表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第五篇:魔女の弟子を殺したのは誰だ?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/60

第33話 現状から見える可能性

 調合室へと戻ったクロノスはもう一度、周囲を見渡した。けれど、最初に見た時と現状は変わらない。


 何か見逃している箇所はないだろうか。一つ一つ見て回り、薬品棚に目が留まる。魔物の素材が置かれている棚底が少しばかり煌めいて見えた。


 なんだろうかと目を凝らせば、何か粉が薄っすらと撒かれている。いくつかの魔物の素材の前に撒かれて――ただ、一つだけ擦られた跡があった。



「ジャイアントスパイダーの糸……」



 ジャイアントスパイダーの糸が入っていただろう瓶が移動していた形跡がある。他も確認してみるが、魔物の素材はこれだけしか跡は残されていない。


(ジャイアントスパイダーの糸で絞殺……できなくは、ないか)


 ジャイアントスパイダーの糸は複数本の束にすれば、一つの紐として扱うことができなくもない。


 魔物生態学を学んでいるわけではないので、はっきりとした知識はないが、それぐらいはクロノスも知っていた。


 ならば、その糸は何処に。外に捨てたとしても、警察隊がすぐに到着し、辺りを捜索しているはずだ。下手なところには捨てられるはずもない。


(国を守った魔女の前で手を抜いた捜査などできないだろうからな)


 手を抜くようなことがあれば、魔女の裁きが下る。信用を失うようなことは警察隊はしないだろう。


 隠し持っていることはできない。三人は疑われて持ち物検査ぐらいはされているのは想像ができる。


(魔女がすでにやっていそうだからな)


 今のシルヴァリアならばやっているとクロノスは思った。あの眼を見ては、そう感じてしまうのは仕方ない。


 隠せる場所はとクロノスが周辺を探していれば、レミリアがテーブルの上に置かれた本に目を通していた。



「どうした、レミリア聖女」


「あ、いえ。ヨエルさんは薬の調合中に殺害されたのだろうなと思って」



 ほらと本を指さす。魔法薬学書だろうその本には薬の調合のやり方が記されていた。


 魔物の素材を使った魔力回復促進剤のレシピようだ。細かく手順が記載されており、薬学に詳しくなければ何がなんだが分からないのではないだろうか。


 クロノスもなんとなしにその開かれたページを読んでみる。


(薬草三種類、百合の花、マンティコアの唾液……)


 用意する素材をどうやって調合していくか。指でなぞりながら読み進めて、クロノスはぴたりと止めた。


【調合する時の注意点。

 マンティコアの唾液が薬草を煮詰めたものと上手く混ざらずに、分離してしまう場合はジャイアントスパイダーの糸を繋ぎに使うこと。

 ただし、ジャイアントスパイダーの糸は水に溶けるが、お湯で戻る性質あり。

 細かく刻んですり潰し、水でしっかり溶かしてからぬるま湯でゆっくりと混ぜて、マンティコアの唾液と合わせていくこと。】


 水に溶けて、お湯で戻る性質。クロノスは水と視線を移す――水槽に浮かぶ数匹の魚の死骸。



「レミリア聖女は魔物について詳しいだろうか?」


「そこまでは……。ただ、精霊たちが詳しいですね」



 私の知らないことを精霊(彼ら)は教えてくれる。魔物と対峙する時も特性を教えてもらい、切り抜けることもあるのだとレミリアは教えてくれた。



「では、その精霊に確認してほしいことがある」


「なんでしょうか?」


「〝ジャイアントスパイダーの糸に毒性〟はあるか」



 クロノスの疑問にレミリアは精霊たちへと声をかける。すると、ぽっぽっと蛍火が姿を現した。


 蛍火と会話をすること数分、レミリアは「人間に害はないですが」と精霊からの回答を伝える。



「人間には害のない毒がありますね。ただ、水生生物には有毒なようです」



 水生生物には有毒である。水槽の魚の死、もしかして――


 クロノスはテーブルに置かれたアルコールランプに火をつけた。それから鍋を置いて水槽の水を汲み入れる。


 一連の行動にレミリアが「何をしているのですか」と口にして、黙った。


 温まった水槽の水から糸のようなものが浮き上がってくる。クロノスの行動にレミリアは納得したように「なるほど」と呟いた。



「さて、凶器は見つかったが……」


「犯人となる人物の証拠、ですか」



 凶器は見つかったけれど、問題は犯人たる証拠だ。さてとクロノスは考えて、ふと素材が置かれた棚に撒かれた粉が気になった。


 あれは何か。クロノスの中にある勘が訴えかけてくる。



「シルヴァリア殿に確認したいことができたな」


「確認ですか?」


「あぁ。犯人を見つけるきっかけになるかは分からないが」



 確認しない理由はない。クロノスの言葉にレミリアはふむと考える素振りを見せる。


 それから、「犯人の可能性がある人物に目星をつけていますね?」と、クロノスに問いかけてきた。


 目星といえば、一人心当たりはある。けれど、それはあくまでも可能性であって物的証拠はない。だから、クロノスは言葉の代わりに肩をすくめて返した。



「一先ず、これは凶器であるのは間違いないでしょう。わざわざ、水槽に糸を入れる理由はないはずです」


「その確認のためにもシルヴァリア殿らを此処に呼んできてほしい」


「わかりました」



 レミリアは返事をして調合室を出て行った。その背を見送ってから、煮詰められたジャイアントスパイダーの糸を眺める。


(証拠となりえれば、いいが)


 不安はあるけれど、今は勘を信じるしかない。クロノスは一つ息を吐き出してから、アルコールランプの火を消した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ