第35話 魔女の助言に女難の相
フリッツは警察隊の隊員に連行されていった。これで魔女の弟子殺害事件は解決し、クロノスの役目は終わる。
と、思ったのだが、シルヴァリアに「少し良いかしら?」と個別に呼び出されてしまった。
レミリアたちはリビングルームで待機する中、クロノスはシルヴァリアと共に調合室にいる。
何があるのか。クロノスは少しばかり身構えるが、シルヴァリアは「別に大したことではないのよ」と微笑んだ。
「貴方は〝前世の記憶〟を夢見ることはないかしら?」
突然の問いにクロノスはすぐには答えられなかった。
何故ならば、彼女は分かっているといった眼を向けていたから。
「妾も同じだから、すぐに分かったのよ」
「まさか、君も……」
「そうよ。ワタシは転生者、この世界とは違う世界からの」
シルヴァリアはふぅと一つ息を吐き出してから教えてくれた。
自分は嫉妬深く、恨みがましい性格だった。誰かを僻み、きつく当たり、そうして事故で死んだ。
気がついたら神獣に育てられていた。そこから魔女となり、生きてきて、恋に落ちる。
「生まれ変わっても性格なんて、そう簡単に変えられないものよ。でも、あの人……リクハルドはそんなワタシを愛してくれた」
嫉妬して、恨みがましくて、酷い言葉をかけたりもしただろうに、リクハルドは優しく受け止めてくれた。
あぁ、この人とならワタシは。そう思った矢先に戦争が起こったのだ。
「彼はワタシに最後の願いを託したのよ」
「それがこの国を守ってほしい、か」
「そう。ワタシとあの人の子供が育つこの国をね」
自分と子供だけになった時、シルヴァリアはフルスティ家に我が子を託した。この国を守れる存在になってほしくて。
魔女の寵愛を受けたままではリクハルドのようにはなれない。荒波に飲まれ、壁にぶち当たって、乗り越えていかなくては。
「この事を知っているのは国王とフルスティ家のみ。他が知らなくても仕方ないことなのよ」
ヨエルはシルヴァリアの子供の子孫だった。だから、弟子にしたのだと彼女は話す。
けれど、その表情は悲しげで、後悔しているようだった。弟子にしていなければ、長生きできただろうと。
「弟子はもう取らないのだろうか?」
「……どうかしらね。フルスティ家の子が弟子に志願してくれば、考えるわ」
愛した人の、我が子の子孫だ。弟子に志願されれば、断ることはできないでしょう。シルヴァリアは困ったように眉を下げた。
「俺が転生者と分かって、何かしたいことでもあると……」
「別にそういうわけではないの。だた、いくつか教えてあげようと思ったのよ」
「教える?」
この世界の事についてならば自分は理解しているし、ある程度の知識もあれば、魔法も扱える。
特に何も困ってはいないのだがとクロノスが首を傾げれば、シルヴァリアは「そういうのじゃないの」と笑った。
「ワタシ、占いができるのだけれどね。貴方、女難の相が出てるわ」
「……」
「そんな嫌そうな顔をしないで。貴方の言動で切り抜けられると思う」
近々、女性関係で何かしらのことに巻き込まれるでしょう。けれど、それは貴方の言動で切り抜けられる。
でも、迂闊な行動は慎む事。面倒な事に発展してしまうからと、シルヴァリアは占い結果を教えてくれた。
「それから、貴方に懐いている子がきっと助けてくれるわ」
「懐いている?」
懐いている。誰かいただろうかと考えて、ぱっと思い浮かんだのはレミリアだった。
彼女は何かとつけて休日に連れ出されるし、構ってほしそうな態度を見せる。
恐らく、聖女故に友人と言える存在が少ないからなのだろうとクロノスは思っていた。
クロノスは聖女だろうと気にせず、態度を変えることはない。そこに懐かれているのではないか。
とはいえ、どうなのかと考えていれば、シルヴァリアに「今、ぱっと浮かんだ子よ」と解答を貰う。
「まぁ、その子がきっかけで巻き込まれるのだけれどね」
「それは付き合いを止めた方がよいのでは」
「あら、貴方はそんなことができるのかしら? 懐いている〝聖女様〟を無下になんて」
それはそれはにこやかな表情を浮かべるシルヴァリアに、クロノスは顔を顰めてしまう。
分かっているなら最初っから言ってほしい。クロノスはレミリアを無下に扱えるかと考えて、無理だと答えがすぐに出た。
聖女としての彼女の信頼は厚く、無下にしたなどと広まれば、ただでは済まないのは想像できる。けれど――
(放っておけないだろう……)
クロノスの中でレミリアは放っておけない存在となっていた。それを分かった上で、シルヴァリアは言っているのだ。
「まぁ、事前に知っていれば、すぐに対応できるでしょう?」
「そうだな……」
「そんなしかめっ面にならないで。何かあればいつでも手助けしてあげるわ」
犯人を捜し出してくれたお礼よとシルヴァリアは言う。
あの偉大なる魔女からいつでも手助けしてくれるという約束を取り付けたのは、良い切り札となる。
なるが、面倒事は避けられないということでもあるのだ。
「あぁ、安心して。ワタシが愛しているのはリクハルドだけだから。貴方にちょっかいをかけることはしないわ」
「そうしてくれると助かる」
「ふふ。では、聖女レミリアの元へ戻りましょうか」
転生者ということは内緒で。しっと指を口元に当てるシルヴァリアは、雰囲気ががらっと変わっていた。
(魔女としての言動をしていた、ということなのだろう)
偉大なる魔女となってしまった彼女に課せられた役割なのかもしれない。
クロノスは「俺の役目は聖女様の助手なのか」と、何とも言えない表情をしてみせた。




