#18
「早見さん達、どうしたんだろう?」
「全く帰ってくる様子がなさそうですね……」
「編集長、少し探しに行ってきます!」
他の編集者から心配の声が上がってきている中、益子は首を横に振った。
それを見た彼らの表情が崩れる。
「なぜですか!?」
「そろそろ帰ってくるだろうと思ってね……」
「で、でも……」
「噂をすれば誰かが戻ってきた」
益子は何かを察したかのように会議室の扉に視線を向けた。
はじめは辛うじて覗くことができるくらいの細さしか開かなかったが、少しずつ開かれていき、新垣が申し訳なさそうにひょっこり姿を現す。
「「新垣さん!」」
そこにいた編集者達は彼女のところに一斉に集まった。
「みなさんご迷惑をおかけしてすみませんでした! わたしはもう大丈夫です!」
「……新垣さん……お帰り!」
「お帰り!」
「お帰りなさい!」
「ほらほら、新垣ちゃん。入っておいで! これから一緒に仕事する仲間じゃん!」
「堅苦しいことはなしですよ? みんな異動してきた者同士じゃないですか」
「……ハイ……」
新垣は迷惑をかけてしまったにも関わらず、「他部署から異動してきた人間」ではなく、「一緒に仕事する仲間」として迎えてくれている。
その時、彼女は目頭が熱くなり、一筋の涙をこぼした。
なろう文庫編集部は元の部署や男女問わず、みんな温かい人達なんだと――。
「もう泣かないでくださいよ」
「みんな温かい人なので、感動してしまって……」
「あとで栗林さんと早見くんにお礼を言わないとですね」
「ハイ」
「そういえば、新垣さんが戻ってきたということは……早見さん達もそろそろ戻ってきてもいいような気がしますが……」
「ですよねー」
「いつの間にか瞬間移動とかを使って会議室に戻って…… 」
「そんなファンタジーじみたことはしませんよ」
「ちょっと、ファンタジー小説の読みすぎですよ」
「あれ? そんなことはないはずですが」
「「あははは……」」
「みんなして笑わないでくださいよ!」
「あっ、栗林さんと早見さんも戻ってきましたよ!」
「本当だ! お帰り!」
「ふ、2人とも、本当に瞬間移動で……!」
「いや、瞬間移動じゃなかったっすよ? ねえ、栗林さん?」
「そうですね。ここは異世界ではなく、現実世界なのでね!」
「そうっすよね!」
「「あははは……!」」
「もう! 笑わないでくださいよ! 特に早見さん!」
穏やかな空気が流れている会議室。
その様子を益子は微笑ましそうに見ていた。
2019/11/24 本投稿