第48話:モチの火魔法
深緑の森の中、二足歩行の黒い牛みたいな魔物たちに、スタスタと歩み寄る俺。
「「ブモッ?」」
なんだお前は? と言いたそうな声でハモる2頭は、ミノタウロスと呼ばれる魔物。
その肉は、日本の黒毛和牛に似てるらしい。
「「ブモォ~?」」
怪訝そうなミノタウロスたち。
俺は片手に剣を持ってるんだけど、身体強化は使ってない。
大柄で力も強い魔物に、ほとんど無防備で歩いて来る子供を見て、彼等は少し困惑してるっぽい。
左右からジリジリ近付いて来る、巨大黒毛和牛もといミノタウロスたち。
鼻息がかかるくらい至近距離まで接近した2頭。
はい、いらっしゃいませ。
「上位火魔法!」
モチがデッカイ火球を飛ばした。
火球は俺の間近まで来ていた2頭を直撃!
ミノタウロスたちは一気に猛火に包まれた後、地響きを立ててその場に倒れた。
「さすが異世界人、上位魔法が最上位並の火力だね」
モチの後ろで感心してるのはチッチ。
抽選会で最上位魔法セットを手に入れたチッチは、魔法学部の授業を受けに来ている。
今日は野外授業で、夏の森でミノタウロス狩りをしているところ。
モチは覚えたばかりの火魔法を使ってみたら、属性適正値が高く、普通の人より高火力になってるらしい。
そんなモチの右手、人差し指には赤いリングが嵌まっている。
「モチは前世で、不死鳥と契約してたみたいだよ」
ロッサ先生からタマゴの説明を受けた後、教えてくれたのは不死鳥の主のイツキ。
俺が前世で福音鳥と契約していたからピピルと話せるように、モチはイツキの召喚獣ホムラと話せるという。
つまり、モチの前世は不死鳥の契約者。
それなら、俺よりモチの方がいいかもと思い、赤いタマゴとリングをモチにあげた。
不死鳥は老衰死以外なら死者を蘇らせる事が可能との事で、爆死対策にモチの召喚獣になってもらおう。
モチの前世、爆裂の勇者が不死鳥と契約していたのも、自爆魔法対策だったのかな。
「火魔法が使えるなら、それを使ってると孵化に必要な魔力が早く貯まるよ」
ロッサ先生から教わったモチは今、張り切って火魔法を使いまくってるところだ。
「上位魔法をこんなに使い続けてへっちゃらなんて、モチの魔力どうなってるんだろうね」
チッチが苦笑してる。
そういや、モチの魔力切れなんて見た事ないな。
「転移者や転生者は魔力が桁違いなのは聞いてるけど、両方の効果がついてるのかな?」
俺たちのグループの目標数を狩り終えて、木イチゴに似た赤い実を採集している時、チッチがモチに聞いた。
異世界転移も異世界転生も、能力の大幅な上昇があるって話は先生から聞いた。
で、こっちの世界から日本に転生して、日本からこちらへ転移した場合はダブル効果がつくのでは?というのがチッチの予想。
確かにモチの火力は飛び抜けて高いし、ダブル効果はありそうな気がする。
「イオもダブル効果ついてるのかな?」
チッチが話をこちらに振ってくる。
「え、俺? どうだろ?」
俺はよく分からない。
だって、倒したのは黒オーク1頭だけだからね。




