第二章 アイドルは女王様 - 22 - 怪獣頭部
第二章 アイドルは女王様 - 22 - 怪獣頭部
あまりに巨大な質量をもっているため、途中にある障害物はまるで進行の妨げにはならない。
最初はゆっくりと近づいてくるようにも見えたが、スケール差による錯覚にしか過ぎず実際の到達時間は三十秒ほどである。
人間が走って逃げられるような時間などなかった。
ましてや、周囲を瓦礫に囲まれた状況では空でも飛ばない限り圭太がこの場から脱出することは不可能であった。
そのことは、瓦礫に埋もれそうになった圭太を救い出したミアも理解できていた。
圭太の横に立ち、近づいてくる怪獣の頭部を睨むように見据えているが、他に何かできるというわけではなかった。
シールドの魔法で瓦礫の山を一時的に防ぐことはできても、高層ビルほどもある怪獣の頭を防ぐことはできない。
あまりに質量が大きすぎる。
無慈悲に転がってきた怪獣の頭部は、圭太の存在など気にもとめることなくもう間近に迫っていた。
覆いかぶさるように、圭太の視界は、ほぼ半分ほどが埋め尽くされた。
圭太が、そしてミアが次の瞬間には踏み潰され、瓦礫の一部になってしまう……そう思われた。
だが、王都をまっすぐ縦断し、ロードローラーよろしく平らに均していた怪獣の頭は、突然運動のベクトルを変化させる。
それはたんに向きが逸れたという単純なものではなかった。
運動のベクトルが真逆に向いたのだ。
まるで、ボールをバットで打ち返したかのように。
進行してきたより、何倍もの速度で打ち返された怪獣の頭部は、一度も地面に触れることなく切り離された怪獣の胴体を直撃する。
すると、頭部を失ったとは言えまだ三百メートル近くある巨大な体が、しばらくの間、宙に浮いて吹き飛んだ。
その巨体が倒れる衝撃はそうとうな物があったはずなのだが、圭太が直接それを感じることはなかった。
その瞬間、圭太は空中にいたからだ。
もちろん、自分で跳んだわけではない。
左右から両脇を二人の美少女に抱えられて、跳んでいた。
遥か足元には瓦礫となった世界が広がり、自由落下による浮遊感を感じている。
ビルの屋上から飛び降りた状態と変わらないのだが、不思議と恐怖を感じることはなかった。
左を支えるのは希舞。そして、右を支えるのは上原類。
圧倒的な力を持った、誰よりも圭太のことを愛するトップアイドルの二人であった。
二人は数回の跳躍で、あっと言う間に圭太を安全な場所まで連れてきてしまう。
「圭太さん、こんなに沢山怪我をしてまで……」




