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ヒトノモノ  作者: Kusakari
藤原 パート2
118/120

ヒトノモノ その118 邪魔

百十八

 本を読んでいる僕とその女性をミサコさんはずっと退屈そうに眺めていました。

「そろそろ、何かを注文してくれない?」

「すみません。もつ煮込みをお願いします」

「藤原くんは?」

「カレーで」

「いつもカレーね。いいけど」

やっと仕事ができたミサコさんは料理を始めました。


 彼女は『ジキル博士とハイド氏』を読んでいました。僕も読んだことのある本でした。自分が読んだことのある本を読んでいる人に会うと嬉しくなるものです。彼女が本を読み終わったら、僕は話しかけようと思いました。


 そこへ、邪魔が入りました。

「いらっしゃい」

坂下が小さく、頭を下げました。

「教えてくれた本、読んだよ」

とその女性が坂下に言いました。

「そうですか」

と言うと坂下は彼女の隣に座りました。


 「やあ、藤原くん」

「はーい」

と僕は適当に答えました。


 その後、坂下とその女性は歓談をしていました。僕は本を読んでいるフリをして、二人の話を盗み聞いていました。坂下の話を真面目に傾聴している人を僕は初めて見ました。こんなにも心優しい人がいるのだと感服したものです。


 話を聞いているうちに分かったのですが、彼女はミキハという名前でした。それに加えて、スミレさんと同じか、もしくはそれ以上の読書家ということも分かりました。


 二人の話に混ざりたいと思いつつも、僕はきっかけをつかむことができませんでした。仲が良い二人を見て、僕は坂下に対して、嫉妬の念を抱きました。坂下ごときに嫉妬する自分が恥ずかしくなりました。坂下の方が僕に嫉妬するべきだと常日頃から思っていました。


 三十分ほど話したあと、坂下はもつ煮込みを注文しました。

「二人はどういう知り合いなの?」

ミサコさんも僕も二人の仲について興味を持ちました。

「部活の先輩なんです」

と坂下が答えました。

「いつも坂下くんに面白い本を教えてもらうんです」

とミキハさんが答えました。

「へえ。ここの常連は知能指数が高いね。本なんて、全く読まないわ」


 「『ジキル博士とハイド氏』を読んでいたのですか?」

やっと、僕が話すタイミングが出来ました。

「そうよ」

そう言ったきり、ミキハさんは坂下とまた歓談を始めました。僕は会話の糸口をつかむことができませんでした。


 「すみません。帰ります」

「早いわね」

「ちょっと、用事があって」

「また来てね」

僕は会計を済ますとアパートに帰りました。


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