タイトル未定2026/05/05 22:53
ヤモリは取り立ててなんの取柄もない男である。
運動もできないし。勉強もなんか、学年一位とかじゃなさそうだし。ヒョロガリだし。友達がいるのを見たことがないし。
何もない男である。何もなし男。
強いて言うなら顔がやや格好いいというところくらいしかもう……なんか取柄……ないよな……。
顔がやや格好いいのに髪ボサボサでさ!制服もずーっと同じでさ!もったいないよ!顔活かした方がいいよ!
「……あの。我妻さん」
「なに?」
「何を、して、いるの?」
「だってここにバレッタがあったからさ」
何?この……顔……
「よ……陽……」
「ヨッシー何してんの」
「このほーがかわいーって思って」
「何してんの。ヤモリ?」
「ヤモリのプロヂュース?」
な……なんかちっちゃい声で……机に伏せたままのヤモリが「怖い……怖い……ち……近寄ら……」ってなってるのが聞こえる……
「怖くないよ~痛くないよ~」
「……………………」
「リボンと蝶のどっちで攻める」
「男子飾って楽しい?」
「リボンじゃない?やっぱ。だってほら!ヤモリけっこう顔がいいんだよ!ほら!」
ヤモリは白目を剝いたままぴくりとも動かない……
「ヤモリ芸能事務所とか入りなよ」
「絶対そこまでじゃないって」
「恋しちゃった?」
「しちゃうような顔はしてないんだよね」
(その瞬間二宮屋元の心を深い矢が貫いたことを、我妻人吉はまだ知らない)
もっちゃんがヤモリの顔面偏差値診断を行っている。
「……candy☆kidsの橋ノ上の方が可愛い」
「顔キモ」
「リボンを……いやリボンじゃなくてさ……こう……こう前髪を……」
「哀れなり男子学生B。ギャルに囲まれるとはそこは理想郷か地獄か」
「サドンデスは違うのではありませぬかな井上氏……」
「何してんの~?」
「男子禁制!」
「それ男子じゃないの?」
「男子禁制ったら男子禁制!」
「ああでも確かにエロさはない。ヤモリってエロくない」
「ヤモリ童貞?」「逆よみちる。だからヤモリは非童貞なわけで……」
「そ、そろ、そろ、5時間目が、始まる時間なんじゃ、ない、かな……」
「マジだ」
「走れ!」「光成バカ靴!」
「何ヤモリ嫌だった?ごめんて。許して?」
「みっちーもう終わりだよ~~~。次ゴロー先生だよ~~~」
「この!この頑固な寝ぐせだけどうにかしたら!あーっ!あーっ!あーっ!」
五郎の足音が!私をヤモリから遠ざける!
あっ……鞄の中に前髪スプレーあったじゃん……
(あれ使えばよかった~~~~~~~~~~~~~~~~~~)
「であるからして、A=A+Bx+B毎乗と説明ができる。このような方法で数式がどのようにして計算され、この形に表されたのかを……」
(ヨッシー暴れるなバカ!)
(ゴロー先生キレるぞ!)
しょうがないじゃん。一日に昼休みは一回なんだよ?
明日同じことできないじゃんだって。変じゃん。
(ヤモリどうしてるかな……)
見た。
まあ当たり前だけどヤモリはこちらを見てはいない。黒板とか。教科書とか。窓とかを……
……窓。
……窓の方を見て、ちょっとだけ、首を傾げて……
……あっ!
ガラスを鏡にしてるんだ!
やだ待って!ちょっと!見ないで!崩さないで途中だからああそんな違ういやそうじゃ、なくて……
……途中~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!
…さわるな~~~~~!!!!!って祈ってて……さわ……ちょ……今あの……せっかくやってさあ……
崩さないで~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!違う……違うの……
もうわたし……わたしが……わからなくなっちゃう……ヤモリ外さないでお願い屋元……
違うよお……
「それでは本日の授業はここまで。テスト期間までにきちんと課題のワークは取り組んでおくように」
……あれ?
そりゃ。数学なんて。寝てたり別のこと考えてたら10分くらいだけどさ。
あれ?
……まだつけっぱなし。
ヤモリは友達がいないので何一つ困っている様子がない。席を立って座った。
なんででなんで?
まだガラスの鏡を見ている。
気に入った?
気に入ったならずっとつけててもいいよ。顔見ちゃお!見ちゃお!ぐるっと回りこむ。
……
……困った顔。
………………ほんと~~~~~~~に。ほんと~~~~~~~~~~~に。ほんと~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~に。困ったときの、顔……
嫌だったかなあ……
「あっ」
「我妻さん。うん。ごめん。これ。返す。」
いいよ……
「さわっ……はず……」
はず?
「…は、外しても、いい、もの?」
二宮ヤモリにはエロさがない……
それは……もっちゃんの……言った通りのことであり……だから……
「外してたら怒ってたかも~」
「えっ」
「冗談だよ~。今外すね~」
ヤモリは近付くと硬直する。まあ男子って大体そうなんだけど。
「大切なものだったんだね」
そうなの~!




