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ヒトノモノ  作者: Kusakari
藤原 パート1
49/120

ヒトノモノ その49 意味

四十九

 本田は封筒から原稿用紙を取り出した。その原稿用紙は黄ばんでいた。15年という時の流れが原稿用紙に染みついていた。


 藤原の字は汚かった。けれども、読めないことはなかった。一人の男の生きてきた証をその筆跡から本田は感じ取った。

 

 長岡へ


 先立つ不幸を許してください。この分厚い原稿が届いたころ、僕は死んでいるかもしれません。運が良かったら、生きているかもしれません。どちらにせよ、僕の望みは達成されたはずです。


 ただ死ぬだけというのは、芸がないような気がして、この遺書というか小説を書くことにしました。自分の半生というものを描いてみたかったのです。僕という愚かな人間を描いてみたかったのです。


 君にとって、僕の死は突然の出来事だと思います。というのも、僕は死を匂わせるようなことを君に一度も言ったことがないからです。しかし、僕はずっと前から「死にたい」と思って生きてきました。より正確に言えば、「この世に生まれてこなければ、よかった」と思っていました。


 どうして、生まれてきたのだろう。僕はずっとその理由が欲しくて欲しくて仕方がありませんでした。しかし、生きている意味などこの世のどこにもありはしないことを知りました。どんな知識に触れようと、どんな文学に触れようと、僕は満たされることがありませんでした。


 もっとも切ないことは、自分だけがこの空虚な問いに苦しんでいるということでした。誰も生きる意味など問わずに平気な顔で生きている。僕もそんなふうに生きていきたいと思っていました。しかし、問わずにはいられません。


 そのうち、僕はこう思うようになりました。「生まれてこなければ、よかった」。生まれてこなければ、生きる意味など問う必要性がなくなる。言うまでもなく、僕という存在が生まれてこなかったのですから。


 しかし、生まれてきたのだから、仕方がない。しぶしぶ生きるしかないのです。ただ、生きるにしても、恐ろしいくらいこの世は僕にとって寂しい場所なのです。どんな人に会おうとも、この寂しさが癒されないのです。


 というのも、自分が抱えた苦悩を言語にして、他者に伝えようとしても、他者には決して伝わらないのです。話せば話すだけ、自分が誰にも理解されない存在であることが分かるだけです。これが寂しいという感情です。


 前書きが長くなりました。ここから、僕の苦悩というものを鮮明に描いていきたいと思います。


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