ヒトノモノ その45 運動
四十五
テーブルに夕食が並んでいる。肉じゃがとコロッケ。アカネは美味しそうだと思いつつも、食べる気にはなれなかった。そんなことを知らないアカネの家族は、食事を楽しんでいた。
「食欲ないの?」
兄がアカネに尋ねた。
「うん」
「じゃあ、ぼくが食べようかな」
兄はアカネのコロッケを平らげた。
「朝、食べてないのに、お腹空いてないの?」
心配になった母親がアカネに尋ねた。
「あんまり、空いてない」
「今日の朝、食べてないの?」
と父親までもがアカネのことを心配した。
「ごちそうさま」
アカネは少しだけご飯を食べて、自分の部屋へと逃げ出した。
食べたら、太ってしまう。アカネはそう思い込んでいた。そのせいで、食欲が失せてしまった。けれども、腹が鳴る。お腹が空いているかもしれない。それでも、食べてはいけないとアカネは自分に言い聞かせた。
アカネは今日の成果を知ろうと、昨日と同じように体重計に乗った。昨日は48キロ。今日は、47キロだった。アカネは1キロしか痩せてないと悔しがった。食事を抜くだけでは瘦せないらしい。アカネは運動をしなくてはならない気がしてきた。
アカネはネットで筋トレを調べた。プランクという体幹を鍛えるエクササイズを見つけた。アカネはベッドの上に肘をついて、頭から足の先まで真っ直ぐ伸ばした。肘よりもお腹周りが痛くなった。20秒、その姿勢のままでいるのが辛かった。けれども、瘦せるためだと自分に言い聞かせて、アカネはプランクを継続した。
次の日もアカネは朝食を食べようとしなかった。
「本当に大丈夫なの?」
「いいの」
アカネは力を込めて言った。
「今日は食べなさい」
「もう行くから」
「待ちなさい。お願いだから」
しぶしぶアカネは朝ごはんを食べた。けれども、すぐに吐いてしまいたくなった。胃液が上がってくるような不快感を覚えた。それでも、なんとか飲み込んだ。食べるという行為自体が不愉快だった。
「もう朝ごはん、いらないから」
とアカネは言い張って、学校に行った。
給食の時間になった。流石に給食は無理をしてでも、食べた。下手に残すとクラスでからかわれるからである。朝と同じくらい、アカネは嫌な気分になった。早く家に帰りたい。人に見られないところで、落ち着きたい。誰とも言えない人の視線に怯えていた。




