ヒトノモノ その43 選挙
四十三
「何位になるかな?」
アカネの兄はテレビの前で釘付けになっていた。アカネの兄は「みーたん」という愛称のアイドルが好きだった。そのアイドルが所属するグループにおいて、総選挙が行なわれていた。兄はそのみーたんの順位が良くなるように、何枚もCDを買っていた。
アカネはそんな兄を好ましく思わなかった。兄の一人の女性に対する執念といったものがアカネにとって、不快なのである。
兄の部屋はみーたんのポスターで埋め尽くされていた。それに、みーたんが出演した番組をダビングしたDVDが年代順に並べられている。兄にとっては宝物の山であっても、アカネにとってはストーカーの部屋のようだった。アカネは、みーたん本人がこの部屋を見たら、どう思うのかが気になった。おそらく、みーたんが普通の人であれば、気持ち悪いと思うだろう。
次々とアイドルの名前が呼ばれている。まだ、みーたんの名前は呼ばれない。兄はみーたんの名前が呼ばれるのを今か今かと待っていた。
アカネは、この総選挙を見ているうちに、今日の格付けリストのことを思い出した。どうして、男の子って、順位をつけるのが好きなんだろう。どうして、男の子って、女の子を採点する権利があると思いあがっているんだろう。アカネは、兄に対してやり場のない怒りをぶつけたくなった。
「12位、みーたん」
「ヤッター」
兄は恐ろしいくらいはしゃぎ出した。右手を天井に向かって、突き出していた。父も母もアカネも白い目で兄を見ていた。
「みーたんが12位だよ。昨年は23位だったんだ。大きな進歩なんだよ。やっぱり、おれがCDを買ったおかげだ」
兄は自分の喜びを他人と共有したいようだった。けれども、家族の者はどう反応していいか分からなかった。
「どこがいいの?」
母親が兄に尋ねた。
「みーたんの可愛らしさだよ。それに、性格もめっちゃいいんだよ。頑張り屋さんだし、気配りもできるんだよ」
どうして、顔だけで選んだわけではないというアピールを必死にするんだろう。本当は顔で選んでいるくせに。アカネは兄のこういったプレゼンが嫌いだった。
「みーたんは性格悪いと思うよ」
父親が兄に反論した。
「そんなことないよ。みーたんはとってもいい子だよ」
どうして、こんな下らない格付けをしあうんだろう。アカネは父親と兄を軽蔑した。




