ヒトノモノ その35 小説
三十五
一週間後のことだった。本田は長岡のもとに行くことにした。長岡は本田とは違う県に住んでいた。そのため、到着するには3時間ほどかかりそうだった。それに加えて、長岡が年賀状に書いてある住所に住んでいる保証はなかった。けれども、真実を知りたい本田にとって、長岡は頼みの綱だった。
市街に入り、本田はコンビニに止まった。そこで、地図のアプリを使って、長岡が住んでいる場所を調べた。とあるアパートに住んでいるらしい。アパートが立ち並ぶため、どこに長岡が住んでいるか分かりづらかった。けれども、なんとかたどり着いた。
103号のインターフォンを鳴らした。
「すみません」
「はい」
室内から男の声がした。
「お久しぶりです」
「誰だっけ?」
「本田です」
「ああ、藤原の後輩くんかあ。何しにきたの?」
長岡はひげを生やしていた。
「藤原さんのお母さんに教えてもらってきました」
「今さら、藤原のことかい?」
長岡は首をかしげた。
「はい、そうです」
「じゃあ、家に入りなあ。汚いけど」
長岡の部屋は缶、ペットボトル、カップヌードルで散らかっていた。長岡は小さいテーブルの上にあるゴミを無理矢理、床に払いのけた。その後、本田が座れるスペースを確保した。
「来客なんてないというていで生きてるんで」
と長岡は言い訳していた。
「何の用?出来れば、手短に」
「今年もあの橋に行きました。その時、橋の上に花が手向けてあったんです。もしかして、長岡さんですか?」
「そんなことを確認しにきたわけ?」
「はい」
「俺じゃないよ。そういう面倒なことしないもん」
「じゃあ、何か心当たりはありませんか?」
「ないよ。花を手向けた人を知ってなんになるの?」
「藤原さんがあんなことになった原因を探っているんです」
「今さら、なんでそんなことを?」
「ずっと、藤原さんの死がしっくりこないんです。身を投げる理由が分からないんです」
「なるほど。知ったところで、何もならんよ。それでも、知りたいか?」
長岡の言い方は意味深長だった。
「何か知っているんですか?」
「ああ。もう教えてもいいころか」
長岡はまるで藤原に言っているようだった。
「ぜひ、教えてください」
長岡は茶色の引き出しの中から、白い厚めの封筒を取り出した。
「これは藤原が死んだあとに俺のもとにきた遺書というか小説だ。この中にすべてが書いてある」
「どうして、今まで教えてくれなかったんですか?」
「書いてある内容がなんともいえないものなんだ。藤原本人の名誉に関わるものだ。本人が隠しておきたいと思いながらも、どうしても俺という他人に打ち明けたかった秘密だ。だから、藤原の家族にも本田さんにもこのことを明かさなかった」
「どんなことが書いてあるんです?」
「それは本田さん自身が確かめるもんだなあ。事件当初よりも今の方が受け入れられると思う。まあ、もし本田さんが来なかったら、一生、誰にも言うつもりがなかったがなあ」
「ありがとうございます」
本田は長岡から封筒を受け取った。封筒はずっしりとしていた。質量だけではなく、藤原の想いがこもっているように感じた。
「めっちゃ、長いぞ。長編傑作だよ。赤の他人が書いたものだと思えばなあ」
本田は長岡に礼を言って、車に戻った。読みたいような、読みたくないような、本田はその狭間にいながらも、車を運転した。




