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派遣社員、宇宙へ行く!  作者: 相内みなぎ
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人事部初出勤

細山の後を付いてエレベーターに乗る。


「人事部は九階だから」


昨日までとは違って気さくな感じで話しかけてくる。


「あの・・・」


楓は思い切って切り出す。


「何で私が人事部に??」


「それは後で説明するから」


細山はにっこり笑って答えた。


九階に着き、エレベーターを降りる。


目の前のドアを開けるとだだっ広いフロアがあり、たくさんの机が並んでいた。


その入り口に一番近い机に案内される。


「松居さんの席はここね」


「はい・・・」


楓は席に着こうとしたが、その前に再び声がかかる。


「席につく前に少し話がありますので来てください」


小会議室と書かれた部屋に入る。


そこには意外な人物がいた。


「瀧澤さん?」


そこには工場にいた瀧澤がいた。


地味めのワンピースを着ていて、しっかりとしたメイクをしていたので一瞬分からなかった。


何故ここに?


促されて瀧澤の向かいに座る。


細山は瀧澤の隣に座り話し始めた。



「まず、何故瀧澤さんがここにいるのか説明しますね」


「瀧澤さんは人事部の人間なんですよ」


どういう事だろう?話が見えない。


「少しあのレーンの当たりの雰囲気が悪いようだったので瀧澤さんが工場に入って様子をみていたんです」


という事は、スパイ的な?


「で、ちょっと大声を上げていた人は移動になりました。今はひとりで作業しています。ちなみに次の更新はありません」


「ツラくて辞めようとしていた人も移動です。別の棟のレーンにいます」


「で、ここから松居さんの今回の移動についてです」


細山は楓に向き直って話し出す。


「あのレーンがある棟の作業員、皆に話を聞きました。あるひとりを除いて全員が何もない、と答えました」


「さて、その何もないと答えなかったひとりは誰でしょうか?」


「・・・私ですか?」


楓は恐る恐る答える。


確かに楓は何もないとは答えなかった。


その「声を上げていた人」は、やり過ぎじゃないかと思うと答えた。


正義感なんかじゃない。


その場にいる自分も凄くつらくなるし、何よりいつか自分が同じ目に会うかもしれないという恐怖だった。


それに、「宇宙基地ではパワハラはご法度」という話にかけた。


確かに話せば解決してくれるかもしれない、という淡い期待もあった。


口外しないだろうとも思えた。


で、確かに会社は解決してくれた。


そして何故か希望しない人事異動がおまけについてきた・・・。


「こんな理由でって思うかもしれないけれど、イジメは見て見ぬふりする人が一番悪いっていうでしよ?」


細山がいたずらっ子ぽく笑う。


「てのは冗談で」


「こういう事をしっかり訴えられる子は意外と貴重なのよね。特に第三者の立場から言える子は」


「うんうん。特に自分に優しいと悪い人じゃない、良い人ですって言っちゃう」


瀧澤が話に入る。


ああ、それは確かにあるだろうな、と楓は思う。


「その点、松居さんはその人の行動だけを見て、やり過ぎだと答えました」


確かに楓には優しかった。

だから心が痛んだ。


でも、自分に優しいからいい人だというのは違うと楓も思う。


「で、今日から松居さんは人事部です。毎年四月に大勢入社するのですが、この時期に一部の人が移動します。適材適所ですね」


「なので、心配しなくても大丈夫ですよ。あの人たちの移動は瀧澤さんが見た事で決まった事なんです」


「分かりました」


今でもどこかで間違いなんじゃないかという気持ちだ。


「では早速、皆に紹介しますね、こっちに来てください」


細山はにっこり笑ってそう言った。


午前中は人事部の人間、全員に一人ずつ挨拶と自己紹介をして、自分の席に案内された。


「じゃあ、仕事は隣の席の北原さんに教えてもらってね」


細山はそう言って自分の席に戻る。


「取りあえず、お昼に行こうか」


隣の席の北原はそう楓に声を掛けた。

まだ十二時になっていない。


「すったもんだあった後だから、工場の連中に会いたくないでしょ?早めに行ってテイクアウトしよう」


確かに、会いたくない。


楓が人事部に移動になった事で、人事部チクって移動になったんだと疑う人だってきっといるだろうし。


「瀧澤さん、実は十年以上ここで働いてるの。でもいつも食堂ではテイクアウトだしここの会社は会社全体では新年会も歓迎会もないからね。だから工場にスパイに行けたのね」


スパイって・・・


「行きましょう。そのかわり、早めに仕事に戻る事、いいわね」


北原はそう言って立ち上がる。

楓は慌てて自分も立ち上がった。


本気で工場の連中に会いたくない。


食堂では北原がカルボナーラ、楓がカレーライスをテイクアウトした。


そして急いで人事部に戻る。


昼休みの人事部では席の半分ほどの人がテイクアウトだった。


上役らしき人間だけは出前を取っている。


食堂が無料なのでほとんどの社員が

食堂で取るか、食堂でテイクアウトだ。


「朝もテイクアウトして、早めに来て席で食べていいからね。あそこのコーヒーやお茶も飲み放題だし」


北原が示した所にはコーヒーサーバーがあった。


有り難い。


食度の時間をずらせられるのならば、工場の連中に合わずに済みそうだ。


工場の人は作業着に着替える時間が必要な為、人事部で私服になった分時間をずらせる。


朝だけ早めに行って、テイクアウトしてから部屋に戻って支度をすれば合わずにすむ。


昼はこうして十二時になる前に食堂に行ってテイクアウトして、その分早めに仕事に戻ればいい訳だ。


夜も終業後すぐに食堂に直行してしまえば、工場の連中は作業着から着替えてる間にテイクアウトして部屋に戻れる。


取りあえず、ほとぼりが覚めるまで逃げていようと思った。

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