第二章 アイドルは女王様 - 35 - オンステージ
第二章 アイドルは女王様 - 35 - オンステージ
すると、しばらくの間は何も変わらないように見えたのだが、遠くに輝いていたはずの光が徐々に大きくなっていることに気づく。
どうやら、光がこっちに近づいているらしい。
いや、逆に圭太が光に向かって近づいているのかも知れなかったが、見えているのが光点だけでは判別のしようがなかった。
「光を向いたまま、手を伸ばし続けて」
舞がさらに話しかけてくる。
言われるままに手を伸ばし続けていると、加速度的に光がどんどん大きくなって来ていることに気がついた。
そして、光の大きさが視界全体の半分ほどまで広がったと思った直後、圭太は一瞬で光の中に飲み込まれた。
そして、完全な闇が訪れる。
「「圭太さん。目を開けて」」
圭太の左右から、まったく同時に言われる。
だが、聞こえてくるのは二人の声だけではない。
大勢の声。人混みというには、あまりに統一された声。
ゆっくりと圭太が目を開けると、その声の正体がわかる。
眼の前にいるのは大勢の人。
全員が手にして降っているサイリウムが、色とりどりの光を放っている。
聞こえている大勢の声とは、声援であった。
そして彼らが、サイリウムを振りながら声援を送り続けている相手は、圭太の正面に並んで立っていた。
見たことはなくても、その名前だけなら日本人なら聞いたことがあるはずだ。
圭太の薄い知識でも、彼女達がNHP64であることくらいは分かる。
今圭太の立っている場所は巨大な会場の舞台上であり、今NHP64のオンステージの真っ只中であることがわかった。
かなり驚くべき状況にあることは確かだが、今の圭太に何をどうすることもできない。
それに加えて、アップテンポな音楽が会場全体に流れ始めた。
ほぼ同時に、ステージ上にいるNHP64のメンバー全員が動き始める。
曲が流れ始めたからだ。
電子的に増幅された楽曲が、圧倒的な大音量でファン達が発する歓声を一気に押し流す。
だが、それは長い間ではなかった。
ステージ中央に類が躍り出た瞬間、楽曲の音量をファン達の歓声が上回った。
ファン全員が、類の登場をずっと待ち続けていた。
アイドルに関する知識はほぼ皆無であるが、この程度のことなら圭太にでも理解できる。
だが、実際にはそんなことなどどうでもいい。
現時点における、一番の問題点は彼女達と共に舞台上にいるということであった。




