、ライフル銃を片手にピースサインをしている樹里とエステルが写っていた。


 



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