ヒトノモノ その106 異郷
百六
本田は読みかけていた藤原の自伝を手に取り、もう一度、読み進めることにした。
君が知っているように、僕は県外の大学に行きました。自分のことを知らない人だらけの場所に行けば、変わることができるのではないかという期待を持っていたのです。
しかし、異郷の地は切なさを増幅させるための場所でした。異郷の地には、君や家族もいません。改めて、僕は君という人間を友に持ったことを喜んだものでした。
そんなに寂しいのなら、サークルにでも入ればいいと君は思うでしょう。しかし、僕はどうも集団行動が苦手でサークルに入りませんでした。そのため、孤独を紛らわそうとすれば、本を読むしかありませんでした。誰かと接したいと思いながらも、僕は他者というものを恐れていました。
しかし、本を読んでいるだけで、この空虚感が癒されることはありません。本を閉じると、僕は妄想の沼へと自ら進んではまっていきました。
しかし、妄想だけではどうにもならなくなり、散歩でもして気を紛らわそうとしました。僕のアパートから狭い道を抜けると、大通りにでます。その大通りを多くの学生が歩いています。
その中で、男の方がビニール袋を持ち、その隣で女が歩いていました。二人は並んで歩いています。時刻は22時です。こんな時間に二人で何をするのでしょう。どちらかの家に行って、料理でもして、楽しいひと時を過ごすのでしょうか。気を紛らわすための散歩だったはずが、かえって寂しさを誘発させました。
こんな僕であっても、青春らしい何かを味わってみたいのです。一般的で誰もが認めるような青春を感じてみたいだけなのです。しかし、僕にはそんな資格などありはしないのです。スミレさんの面影を追い求めて、レイナさんと結ばれたいと思った時点で、僕は普通の恋愛をすることなどできない人間だったのです。
僕は仕方なく、アパートに戻りました。アパートの天井がやけに高く見えました。一人の人間が暮らすにしては高すぎたのです。




