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画像つきだったのもあって、懐かしくなってしまったらしい

 「中々手強いですね」


 アルズフォルトの言葉に、エステルが呆れたように返した。


 「ストレス解消法なんて人それぞれなんだからほっとけばいいだろ」


 「いや、さすがに気遣わないわけにもいきませんし。

 それに、休みなのに職場に上司がいると嫌なもんですよ」


 何しろ、休みなのに出掛けずずっと城の中の自室か、社食にいるのだ。


 「だから、どっか行けってのも中々酷いと思うけどな。

 というか、食事以外で部屋から出ないならほとんど顔を合わすこともないだろ」


 「そうなんですけど」


 「んで、一番不思議なのは、なんで俺にその相談してくるのかってこと」


 「だって、エステルさんが一番樹里さんと仲良いじゃないですか」


 「そんなに仲良くねーけど」


 「でも私と違って、普通に話してるじゃないですか。

 樹里さん、私の時はずっとイライラしてるし」


 「そのお嬢様風のしゃべり方が気に食わないんじゃねーの?」


 プラスして使えない従業員扱いなのだろうと思うが、口にしなかった。


 「せめて丁寧な言葉遣いって言ってくださいよ!」


 「あ、ちょうどいいや。魔王様!」


 ジャージ姿で何故かウォーキングしていた樹里を見つけて、エステルは声をかけた。


 「なに?」


 「魔王様って、お酒飲めたっけ?」


 「飲めるけど」


 「清酒、それも熱燗、呑める店知ってるけど今日行かね?」


 この申し出に、さすがの樹里も目を丸くした。


 「清酒? こっちのお酒じゃなくて日本酒ってこと?」


 「そう」


 「あるの?」


 「こっちの世界での清酒もあるけど、魔王様がいた世界の酒も出てくる店だよ」


 「居酒屋?」


 「うーんと、レストハウスってなってた」


 「へぇ」


 「メニューに載ってないのは、言えば材料さえあればマスター作ってくれる」




 そして、夕方。適当に時間を潰した後。

 樹里はエステルに連れられ、その店にやってきた。

 店の名前は、【綺羅星】。


 「ここ?」


 「そっ。まおーー樹里みたいな転移者が常連だったりするから、たぶん料理の味も口に合うと思ってさ」


 プライベートな時間、ということでエステルは樹里のことを呼び捨てにしてくるが、樹里は気にせずに店を眺める。

 木造の店だ。

 

 「へぇ」


 店に入ると、カウンター席があり、奥はテーブル席になっていた。

 

 「いらっしゃいませ!」


 そんな幼い声が下から聴こえてきて、樹里がそちらに視線をやると雪のような純白の髪を赤いリボンでツインテールにした翠色の瞳を持った、小学校低学年かもっと小さいだろう幼女が不思議の国のアリスのようなエプロンドレスを着て立っていた。頭には三角巾を付けている。


 「あ! エステルちゃんだ!」


 ニパっと天使かと見誤りそうになる可愛い笑顔に、ここ最近荒んでいた樹里は癒された。


 「おっすー!」


 エステルは軽く挨拶すると、さっさと定位置なのだろうカウンター席の一つに腰を下ろしてしまう。

 エステルもそれに続いた。

 そこに、店員と思われる幼女がメニューを持ってきた。

 

 「決まったら呼んでください!」


 そうして店の奥に引っ込んでしまう。

 それを見送って、樹里は料理よりも先にドリンクの頁を開いた。

 ジュースもあるが、たしかに酒も置いてあった。


 「朝日山がある」


 本当にあった、と感嘆にも似た呟きを樹里は漏らした。

 それは、彼女の嫌う父と祖父が呑むので家に置いてあった酒であった。

 家族は嫌いだったが酒は好きだったのでこっそり内緒で晩酌をするときによく呑んでいた酒でもあった。

 癖で寄っていた眉間のシワが無くなり、樹里は続いて料理を確認する。

 洋食、和食、よくファミレスで頼んでいた料理の中に、樹里はそのパスタ料理を見つけた。

 数少ない家族との幸せな時間を、すっかり忘れてしまっていた幼い頃の記憶が蘇る。

 家族と外食するとき、父親が常連だったレストハウスにあった料理である。

 

 「これにしよう」


 付き合いの長いアルズフォルトですら聞いたことのない、子供のような弾んだ声で樹里はそのメニューをエステルに見せてきた。

 それはシャーレン・スパゲッティというメニューだった。

 


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