第一章 二人の嫁、襲来 - 10 - 外へ
第一章 二人の嫁、襲来 - 10 - 外へ
ブラック企業としてかならずと言って引き合いに出されるような会社であった。遅刻などしたなら、一体どんなペナルティがあるか想像しただけでも恐ろしい。
特に今週は三件のソフトウェア納品が重なっていた。
もし落とすようなことがあれば、首ではすまない。確実に賠償請求を受けることになる。
普通はありえないが、圭太の務める会社では普通のことだった。
そう考え始めたらもうだめだ。
いきなり夢の中から、現実に叩き戻されたような気分であった。
なんとしてでも、自宅にもどって会社に連絡を入れなくてはいけない。
圭太の思考はすっかり社畜的発想へと傾いていた。
とわいえ、今の圭太はパンいちである。このまま外にでたら、自宅に辿り着く前に警察に連れていかれることになる。
そうなれば、圭太の人生は終着駅にたどり着いたようなものだ。
なので、必死になって着るものを探す。
それでどうにか、ぐっしょりと濡れてはいたが、シャツとズボンだけは見つけることができた。
タキシードのジャケットとYシャツは流れ弾にあたってボロ布になっていたが、シャツとズボンだけでとりあえず問題はないと思った。
とにかく自宅に戻るまでの間、警察に捕まらなければそれでいいのだ。
それに、タキシードなど着て街中を歩き回ると、かえってその方が目立つことになる。
それならまだ、Tシャツにズボンを履いただけの姿の方がマシである。
部屋の中には窓はなかったが、さすがに入口の扉はあった。
二人の美少女のことはそのまま放置して、部屋を出る。
長い、洋館風の通路があって、端までいくと階段があった。
一気に駆け下りて、勢いのまま外に出る。
早く自分の住んでいるアパートに帰らないと、という焦りだけが頭の中にあって、途中で感じたはずの違和感のことなど完全に無視していた。
そして、建物の扉を開いて外に出た瞬間、圭太の感じていたはずの全ての違和感が現実の姿をその前に現した。
「ここ、どこ?」
まったく見たこともない光景が、目の前には広がっていた。
石畳の道路の上には、まったく車が走っていない。
代わりに得体の知れない怪物に引かれた車が、目の前を通り過ぎていく。
通りを歩いている人はまばらだが、箒のようなものに跨った人間なら、けっこうな人数飛んでいた。
石造りの建物はだいたいが二階建てか三階建てで、箒に跨った人間が直接ベランダの上に降りたり逆に飛び立ったりしている。




