ヒトノモノ その24 実家
二十四
本田は藤原の実家に行くことにした。もしかしたら、藤原の家族は花を手向けた人が誰なのかが分かるかもしれない。けれども、本田は藤原の実家に電話をかけるのをためらった。本田は藤原の家族に辛い記憶を思い出させるのではないかと危惧していた。昔のことをほじくりかえしてはならないような心持ちになった。ただ、自分が背負ってしまった後悔の念を軽くするための利己的な行為のように思われた。
けれども、毎年のように自分の妻に見苦しいところを見せるのも同じくらい利己的な行為のように思われた。それでいて、本田はいかにも他人を慮っているようでいて、自分は何らかの真実にたどり着くことを恐れているのではないかという疑念を持っていた。だからこそ、何年も藤原に関する問題に目を背けてきたのではないか。結局のところ、自分の問題だった。
本田は電話をかけた。本田は藤原の法事に行くことがあったため、藤原の家族の連絡先を知っていた。
「藤原ですが」
藤原の母の声がした。
「お久しぶりです。本田です」
「ああ、本田さん」
藤原の母は突然の電話に驚いていた。
「突然、すみません」
「どうしたんですか?」
本田は要件を伝えようと思ったが、なかなか言い出すことができなかった。少し、変な間が生じた。
「もしかして、息子のことで何か?」
藤原の母は、ある程度だが、本田の要件を察していた。
「まあ、そうです。お聞きしたいことがあります。ご自宅まで伺ってもいいですか?」
本田は電話先ではっきりとした要件を言うことができなかった。
「分かりました。でも、だいぶ昔にお話したこと以上にお伝えすることはないと思います。今さら、どうしたんですか?」
本田と同様、藤原の家族も藤原の死の理由がよく分かっていなかった。
「あの橋に行ったんです。そしたら、そこに花が手向けてあったんです。もしかしたら、誰かが花を手向けにきたのだと思って」
「どなたでしょう」
藤原の母には心当たりがなかった。
「もしかしたら、その花を手向けた人が何かを知っているのではないかと」
「そうなんですね」
「はい」
「分かりました。三日後にお待ちしております」
「ありがとうございます」
本田が思ったより、藤原の母の反応は淡々としたものだった。それだけに、本田は驚きを隠せなかった。なんだか、自分だけがずっと藤原の死を引きずっているような気分になった。




