表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒトノモノ  作者: Kusakari
ケイタ パート2
23/120

ヒトノモノ その23 父親

二十三

 「わざわざ、来てくれてありがとう」

男は頭を下げながら、感謝の意を表した。

「あなたには感謝しているわ」

「感謝されるいわれはないよ。ただの罪滅ぼしだよ」

「そんな、罪滅ぼしだなんて」

「あのとき、ぼくは間違ったことをした」

「悪いのは私よ」

「ぼくが悪いんだ。君から逃げ出したぼくが悪いんだ」

「もうその話はよして」

女はきっぱりと言った。


 カフェには、パソコン作業をするサラリーマン、試験勉強をする大学生にあふれていた。その中で、二人の話はひときわシリアスなものだった。

「今日はどうしたの?」

「特別な要件があるわけじゃない。ただ、君のことが心配になっただけ」

「大丈夫よ」

「本当かい?」

「本当」

「一人で子育ては大変じゃないのか」

「もう子育てなんていう年齢じゃないわ」

「それはそうだけど、お金のこととかさあ」

「今までも助けてもらったから、大丈夫よ。なんとか、乗り切れる」

「でも、あの子を大学に行かせるつもりなんだろ」

「それはそうよ」

「ぼくがなんとかする。なるだけ、奨学金がかからないようにした方がいいだろ」

「あなただって、自分の奨学金を返さなくてはいけないんでしょ」

「まあね。でも、あの子にそんな苦労をさせたくない」

「いいのよ。もう私たちのことは」

「そうはいかないよ」

「もう何年もあなたは私たちを支えてくれたじゃない」

「せめて、大学までは面倒をみたい。それがぼくなりのケジメだ」


 女にとって、その優しさはありがたいものでもあり、恐ろしいものでもあった。優しさが大きければ大きいほど、恐ろしさが何倍にもなって降りかかってくるような気がした。けれども、女は男からの資金援助を欲していた。というのも、そのおかげで今の生活が成り立つからである。


 「言うか迷ったんだけど」

男はその先の言葉を言うのをためらった。

「何?」

「そろそろ、あのことをあの子に言っても、いいんじゃないか」

男はあのことと言って、言葉を濁した。

「いまさらよ」

女はあのことの中身が分かっていた。

「ずっと、言わずにおくつもりなのかい?」

「ええ」

今度は女が言葉を濁した。

「そうか」


 男は静かに腕を組んだ。

「もう父親は事故で死んだことになっているわ。それに、あの子は父親のことなんて、気にしてない。いきなり、あなたが父親だと名乗り出ても、どうしようもないわ」

女は語気を強めた。

「そうだけど」

「今まで通りでいいわ」

「分かった。ただ、大学までは援助するよ」


 そう言って、二人はカフェを出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ