第一章 二人の嫁、襲来 - 26 - 城へ
第一章 二人の嫁、襲来 - 26 - 城へ
口にこそ出さなかったが、目では圭太の笑い顔がぎこちないのは、相手のせいだと言っている。
「そ、それじゃ、どこかに行くとか言ってたよね? 行かなくていいの?」
圭太はこの雰囲気に耐えかねて話しかけてみる。
「そうですね。こんな所で、こんないけ好かない女の顔を見ていても気分が悪くなるだけですから」
類は優しい笑顔になって、圭太に話しかける。
「圭太さぁん。この女があたしのこと、イジメるんですよぅ。早くあたしのお城に行って、二人で気持ちのいいことしましょ?」
舞の方は圭太にしなだれかかりながら、そんな事を言ってきた。
でもすぐに飛び退いたのは、類の鋭い蹴りが舞の体に吸い込まれそうになったからだ。
「ほらぁ、こうやってすぐ暴力に訴えんるんですよぅ? 女の嫉妬は怖いですねぇ?」
離れた舞が茶化すように言うと。
「あたしは、圭太さんの体に纏わりついてるハエを追い払っただけですわ」
しれっと類も答えた。
おそらくこんな調子のやり取りが、この先もずっと続きそうなので、圭太は意を決して言う。
「早く、お城に行った方がよくありませんか? 敵とやらが来ないうちに」
自分ではそれほど強く言ったつもりは無かったのだが、そう言ったとたん無敵アイドルの二人は急に今にも泣きそうな顔になった。
「ぐすっ……そうですね。ごめんなさい、圭太さん。圭太さんに嫌われたらあたし……あたし……」
なんと表現していいか分からないくらい、可憐で儚げな泣き顔になって類が答える。
「すんっ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……圭太さん、舞のこと嫌いにならないで」
舞のほうは本当に泣き出して、鼻をすすりながらひたすら謝ってくる。
どっちもこうしていると、本当に美少女が際立って、逆に圭太の方が守ってあげたいと思わせるから不思議である。
やはり、これが国民的アイドルたる所以なのだろう。
もちろん、そんなのに圭太が耐えられるはずがない。
「ば、ばかだなぁ。嫌いになるわけないでしょ。ははは」
頭をかきながら、誤魔化すように笑った。
それを見て、二人の美少女は同時に圭太の両側から抱きついてくる。
もちろん、おっぱいを思いっきり遠慮なく押し付けながら。
路上でこんな拷問にいつまで耐えればいいのかと思いながら、圭太はただひたすら耐える他なくなっていた。
早く城につくという目的は、この時完全に意味が変わってしまっていたのだが、もちろんそのことは圭太だけの秘密であった。
< 第一章 了 >




