彼女達との距離
さて日は改めて月曜日。いつもの様に玄関を出ると麻美姉と美海が言い合いながら待っていた。
「おはよう要!」
「おはよう要ちゃん♪」
「おう……」
昨日僕は彼女達のことを恋愛感情として好きじゃないことが分かってしまいなんか気まずい……。
「どうかしたの要ちゃん。元気ないわね~」
「え? そ、そんなことないよ。ほら、元気元気!」
「……」
そしたら直ぐに、
「要ちゃ~ん♪」
「あ、姉さんズル……いや、何してるのよ!?」
麻美姉がいつものように甘えながら僕の腕に絡めてギュッとしてきたが、僕の気持ちは高揚しなかった。
「あれ?」
「……今日は止めときましょうか」
彼女はすっと僕から離れ、少し距離を置いて僕達は学校へと向かった。クラスではいつものように山本君と間宮君と話す。
「ネット小説の書籍化がある種のブームになってるな」
「そうなん?」
「やはりある程度のファンがいて売れる見込みがあるからだろうな」
「そりゃそうだよな。出版業界も本が売れないと駄目だからな」
「逆に言えば挑戦を恐れているといえる」
「え?」
「そりゃそうだよ。失敗したらどうするんだ?」
「確かに今や出版業界は風前の灯火、火の車。失敗したら倒産する恐れもある。しかしだな」
「しかし?」
「挑戦の無い会社はこれ以上大きくなれない」
「どうして!?」
「今までにない新たな作品に挑戦しなければ大ヒットが起こらないからだ!」
「確かに」
「そりゃそうだが、リスクも大きくないか!?」
「まぁ、それも言える」
「だろ?」
「まあけど、講〇社や〇英社は縮小しても大企業だから倒産までしないだろうが」
明るい話じゃなかったので、なんかどよーんとした空気になった。
「あ、あのさ山本君」
「なんだい?」
「ラブコメの主人公がハーレム展開の時の結果はどうなる? 一人を選ぶのかい?」
「え?」
突然の質問に彼は驚いた顔になったが、少し考えた後にこう言った。
「まぁ、基本はハッピーエンドだね」
さて学校を終えてしばらく部屋で飯を食べてくつろいだ後、美希に連絡する。
『今大丈夫か?』
そして30分くらい経ってから彼女から連絡が来た。
『大丈夫、どうしたの?』
『あいつらにどういう対応したら良いか分からなくなって』
『あぁ、その話か』
『うん』
『そうねぇ。やっぱり一旦気持ちの整理をしたらいいんじゃない?』
『え? どうやって?』
『彼女達から少し距離をとるとか』
『え? しかしそれじゃあ』
『今まで近くにいるのが当たり前だったから、少し離れれば見方が変わるかもよ』
『成る程』
『そうそう』
『分かった。そうしてみるよ』
『うん』
『ところでさ美希はどんな部活に入っているんだ?』
『私はね~……』
彼女の色んな近況報告を訊いた。部活のこと、学校のこと、友達関係のこと。色々話をして楽しんだ。
『じゃ、またな』
『うん、また』
ラインを止めて見直していると、外から複数の自転車の音が聞こえてきた。どたどたと階段を上がり僕の部屋に菊地姉妹が入ってきた。
「大丈夫要ちゃん。調子悪くない?」
「要大丈夫?」
「お姉ちゃん達から聞いたよ。お兄ちゃんが元気ないって。大丈夫ーっ?」
「丁度良い所に来た諸君。話が合ったんだ」
「え、何々?」
三人は期待の眼差しでこちらを見てくる。そして僕は言う。
「良いか、僕にあまり関わらないで欲しい」
「え……?」
三人は絶句した。まぁ、そりゃそうなるだろうな。
「え、どうしちゃったの要ちゃん。風邪? 風邪でもひいたの!?」
「僕は至って健康だ」
「けどどうして要。それならそれなりの訳を訊かせてよ」
「そうよお兄ちゃん。そうでないと納得出来ないわ」
「それはだな……」
僕は一語一語考えながら喋る。
「近すぎて見えなくなったんだ」
「え? 要ちゃん。遠視になったの?」
配慮しすぎたか?
「そういうことじゃなくて、三人が積極的に色んなことして来るものだから、自分の気持ちが分からなくなっちゃって」
三人は黙ってしまった。
「私達は少し自分の気持ちを要ちゃんに押し付けすぎたかしら……」
「いや、そこまでは……。ちょっとだけ距離を置いてほしくて」
「分かった。そうする。美海、由美、要ちゃんの意向が分かったわね? 暫く要ちゃんと距離を置くこと。抜け駆けなしよ」
麻美姉がそう言うと二人は渋々首を縦に振った。
「済まない三人とも」
「いいわ。これも要ちゃんの為だもの」
こうして静かに三人は帰っていった。翌朝玄関を出ても三人の姿はなく、少し寂しかったが一人学校へと向かった。学校に着くと偶々美海と会う。
「おはよう要」
「あ、おはよう美海」
「……」
「……」
「……じゃ、また」
「おう」
気まずい空気になりながら彼女はそそくさと教室に向かった。僕も何も喋らず静かに一人教室へと向かった。
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