インタールード(1)
昨夜の雨もあって、村を焼く炎はようやくに消えていた。
家々が燃え落ちて、辺りの草原にはまだ埋葬が済んでいない、ほとんどが五体満足でない死体がごろごろと転がっている。
顔を潰された女の死体、全身をずたずたにされた男の死体、上半身だけのまだ幼い子どもの死体。いくらでもある。
昨夜の雨雲がまだ残っている曇天の下、完膚なきまでに村は滅んでいた。
「地獄絵図だな、こりゃ」
心底げんなりとした顔で、ジャンゴが一夜にして滅んだワルズ村の間を歩いている。
その後ろには、ローズとハウザーの姿もある。ローズは相変わらずの能面だが、ハウザーは視線だけで人を射殺せそうな眼光をしている。
「よお、ごくろうさん」
死体の検分と埋葬作業という、気の滅入る作業を延々としている騎士団にジャンゴが声をかける。
青白い顔をしたペース騎士団の面々は、ちらりと見ただけで誰もジャンゴに返事をしない。
自国の民がこんな有様にされたのを目にして、民を守る騎士団が何も思わないはずもない。青白い顔は、あまりの状況の悲惨さに参ったのが半分、血の気が引くほどの怒りが半分だろう。
「お前か、ジャンゴ」
騎士団の中で一人、顔色が変わっていない鉄のような男が口を開く。
「よお、レイ」
獰猛な笑みを浮かべたジャンゴに、レイは冷たい目で見返す。
「国の騎士団に入ったんだってな、よかったよかった。貴族の私兵のままでいるには、お前は腕も立つし頭も切れるし、何よりも固い」
「これで、レイさんと殺し合う必要もなくなったわけだ」
地面の片隅を睨みつけながら、ハウザーが少しだけ嬉しそうに呟く。
その視線の先には、老人のものと思われる焼け焦げて千切れた腕が落ちている。
「ペース国とお前らが敵対しない限りはな。お前らを邪魔だと思っているのは、俺の元主人だけじゃない。気をつけることだ」
言いながらもレイは興味がなさそうだ。
「全く、酷い状況だな、しかし」
顔をしかめながら、ジャンゴが葉巻を咥える。
「ああ、お前と、ジャングルの沼で泥塗れになって殺し合ったあの時の方が、余程気分は爽快だ」
懐かしいものでも思い出すかのようにレイは空に目をやり、
「しかし、騎士団にいればお前とまた殺し合いをするのは先の話になるな。身の振り方を考えなければ」
「そんなに私達と殺し合いたいの?」
表情はそのままにローズは声だけを不思議そうにする。
「いや、殺し合いたいわけではない。ただ、ケジメは必要だろう」
「固いな、相変わらず。生きにくいだろうに」
魔術で葉巻に火を付けると、ジャンゴは煙を吐き出す。
「おい、生存者がいたぞ!」
と、村の隅の方で騎士の声があがる。
途端、場がざわつき、ジャンゴとレイも跳ねるようにそちらを向く。
「ああ、くそ、酷い、神様」
「おい、医術者を呼べ、くそ、くそっ、こんな、本当に生きてるのかよ」
「何でもいいから、早くしろ!」
村の一角が騒がしくなる。焼けながらも、まだ原型をとどめている家々が多い一角だ。
「どうも、酷い状況らしいな」
ジャンゴが葉巻を噛み潰す。
「ああ、そうらしい。生存者がいたのが奇跡だからな、この有様では。推して知るべし、だ」
不愉快そうにレイは顔をしかめ、
「生き残りの情報は隠した方がいいだろう。狙われるかもしれないし、それでなくとも好奇の目にさらされる」
「ああ、まあ、そうだな」
「ジャンゴ、生存者の情報を不用意に漏らすなよ。それをするなら、俺はこれ幸いとお前を殺す」
鉄のような目でレイがジャンゴを見据える。
顔を曲げるようにして、ジャンゴはにやりと笑って見返し、近くにあった焼け残った太い支柱に手を添える。
「レイさん、うちのオヤジがそんなことをしたら、俺がぶん殴るから心配すんなよ」
そのジャンゴの斜め後ろで、ハウザーが嘯く。
また新しく、今度は子どものものと思われる頭を視界の隅に見つけて、不機嫌さが増している。
「おい、くそ、暴れてるぞ」
また、村の一角で声が上がる。
「パニックなんだ、医術者、早くしてくれ、この状態で暴れてたらすぐに死んじまう」
「落ち着くんだ、君はもう助かった、落ち着くんだ」
「ジャンゴ」
そこで、ローズがジャンゴの目を見る。
ジャンゴが無言で頷くと、ローズは騒ぎが聞こえる方向へと足早に歩いていく。
「おい、どういうつもりだ?」
レイが見咎めるが、
「生存者、精神的にもダメージを受けているみたいじゃないか。そういうのについては、うちのローズが世界でもトップクラスだ。お前だって分かっているだろう?」
ジャンゴの答えで、レイは黙る。
「全く」
そして、少しの間の沈黙を破るようにして、ハウザーが呻く。神に祈るように曇り空を見上げる。
「本当に、地獄だな、こりゃ。この光景、一生忘れられそうにない」
「それでいい」
レイが言う。
「忘れるべきじゃあない、こんな光景は。刻みつけなければいけない」
「はっ、本当に、固い奴だ。さぞ生きにくいだろうな」
肩をすくめて、ジャンゴは幾分か短くなった葉巻を吐き捨てる。
葉巻は濡れた地面を転がり、じりじりと音を立てる。




