3月26日
王宮の奥深く、母エリザの私室は、むせ返るような香水と豪奢な絹の匂いで満ちていた。
「ああ、なんて素晴らしい輝きなの……!これこそ、私にふさわしいわ」
巨大な鏡の前で、母は恍惚としたため息を漏らした。彼女のふくよかな首元を飾っているのは、帝国最大の鉱山から発掘されたという、血のように赤い大粒のルビーの首飾りだ。
その横には、帝国の最高級の絹で仕立てられたドレスが何着も並んでいる。どれも、王都の平民が一生働いても手が届かない、狂ったような値段の品ばかりだ。
「本当によくお似合いです、お母様。そのルビーの赤が、お母様の美しさをさらに引き立てていますわ」
私は目を細め、完璧な感嘆の笑みを浮かべてみせた。
「ふふっ、そうでしょう?サラ、あなたみたいな地味で陰気な娘には、この宝石の価値なんて一生わからないでしょうね。ユーリも可哀想に、こんな娘を妻にするなんて」
母は鏡越しの私を小馬鹿にしたように鼻で笑う。
私は胸の奥で、氷のように冷たい嘲笑を噛み殺した。
ええ、お母様。私には価値などわかりません。ただ、貴女がその首飾りを買うために国庫から引き出した莫大な黄金が、今どこへ向かっているかを知っているだけ。
母がひいきにしている商会は、すべて私の忠実な執事バロウが裏で束ねているダミー組織だ。
母やユーリが「自分たちの特権」として国庫から湯水のように浪費する金は、帝国の超高級品という名目のガラクタと引き換えに、すべて帝国軍の軍資金としてロンダリングされている。
「お母様、もっともっと贅沢をなさってください。女王である私の母なのですから、隣国の皇太后にも負けないよう、王宮の宝物庫の鍵も自由にお使いになって」
「まあ、サラ。たまには気の利いたことを言うじゃない」
笑いが止まらない母を見つめながら、私は静かに目を伏せた。
もっと買えばいい。もっと貪ればいい。
貴女たちが自らの見栄と強欲のために支払ったその黄金はすべて、六日後に貴女たちの肉を裂き、骨を砕く龍騎兵の武装を強化するために使われているのだから。
自分を殺すための刃を、自らの散財でせっせと研ぎ澄ませていることにも気づかない愚か者。
その血のように赤いルビーは、来週には貴女自身の本当の血で染まることになる。
同じ頃、国境の向こう側。分厚い雲海を見下ろす帝国の巨大な軍事要塞。
若き皇帝ガリウスは、執務机に積まれた莫大な黄金の目録と、その上に添えられた簡素な羊皮紙の密書を見下ろしていた。
『第三十三次資金洗浄、完了。すべて計画通りに』
感情の欠片も読み取れない、氷のように無機質な文字。
十年。
ただ復讐という一つの目的のためだけに、実の母と夫を欺き、自国を内側から食い破り、その血肉をすべて敵国である帝国へと捧げ続けてきた狂気の女王。
ガリウスの喉の奥から、低く、愉悦に満ちた笑い声が漏れた。
「……本当に、恐ろしい女だ」
普通の女なら、とうの昔に絶望して発狂しているか、自ら命を絶っているだろう。
だが、彼女は違った。泣き喚く代わりに、自分を地獄へ突き落とした者たちをさらに深い地獄の底へ引きずり込むため、悪魔である自分と平然と手を結んだ。
届けられる緻密な工作の報告と、想像を絶する額の軍資金。それらを見るたびに、ガリウスの内で、顔も知らぬ隣国の女王に対する得体の知れない熱が膨れ上がっていった。
「陛下、全龍騎兵の武装強化、および国境突破の準備が完了いたしました。いつでも出撃可能です」
側近の報告に、ガリウスは密書を指先でなぞりながら獰猛に微笑んだ。
彼女は手紙の中で、常に「国と彼らの命を差し出す」と書いている。つまり、目的を果たした瞬間に、自分自身も死ぬつもりなのだ。
「勝手に死ぬ気でいるようだが……そうはいかんぞ、サラ」
ガリウスは、これから手に入れる狂おしいほど美しい獲物を思い描き、目を細めた。
この俺と十年間も対等に渡り合い、俺の龍たちを自らの金で飼い慣らした女。
そんな極上の女を、安い復讐劇の自己犠牲で死なせてやるつもりなど、毛頭ない。
「待っていろ。俺が直接、貴様のその冷たい鳥籠を叩き壊してやる」
決行まで、あと六日。
それは彼女にとっての終わりの日ではなく、ガリウスが彼女を独占するための、始まりの日にすぎなかった。










