ヒトノモノ その62 物神
六十二
家に着いて、真っ先にスミレさんの胸部の膨らみを思い返していました。恥ずかしながら、触れてみたいと切望してしまったのです。実際に触れたら、どんな感触がするのだろうか。僕は頭の中でイメージを紡ぎました。
おそらく、たんなる肉にすぎないでしょう。しかし、たんなる肉以上の何かがそこにはあるような気がしてならないのです。有り体に言えば、そこには魂のような何かがあるはずです。
といっても、僕はプラトニックな感情など持ち合わせていないのです。いわゆる物神崇拝というやつなのです。つまり、人間が心と肉の二つでできているとすれば、僕は彼女の肉が放つ色香にしか興味がないのです。
しかし、僕は自分をそんな卑しい人間だと断定したくありませんでした。人間を人間として尊重できる人間でいたかったのです。
しかし、そんな自分の理想を裏切るように、僕は自涜に耽ってしまいました。彼女の肉体が持つなんとも言えない色気に誘われてしまったのです。享楽を体全体で感じたのです。
しかし、どことなく虚しさがこみ上げてきます。自分は一人で何をしているのだろうか。たんなるセックスの代替行為をしているだけの寂しい布団の上で、頭がクラクラしてきました。
「寂しい奴だな」
脳の奥で声がします。その声の言う通りでした。
「お前のその醜い姿を見たら、彼女はどう思うかな?」
叱りつけるような声。
「彼女は関係ないだろ」
と僕は脳の中で反論しました。
「お前は卑しい人間だよ」
そう言われると、言い返す言葉がなくなりました。
しかし、脳の中ではあらぬ妄想が蜃気楼のように浮かび上がってくるのでした。スミレさんがセーラー服を着ている姿が目に映ってきました。大学生といっても、スミレさんは高校生に見える気がします。その後ろ姿をじっと眺めていたいのです。セーラー服の後ろ襟から出ている白い三角形のスカーフにそそられるのです。
こんなの机上の空論でしかない。僕は自分の脳の中にある妄想を一掃しようと努めました。妄想の霧が晴れて、見えたのは自分の愚かな両手でした。自分の手が呪わしく感じました。
しかし、僕はまた妄想の世界に戻ってしまうのです。自分の意志ではどうにもならないのです。こうして、僕は妄想と現実を行ったり来たりしました。




