表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第一篇:聖女と組んだ最初の事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/29

第2話 聖女と現場捜査

 図書館閉館後、クロノスはロビーで待っていたレミリアと合流し、彼女に着いていくこと数十分。


 王都広場通りの事件があったジュエリーショップ:アンジャベルへとたどり着く。店舗入口の前には現場保管をしている警察隊の隊員が二人立っていた。


 レミリアを見て深く頭を下げると扉を開けてくれる。クロノスを一瞥して眉を寄せた隊員もいたが、彼女に「彼は協力者です」と紹介されては何も言えず。


 クロノスは痛い視線を背中で受けながら店内へと入っていく。窃盗が入ったというのは本当のことのようだ。


 ショーケースや棚が破壊され、テーブルと椅子がひっくり返っている。


 割れたガラス片が散らばっている光景というのはなかなかに酷い。酷いが――


(荒らされすぎている……)


 ショーケースに飾ってあるジュエリーだけを盗るならば、ガラスケースを破壊するだけで済む話だ。


 商談用のテーブルや椅子をひっくり返す必要はない。棚だって壊す必要も。


(ショーケースにあった宝石は安価のジュエリーだったはずだ)


 ショーケースに飾ってあった宝石というのは比較的、安価のジュエリーであることが多い。母アイリーンからもそう聞いた記憶がクロノスにはあった。


 高価なジュエリーや希少な宝石というのは金庫に保管されるのが基本だ。それだけを狙っているならば、店内を荒らす必要はない。



「ショーケースに飾ってあったジュエリーは盗られていたのか?」


「いくつか盗られていたと店長のコンラートさんは言っていましたね」


「全てではなく、いくつか……」



 換金目的ならば安価なものであろうと全て盗っていくのではないか。あるいは珍しいもの以外は興味がなかったのか、それにしても違和感がある。


(本当に盗られたものは必要だったのか)


 クロノスは自分の中にある刑事の勘のようなものが疼いた。



「貴方はあまり事件を知らないようなので簡潔に私が話しましょう。先週の中頃、事件は発覚しました」



 ショーケースを眺めながら違和感を探すクロノスに、レミリアは事件の概要を話し始める。


 朝、店を訪れた店長が裏口で警備員が倒れているのを発見した。急いで店内へと入り、荒らされているのを確認して警察隊に通報し、事件が発覚する。


 店長とオーナーであるアイリーンの立会いの下、保管されていたジュエリーと未加工の宝石を調べたところ、いくつか無くなっていたため、窃盗として捜査されることになった。ここまでが公表されている部分だ。



「穢れの可能性があるので事件が起きれば私に連絡が来ます。今回のは恐らく事件の犯人が穢れに憑りつかれているでしょう。犯人を探し出して、穢れを引きずり出すのが確実な方法です」


「だから、聖女様自ら捜査する、と」


「警察隊の方を信用していないということではありませんよ。けれど、彼らだけでは見つけられないものというのはあるでしょう?」



 例えば、人の想いだとか。聖女である自分ならば聞き出せることもあるでしょうというレミリアの言い分は分からなくもない。


 警察隊に言えなかったことを、聖女様にならと話してくれる民というのは少なくともいるはずだ。



「もう少し情報をくれるか、聖女様」


「第一発見者は店長のコンラート・ヴァーラン、三十代の男性です。朝八時に出勤して、荒らされた店内を確認し、すぐに警察隊へ通報しましたので……三十分も経っていないでしょう」



 裏口で倒れていた警備員は一人で名前はデニス・マッカートニー、二十代の男性。


 見回りで裏口を確認しに行ったところ、背後から襲われて気絶してしまったと証言している。



「売上金が保管されていたほうの金庫は無事でした。おそらく犯人は希少な宝石だけを狙ったようです」


「裏口から入ったという認識で間違いないか?」


「はい。裏口の窓が割られていて、そこから侵入したと警察隊は見ていますね」



 店舗の鍵は店長しか所持しておらず、警備員は正面玄関から裏口へと外周を警備していたと証言している。


 前日、最後に店を出たのも店長のコンラートだ。鍵を持っているのは彼だけなので、店を閉めるのは必ず自分がするのだと話していたとのこと。


 クロノスは話を聞きながら室内を見渡す。割られたショーケース、壊された棚、ひっくり返されたテーブルと椅子、床に散らばるガラス片。


 何かに似ている、何かに。あっとクロノスは引っかかっていた違和感に気づく。


(これは暴れ回った跡だ)


 家探しをしたふうに見えるが、手当たり次第に暴れて荒らされた跡だ。物色してできた状況ではない。



「聖女様」


「なんですか、クロノス魔導司書官」



 どうかしましたかと見つめてくるレミリアに、クロノスは「聖女様は」と室内を指さした。



「この部屋の違和感に気づいただろうか?」


「え? 違和感ですか……穢れの気配以外には……ちょっと待ってください」



 レミリアは改めて室内を見渡してからうむっと考えるように顎に手をやった。暫し黙って、彼女は答える。



「酷く荒らされている点が、例えば……」


「〝暴れ回ったみたい〟に」


「そうです。暴れ回って壊したような……え?」



 レミリアは一つの疑問に気づいたようだ。はっとした表情をみせてから、クロノスへ目を向ける。



「聖女様も気づいた通り、現場は暴れ回ったようだ。ただ、ジュエリーが欲しいだけならば、ショーケースを割るだけでいい。わざわざ、物を壊すなど時間の無駄だ。では、どうして荒らす必要があったのか」



 犯人は荒らしておかなければならない理由があった。例えば、別の犯行を隠すため。別の悪事から目を逸らすためにやった。


 だが、希少な宝石などが盗られているのを見るに、これが目的である可能性が高い。ならば、他に。クロノスは考えられる一つを口にする。



「〝外部から窃盗が入ったことにしたかった〟と、俺は見える」



 ただ、ショーケースを割るだけでなく、強く印象づけたかったのではないか。そうすることで外部から窃盗が入ったと思わせられる可能性がある。


 何故、そうするのか。



「内部の犯行だというのを隠したかったのではないだろうか。店長、従業員、宝石鑑定師、ジュエリーデザイナー。彼らの中に犯人がいる可能性がある」



 内部の犯行であれば店を閉める時間から警備員の見回りまで把握することは簡単にできる。


 金庫の鍵も開け方を知っていれば、時間もかからずに中身を盗っていくことも可能だ。


 希少な宝石という点も理由に挙げられる。宝石専門の窃盗犯ならば見分けはつくだろうが、換金目的だけならば全て盗っていけばいいのだから。



「貴方の推理が正しいのであれば……裏口の窓が割られていたのは、工作となりますね」


「あぁ。だから、確認したい」



 クロノスの意見にレミリアは「こちらです」と店の奥へと歩き出す。スタッフルームの奥に裏口はあった。


 裏口の扉の傍にある窓が割られて開けられているのをクロノスは床を確認する。室内にガラスの破片はあまり落ちていない。


 クロノスは窓へと近寄って割られた箇所を観察する。一見するとただ割れたように見える――その割れ目に溶けたような跡があることに気づいた。


(溶けている……薬品か、いや……魔法だ。僅かだが魔力を感じる)


 魔法が使われている。クロノスは窓ガラスを軽く叩いてみた。音と触れた感覚に分厚いガラスが窓に使われている。



「何か見つけましたか?」


「聖女様ならば感じられるかと思うが、この部分が魔法によって溶かされている」

 


 クロノスがほらと指で突けば、レミリアはのぞき込むように溶かされている箇所を確認して手をかざす。



「確かに魔力をわずかに感じます。恐らく火属性魔法ですね」


「魔法の火は鉄やガラスを脆くしやすい。それを活かして割りやすくしたのだろうな。それから……溶けている箇所は内側だ」



 外から侵入したのならば、内側に痕跡が残るのは不自然だ。


(これに警察隊が気づかないのか……)


 記憶にある前世の世界と違い、科学が発展しているわけではないこの世界では、細かなところというのは見つけられないのは理解できる。


 けれど、魔力を測定することや、現場の状況から判断できる部分を見逃すとはどういうことか。クロノスは疑問を抱く。



「此処を捜査した警察隊は気づかなかったのか? よく調べればこれは発見できたと思うが……」


「レナント捜査課隊長がそんなミスを犯すとは思えないですね。……ここを捜査した隊員の不備の可能性があります」



 あの方は手を抜く人間ではないですから。レミリアの言葉に人的ミスは起こりうるかとクロノスは納得する。


 どんな世界であっても人間が関わる以上は避けられない事なのだろう。


 ここまで現場を見た結果、内部犯の可能性が浮上した。店長か、従業員か。この店に関わっている、少なくとも店内を出入りしている人物が怪しい。



「この店舗で働いている人間に話を聞きたいな。……だが、もう時間が遅いか」


「そうですね。明日、話を伺いにいきましょう」



 懐中時計の針は十九時を過ぎていた。この時間から話を聞くのは迷惑になってしまう。


 レミリアに「明日、また貴方を迎えに行きますので」と、明日の予定を教えてほしいと言われた。


 にこりと微笑まれて、逃げるなという圧を感じる。クロノスは「わかりましたよ」と返事を返すしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ