表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルター・ワールド  ~三画TRAVEL~  作者: 一夜一海
明日香編・第一章
51/51

第七幕・魔眼

 無数に舞う、色とりどりの花弁。

 その一片一片を更に彩る様に、幾度にも交差する二つの影。

 片や白銀の双刃を振るい、突き刺す様に踏み込む

 片や二丁の鉄扇を広げ、舞い踊る様に立ち回る。

 その姿は、まるで蜂と蝶の戦い。

 (タイプ)は違えども、決して互いに勝利と言う蜜を譲る事はなく、恐ろしいほどに華々しい。


「くっ…!」


 ギィンという激しい音と共に、互いの武器が火花を散らす。

 同時に両者の間に少しだけ距離が空いた。

 正確には明日香の方から、間合いを作った。

 これは互角の戦いを繰り広げる最中、彼女が大きな違和感を感じていたからだ。


(…おかしい。これだけ魔眼の影響下でありながら、相手(ヒュージン)には全く動きに淀みがない…)


 明日香の左目に宿る紺碧の魔眼は、既に発動している。

 異世界においても目を見張る体術の彼女だが、第二部隊長(マック)第三部隊長(アクアテイル)に勝利したのは、あくまでこの魔眼の効果が大きい。

 そしてこの効果と言うのが、先ず対象の弱体化だ。

 具体的には対象の身体能力や魔術に、大きな出力低下を引き起こす。

 しかもこの低下には、下限という概念(モノ)がない。

 時間の経過とともに効果は加速し、何れは相手の全活力(エネルギー)を奪い取り、赤子同然にまで追いやる。


第二部隊長(マック)第三部隊長(アクアテイル)でさえ貶めた。同格(ヒュージン)とて、例外ではない筈………しかし)


 明日香の感じている違和感は、一つだけではない。

 実は彼女の魔眼には、もう一つの効果がある。

 それは対象から奪った活力(エネルギー)を、宿主へと変換すること。

 これにより明日香は、ただ相手を視ているだけで、自然と上昇(レベルアップ)する。

 しかも相手は、視られただけで下降(レベルダウン)していくという仕様。

 これがもしTVゲームならば、正しく規格外(チート)である。

 しかし今回は、未だにその恩恵を感じられないでいるのだ。


(…()()を満たせていない?或いは、何か対抗策が施されていると考えるのが自然か…)


 原則として、魔眼の効果は防御魔術では防げない。

 しかし魔眼には発動する為に必ず()()が存在し、その上で成功の()()が必要となる。

 例えば連続誘拐犯バドラック・マージが持つ【魅了】の魔眼は、対象が異性に限定されている。

 その上で異性との視線が、魔眼と交差することで初めて条件を満たす。

 この際に対象となった異性が、同じく宿主を異性と認識すれば成功の判定。

 症状に関しては精神面による個人差が出るものの、いかなる防御魔術でも魅了効果自体には抗えない。

 しかも時間をかければかける程、効力は強くなって行く。


 一方で明日香の持つ魔眼の場合、対象が生物であれば前提は解決(クリア)

 その上で魔眼の効果範囲に、対象の身体が少しでも入っていれば条件を満たし、その時点で成功判定となる。

 ただしこの効果範囲に関しては、大きな制限がある。

 魔眼より常に放たれている紺碧の光、即ち()()が届く所まででしか魔眼の効力は及ばないのだ。

 光域(これ)は正面から凡そ半円を描いたような射程となっており、距離にして約25メートル。

 しかも遮蔽物の影響を受ける為、実戦での効果範囲は数字ほど広くない。

 それでも判定が常時行われる事から、単なる牽制としても非常に効果的ではある。

 また一度奪った活力(エネルギー)は、例え宿主(アスカ)が死んでも決して初期化(リセット)されない。

 魔眼に奪われた者は、再び経験値(ノウハウ)を積み上げる事でしか、人生を取り返す手段がないのだ。

 故に魔眼(これ)を、【簒奪】の魔眼と呼ぶ。


(…ふふふっ、結構。元より死活の瀬戸際。魔眼に頼らずとも、己で切り開くのみ!)


 紺碧に輝く【簒奪】の魔眼と、白銀に煌めく魔封刃・宵闇。

 何方も異世界で手にした、彼女の強力な武器である。

 しかし彼女が持つ本来の武器は、そのしなやかな肉体。

 極真空手を主軸にした、実践を見据えた武術こそ真髄。

 その特有の構えはこの異世界において、唯一無二となる。

 対するヒュージンも唯一無二(それ)を理解し、静かに身構えた。


()っ!」


 掛け声と同時に、明日香は距離を詰めにかかる。

 ただし接近(それ)は、凡そ歩行と呼べる代物ではない。

 空手特有の構えを保ったまま、予備動作を悟らせない、瞬間的な移動。

 前に、横に、斜めにと、その角度は自由自在。

 これこそ彼女が練磨の末に辿り着いた、縮地法である。


(せい)っ!」


 空手における基本中の基本、正拳突き。

 中段へと向けた正拳(それ)は、縮地法に因る特殊な移動により、威力が相乗されている。

 真面に食らえば、骨まで砕くだろう。


「っ!?」


 しかし明日香の正拳は、()()()()()()()()()()()

 正確にはヒュージンの身体が、文字通り花と散ったのだ。

 そして次の瞬間には明日香の背後へと回り込み、二丁の鉄扇を振るう。


(しゃ)っ!」


 多くの格闘技で見受けられる、後ろ蹴り。

 正拳を外された明日香は、即座に反応して繰り出した。

 そして足蹴(これ)も、命中と同時に空を切った。

 同時に明日香は悟る。

 自身が最も得意とする打撃だけでは、決して通じない相手と。


(むん)っ!」


 後ろ蹴りと同じく、多くの格闘技で見受けられる手刀打ち。

 再び背後を取られた明日香だったが、この技を腕に備わる魔封刃と共に放った。

 しかし、魔術へ対抗する為の刃ですら、命中と共に空を切るのだった。


(手応えはある………しかし、打撃も魔封器も同じ反応………決して幻ではない。その上で消えては現れを繰り返す………つまり、相手(これ)は…!)


 明日香の導き出した結論、それは相手(ヒュージン)が分身魔術の使い手であること。

 団員であるテールと同じく、自分とほぼ同じ性能(スペック)の分身を作り出している訳だ。

 その場合、当然ながら分身が受けたダメージは本体には皆無。

 また分身は魔術で構成されている為、生物を前提とする明日香の魔眼は発動しなくて当然である。


(…私に残された勝ち筋は、何処かで分身を操作している本体を見つけること。しかし…)


 明日香の脳裏に過る、最悪の可能性。

 それはヒュージンが分身魔術だけでなく、変身魔術も併用していること。

 分身魔術は分身を高性能にすればするほど、遠隔操作は難しいという泣き所がある。

 ましてや分身がやられた後、敵の背後へ新たな分身を正確に出現させるとなると、そもそも敵が視える位置でなければならない。

 しかし、これに変身魔術が併用されると話は別となる。

 実際に(ゼル)(テール)が揃った時、大国を揺るがす程の攪乱能力を発揮した事は、他でもない団長(アスカ)自身が誰よりも知っている。


(もし………もし、この風に舞う花弁全てが、()()なのだとしたら…?)


 頬を滴る、一筋の冷や汗。

 ヒュージンとの戦闘開始から、周囲を舞い踊る色とりどりの花弁達。

 もし予想が当たっているのなら、明日香はこの全てを打ち払う必要がある。

 それは決して終わらない、マラソンに等しい。


「ぐっ…!?」


 明日香の体勢が少し崩れる。

 ヒュージンによる鉄扇の一振りが、明日香の背中へと打ち据えられたのだ。

 対する明日香はすかさずカウンターを繰り出すが、相手は分身なので命中(ヒット)しても無傷(ノーダメージ)

 そして次々と、際限なく現れる。

 しかもまるで明日香の()()に応えるように、同時に二体三体と増え始める。

 自ずと明日香は四方八方の対応に追われ、次第に防戦一方となる。


「がっ…!?」


 脳天に響く衝撃。

 盛大に揺らぐ視界。

 僅かな隙を突かれ、人体の急所である後頭部へ鉄扇が打ち据えられたのだ。

 幾ら心身を鍛えようとも、明日香が人間である以上、弱点()の摂理には抗えない。

 信じる構えは崩れ、鍛えた体は倒れ、強い意識さえも僅かに途切れる。

 そして必殺()の瞬間を、ヒュージンが見逃す筈もなかった。


決着(そう)は行かぬで御座るよ、ヒュージン殿」


 一瞬だった。

 明日香へと群がるヒュージンの分身達が、一斉に花と散った。

 そして倒れた明日香の元には、伝統衣装(アオザイ)を装う銀髪褐色肌の女性が姿を現した。

 同時に彼女の腰に提げられた、刀剣の鯉口が鳴る。

 しかし(それ)は、抜刀時に因る物ではない。

 既に抜き放った刀剣を、今し方に納めた為だ。


「…出過ぎたで御座るか?」


「…いいえ。最高の助太刀でしたよ、ナトラルさん」


「重畳で御座る。しかし、よもや相手がヒュージン殿とは………難儀で御座るな」


「…ええ」


 明日香は応えつつ、ナトラルが光域に入らないようにと、背中を預ける形で体勢を立て直す。

 幸いナトラルが介入したお陰で、ヒュージンの分身達による攻撃は一先ず落ち着いた。

 しかし未だ周囲には、無数の花弁が舞っている。

 この全てが消えない限り、ヒュージンの襲撃が止んだことにはならない。


「…率直に伺います。我々二人掛かりで、勝機は?」


「…至難で御座るな。ヒュージン殿は部隊長の中でも、特に底が知れない方で御座る」


「…そうですか。ならば…」


「おっと、焦らなくても良いで御座る。此処は(せつ)が、確実な突破口を作るで御座るよ」


「…解りました。では、この場は貴女に託します」


「おろろ?いやに潔いで御座るな?貴公はかなり慎重な方だとお見受けしていたで御座るが…」


「…別に、貴女を信じ切った訳ではありません。けれど、貴女を遣わした彼の事は………嫌でも信じられるので」


 明日香は言葉と共に魔封刃を収納し、眼帯で魔眼を覆う。

 そしてそれ以上は何も言わず、ナトラルが作るであろう引き際を見図る。

 その様子を背中越しに感じているナトラルは、何処か満足げに微笑んだ。

 しかし次の瞬間には威儀を正し、今一度の抜刀態勢へと移る。

 同時に周囲を舞う花弁から、再びヒュージンの分身達が大挙して押し寄せた。


「…いざ、参る…」


 普段は常に閉じられているナトラルの両眼が、この瞬間に見開いた。

 そうして瞳孔を持たない、白銀に彩られた眼差しが露わとなった。

 白銀(これ)は彼女が生まれつき盲目であると同時に、ある特殊性を持つ証。

 実は彼女も、魔眼の持ち主なのだ。

 その対象は無制限であり、判定はこの世界全体にまで及ぶ。

 条件に関しても、ただ両眼を開くだけと言う破格っぷり。

 ただし効果時間は、眼を開いてから僅か10秒だけ。

 それ以上は彼女の意識が()たない。


『…夢幻斬…』


 抜刀、そして一閃。

 斬撃(これ)を10秒弱、魔術も併用し、超高速でひたすらに繰り返す。

 その速度は1秒だけでも、10人は容易く斬り伏せるだろう。

 何よりこの10秒弱は、あくまで彼女(ナトラル)だけの体感に過ぎない。

 他の者は、そして世界は、彼女の眼が開いてからの10秒を決して認知できないのだ。

 認知不可(これ)こそが、ナトラルの魔眼。

 ナトラルからすれば、世界の全体が停止して視える。

 世界からすれば、ナトラルが突如として全体から消える。

 故に魔眼(これ)を、【夢幻】の魔眼と呼ぶ。


「…アスカ殿!」


「…(ええ)っ!」


 制限時間が迫り、再びナトラルの両眼が閉じられる。

 同時に明日香も、現状を認識する。

 何時の間にかヒュージンの分身が消失しただけでなく、周囲を覆っていた花弁が半減していた。

 当然ながら先程までの包囲網は、虫に食われたかの如く穴だらけ。

 (それ)は二人が脱出するには、十分な隙間だった。

此処まで読んでいただき感謝<(_ _)>




拙いですが、もし少しでも楽しんでいただけなら幸いです。




良ければ次回以降も拝読して頂ければ幸い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ