⑯ 急難救助
バステトが、とある装置のスイッチを押した。すると、金色のビートルの、元々タイヤが収まるはずの部分の4つのパネルが、外に向かって開いた。そして、その4つの穴からそれぞれアームが現れて、クジラの胴体を、外側からそっと掴んだのだ。
「じゃあ、いくわよ!」
彼女はそう言うと、先程のスイッチの隣のボタンを押した。
すると、見る見る、その場のクジラの姿が薄くなり、やがて消え失せてしまったのである。
「……転送完了っと。一応、確認しなくちゃね?」
バステトはそう呟くと、特殊潜航艇で時空旅行機まで戻り、次いで、その時空転位装置を作動させた。
彼女の機体が出現した先は、クジラの故郷よりも、陸地の面積が多い惑星だった……実はコレ、隣の時間軸の、同じ惑星なのだ。
ココでは、たくさんのシロナガスクジラたちが生活している。先程の彼が、水面に現れ、潮を吹く姿も見られた。どうやら移動は上手く行ったようである。
『達者に暮らしなさいよ!』
例によって、スピーカーを使って、クジラに声を掛けるバステト。彼は『ありがとう!これで寂しくないよ。』と、ご機嫌な声で答えた。
バステトは満足し、その時空をあとにした。
彼女が、猫の惑星の、ミケーネ王子の城まで戻ると、肝心の城主の姿が見当たらない。
「あのヒトったら、また、どこかでほっつき歩いて居るのね?……まあ、イイわ。」
バステトはオリハルコン製の武具を外し、剣を置くと、シャワー室に急いだ。
「潮風も塩水も、嫌いなんだよなあ……早くお湯を浴びなくっちゃ。泳がずに済んで、ホントに良かった。全く、サン・ジェルマン様々だよねえ。」
サッパリした彼女は、バスローブを纏うと、空腹を満たすために、冷蔵庫を開ける。
「今日は、ミケーネが居ないし、イイわよねえ?」
そんな独り言を口にしながら、中から取り出したのは、巨大な骨付き肉だった。何の肉かは分からないが、マンガでよく見る、例のアレである。
塩・胡椒を軽く振って、高速オーブンでコンガリ焼くと、辺りにイイ匂いがただよう。待ち切れないように、焼けた肉を取り出すと、バステトは豪快にかぶり付いた。まるで、海賊の食事だ。
彼女は、たった5分足らずで、10kgは有りそうだった肉の塊を平らげると、残った骨を、有機物リサイクルボックスに投げ込んだ。
そして「あ〜あ、顔がベタベタになっちゃたわ。また、シャワー浴びなきゃ……。」と呟くと、再びバスルームに消えて行くのであった。




