表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第四篇:歌劇団員の死に遭遇し――

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/29

第29話 埋め合わせは必要ないのだが

 リベラータは泣き崩れ、レナント率いる警察隊に引き渡された。自分の愚かさに気づいたように、何度もロレッタへの謝罪を口にしながら。


 穢れを祓うことができたので、あとは警察隊が処理することだ。クロノスたちは事務処理を終わらせて解散した。


 が、次の週末の昼下がりにクロノスはカフェのテラスに呼び出されている。誰にとは言わなくとも分かるだろう。



「リベラータさんは大人しく罪を認めて自供してますね」


「そうか」



 もぐもぐとフルーツと生クリームたっぷりなパンケーキを頬張りながら、私服姿のレミリアはその後を教えてくれた。


 リベラータはハンナが工作したのではないかと前から疑いっていたらしい。


 追求できるように楽屋を決めるくじ引きに細工をし、一番奥の人目につかない部屋に彼女を割り当てて、問い詰めたのだという。


 ハンナは誤魔化すこともなく、あっさりと罪を認めた。けれど、悪びれることはなかたのだ。むしろ、邪魔者を排除できてすっきりしたと言っていた。


 殺してやろうと思った。あの子よりも、お前が死ぬべきだと。勢いのまま、氷属性魔法で生み出した氷塊を素手で掴み殴り倒した。


 衝動的であったけれど、殺意を持って何度もハンナを殴ったことを認めたのだ。


 殺意は穢れによって増幅されたものだろう。けれど、罪は罪とされる。

 


「貴方がリベラータさんの情に訴えかけたおかげで、穢れが構築する前に浄化することができました」


「情に訴えた感覚はないが……。憑かれている人間の心情によっては穢れは形を成すことができなくなるのか?」


「はい。穢れは生物が生み出す負の感情を増幅させて、闇に落とし、魂を食らいます。殺意や恨みといった感情が揺らぐと、形成しにくくなるのです」



 穢れは負の感情を利用する。それらを増幅させて、闇に落としてから魂を食らうのだ。


 けれど、負の感情を乱す良心が芽生えた時、穢れは形を作り出せなくなる。どれほど、闇に落ちたかにもよるが、まだ浅い場合はリベラータのようにもがき苦しむ。


 彼女はまだ浅かったのですよと、レミリアはパンケーキをぱくっと食べた。



「あの狭い室内での戦闘は避けたかったので助かりました。ありがとうございます」


「手助けになったようでよかったが……。呼び出された理由はこれだけだろうか?」



 休みを取れたのは有難いが呼び出された理由がそれだけならば、始業前に来てくれたほうがいい。クロノスの疑問にレミリアは「埋め合わせです」と答えた。



「せっかくの休日だったのです。埋め合わせをしようかと思いまして」


「ならば、休みをくれるだけで十分なのだがな」


「欲が無いですね、クロノスさんは。休みも作りますけど、食事ぐらいはご馳走させてくださいよ」


「食事は結構だ。聖女に出させたなど余計な噂が立つ」



 ただでさえ、女性に関する悪評があるのだ。こうやって休日に会うのだって詮索されるのだから、これ以上の余計な噂は立たせたくはない。


 これでも転生した(前世の)記憶を思い出してからは反省したのだ、少しばかり。


 感覚としてはまだ他人事のような記憶だが、反省させるには十分だった。とは言えないので、クロノスは「勘弁してくれ」とだけ返す。



「しかし、埋め合わせはしたいですね。これは譲れないのです」


「君は律儀だな……。俺は気にしていないのだがら、いいだろうに」


「こういうのはしっかりしておきたいのですよ! ほら、何かしてほしいことはありませんか?」



 ぱくりと最後のパンケーキを頬張ってレミリアは問う。そうは言われてもクロノスは特に困ってはいなかった。


 金銭にも地位にも。何か欲しいものがあったとしても、自分で買うことができる。定期的な休暇もレミリアのおかげで取れていた。



「ほんとに欲がないですね、クロノスさん」


「困ったことがあまりないからな」


「そういえば、貴方は公爵令息でしたね……。うーん、では連休を取れるようにしましょうか」



 ミルクティーを飲みながら仕方ないとレミリアは言う。それが今一番の妥協案ではあるので、クロノスはそれでいいと頷いた。


 さて、話はもう終わったのだ。珈琲が飲み終わったら解散しようとクロノスが思っていれば、レミリアにじとりと見つめられる。



「どうかしただろうか、レミリア嬢」


「今、珈琲が飲み終わったら解散しようとしましたね」


「……何かあるのか」



 クロノスが他に何かあるのかと問えば、レミリアは「別にありませんよ」とつんとした返事で返した。


 不満、というわけではない。何かしら思う事があるのか、あるいは。


 クロノスは今までの女性との交友関係で培った、いくつか考えられるパターンを当てはめていく。


 これは恐らく――



「構ってほしいのならばそう言ってくれるか、レミリア嬢?」


「べ、別にそういうわけではー、そのー」


「君、分かりやすいな」



 あまりにも分かりやすい嚙み具合と言動にクロノスは可笑しいという感情よりも驚いた。


 聖女としてのレミリアは周囲の印象通り、凛とした立ち姿に冷静な言動だ。ここまで分かりやすい態度はしない。


 休日の彼女は聖女ではなく、レミリアとして過ごしているということだ。


(さて……)


 クロノスは思案する。このまま適当な会話をして切り上げてもいい。別に付き合う理由がないのだから。


 レミリアはぶつぶつと小言を呟きながらミルクティーを飲んでいる。分かりやすいと指摘されてたことによる照れを隠すように。



「はー……。今日は君に付き合おう」


「え! いいのですか!」



 ぱっと表情を明るくさせるレミリアにクロノスは「予定もないからな」と返す。


(これは放ってはおけないだろう)


 例えるならば、懐いた猫が構ってほしくて尻尾を腕に絡ませてきているといったところか。


 これがギャップというものなのかもしれない。クロノスはこれは仕方ないのだろうと納得させる。


 構ってあげたいと思ってしまったほうが負けなのだ。クロノスは自分はこういった言動に弱いのかもしれないと自覚した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ