第86話:世界樹の民
「さあ、そろそろ目的地ニャ」
そう言って下降し始める三毛猫国王が乗るドナベ。
リユとカジュちゃんが乗るドナベも一緒に下降し始める。
その後に、モチ、俺、E原が乗る召喚獣たちが続く。
上空からは見えなかったけど、森の中には村がある。
畑で作業をしていた人々が、降りて来る一行に気付いて駆け寄って来た。
「ナムロ様、お久しぶり」
「何年振りですかな?」
ナムロというのは多分、三毛猫国王の名前かな?
集まって来た人々は、一緒にいる俺たちの存在に気付いて視線を向けてくる。
「君たちは異世界人か?」
「そっちの黒髪の子は日本人かな?」
E原に視線が向くと、隣にいる天馬がチラッと主の髪を見て、鼻づらを近付けるとフンッと鼻息をかけた。
途端に、E原の髪が天馬と同じ白色に、その瞳も同じ水色に変わってしまった。
「…あ…無駄に目立つから隠してたのに…」
勝手に色を変えられたE原が困り顔になる。
「さすが転移者」
「神話級の召喚獣とは凄いな」
天馬とお揃いカラーになったE原を見て、人々がどよめいた。
…これって、召喚獣のマーキング的なナニカ?
俺たちの中に混じってれば目立たないし違和感も無いけど、校内で黒髪メンバーの中にいたら目立つよね。
「そっちの2人は不死鳥と福音鳥か」
「ジャシンスとネモフィラみたいだな」
他人事みたいにE原を眺めてたら、話題がこちらに回ってきた。
どうやらこの村にも、モチや俺と同じ召喚獣を持ってる人がいるらしい。
学園でもイツキやチッチがいたので、それほど珍しくはないのかもね。
「今日はこの子たちと会わせたい人たちがいるから来たニャン」
三毛猫国王ナムロが告げる。
「まずは里長に挨拶ニャ」
そう言う国王の案内で、移動しかけたその時、ドサッと何か荷物を落としたような音がした。
何だろう?と思って振り向いた先には、モチと同じ鮮やかな赤色の髪をした男性がいた。
「…エカ…、…アズ…」
その名で呼ばれた記憶は、俺たちには無い。
でも何故か、懐かしく感じる呼び名だった。
「ジャシンス、ちょうど…」
俺たちの隣で、国王が言いかけたところで、赤毛の男性はダッシュで駆け寄って来た。
「帰って来たのか!」
駆け寄った勢いそのままに、ジャシンスと呼ばれた体格の良い男性は、モチと俺を2人まとめて抱き締める。
何? どういう状況?
困惑していると、心の中で、シャボン玉のように何かがはじけた。
この赤毛の男性を、知ってる気がする。
この森を見た時と同じ感覚、温かくも切ない感情が、心の奥から湧き出てくる。
言葉は、自然に出てきた。
「「…父さん…」」
抱き締められた腕の中、モチと俺の声が重なった。




